表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

《『生活する』ために》

 『取りあえず場所を変えよう』。

 シルファーンの合流を待ってからティルトにそう言われ、一同が移動したのは、結局『銀槌シルバーポール』だった。

 何故かリチャードとその相棒、そしてソーレンセンで会った『新入り』の山妖精も一緒だ。

 どうやらこの面子も、『事情を知りたい関係者』という事らしい。

 銀槌シルバーポールへ入ると、ティルトはゼンガーに声を掛け、カウンターの奥の部屋を借りて、そこに全員を通した。飲み屋でもないのに『何か飲むか?』と――――恐らく善意で――――訊ねたゼンガーに、一毛の遠慮もせず統一感のないバラバラな注文をして顰蹙を買った後、ティルトはテーブルに頭をこすり付けるようにして先ずは謝罪してきた。

「いや、ホント申し訳ない」

 身振り手振りを交えつつティルトが説明する所によると、どうやらあの刺客は『連絡ミス』という事らしい。


 ――――ティルトにしても『恐らく』という推測混じりの話になるらしいのだが。


 どうやら、昼間説明を受けた『利用しようとする連中』の中にアスパーンとシルファーンを誘拐して利用する事を『是』とする奴らが居て、それを制止するためにティルトが申請する筈の連絡が行き届いていなかった。と、いう事だそうだ。

 細かい事情は置くとして、彼らは更に自分の部下を利用して、手を汚さずにアスパーンとシルファーンを手中に収めようとした。

 その際に、偶々用心棒として雇われていたのがリチャードと、その相棒の魔術師で、二人もまた、利用されただけだった、という事らしい。

 ティルトはその事情を知って、ギルド員として顔見知りが居れば自分が制止できると判断してアスパーンを探し、その際に馬車を借りたのがブラフマンだった、という事だそうだ。

 『ソーレンセン』期待の新人、ブラフマンが、リチャードやその相棒の魔術師と知り合い、というのは事情としてはおまけの部類らしい。

 因みに、彼らはアスパーンとシルファーンの抱える『事情』については、特に深入りする気がないのか、その辺については深く追求せず、サラリと流してくれた。

 アスパーンの傍らでティルトの話を聞いていたシルファーンは、ひとしきり概要を聞いた後で、僅かに首を傾げて、こんな疑問を口にした。


 にっこり、微笑んで。


「つまり、ティルトが自分の発注してた武器の出来が気になって連絡を後回しにした所為で、ここに居る全員が迷惑をこうむった、と?」


 場が、凍りついた。


 というか、妙に的確過ぎて怖い。

 誰もが何となく『つまり、そういうこと?』と思いながらも言わずに居た部分を、あっさりと言ってのけた。

 そこは言わずにいておいてやるのが今となっては優しさのような気はするのだが、どうやらシルファーンにしてみればそれで済む問題ではないらしい。

 まぁ、実際に来て早々撤収の危機に追いやられた立場としては、気持ちは解らないでもない。

 寧ろアスパーンこそが本来その追求をしなければならない立場なのだろうが、この『寒い』を通り越して『凍て付く様な』空気を生み出す事が正解だったとはどうしても思えない自分がいるのを認めざるを得ない。

 不思議と追求するような気分にならないのはティルトの所為なのか、それとも先にシルファーンにやられて毒気を抜かれた所為なのか。

「……まぁ、平たく言ってしまえばそういうことね」

 シルファーンの一言に対して、ラミスが同じようにティルトに半眼を向ける。

 彼女にしてみれば『だから言ったのに』という感じなのかもしれない。

「だ、だからゴメンって」

 ティルトにしてみれば本当に『まさか』という出来事だったのだろう。

 実際の所、ここに到るまでにどのようなやり取りがあったのかは知らないが、それでも『慌ててとりなして駆けつけてくれた』ということだけを考えれば、ティルトが信義を守ろうとした事だけは疑いようもない。


 これはあくまで『ミス』であって『裏切り』ではない。


 だが、一度約束をした以上、仕事を任せた者同士として見るのならば、当然有ってはならないミスである事も確かだ。

 もっとも、金を払ったわけでもなければアスパーンの方から頼んだわけでもない。

 実質、アスパーンにとっては何の損もない取引だったのだが。

 けだし、失われた物が何一つないのだから、これ以上ティルトを責めるのも酷ではないだろうか。

「それで、あんたはどうするの?」

 問題は寧ろ、仕事上で信義を問われるであろう、リチャードとその相棒の方だろう。

 元より間違いとはいえ、引き受けた仕事を裏切った形になったのだから。

「最初から、引き受けたのは用心棒の仕事であって、誘拐の片棒を担ぐつもりはない。言うなれば見解の相違って奴だが、どちらにしても……」

「暫くは盗賊ギルドの人から仕事の依頼は来ないでしょうね」

 魔術師の方が、リチャードの言葉を引き継いで答えた。

「何だかそれも申し訳ないような気もするけど……」

 恐縮するラミスに対して、リチャードが頭を振る。

「当初は何処かの遺跡に潜るって約束だったんだが、一応契約してる期間中にこうなったからな。或る意味でいい教訓になったよ」

「確かに、契約は期間でなくて内容で結ぶべきでしたね。予定外の仕事の用心棒までさせられる羽目になりましたから」

 魔術師――――今更だが、確かリチャードや山妖精に『マレヌ』と呼ばれていた――――は肩を竦めてリチャードを見た。

 結果的に騙されたのか、盗賊達が最初からそうするつもりで契約を結んだのかは解らないが、いずれにしてもリチャードと、魔術師改めマレヌにとっては勉強する価値のある出来事だったらしい。

 これから同じ道で食い扶持を稼ぐかもしれないアスパーン達にしてみても、他人事ではない。

 ティルトが彼是と世話を焼いてくれて猶、知らないことが山ほどあったのだから、誰かと契約など結ぶ際には『こういうケースも有り得る』という想定に入れておいた方が良いだろう。

 本当はもっと色々なケースを想定しなければならないのだろうが、その辺りについては一々気にしていては身が持たないような気がするので、考えるのはやめておく事にする。

 元より、あまり頭の回るほうでもないし、経験から入手する事の方が忘れないような気もするし。

「どちらかというと心配なのは、今回の件で逆恨みした奴らに個人的に襲われないかなんだけど……」

 『盗賊ギルドの事情』についてはティルトに任せる以外なんの手段も持っていないので、アスパーンの最大の心配は、そこだったりする。

 リチャード達に任せてさっさと逐電するような技量では有るが、アスパーン達を襲った盗賊ギルド員たちは幹部レベルで『手を出すな』と命令されたからといって、個人レベルで大人しくしているようなタイプには見受けない連中だった。

 本来、徒党というのは、『自分の知りようがない水面下』で『顔見知りだけを集めて』組まれるのが最も危険で厄介だ。

 それは、『裏がある』というのなら尚更で、加えて感情的な物が原因だというなら、或る意味で理由が無い事すらあるだけに予測できず、手段を選んでくれない事も多い。

 ティルトの目が届く盗賊ギルド内部でも目に付くレベルならともかく、一部の構成員が個人的に報復のためのネットワークを組み始めたら本当に始末に終えない。

 本当はそこまで心配する必要はないのかもしれないが、都会に入った早々追い出されそうになっている事を考えれば、今後『あとを引く』ような可能性については可能な限り考慮に入れておくべきだろう。

 物凄く単純化して言えば、『怨恨』で行動する諦めない奴が、『仲間を集めて何度も襲ってくる』のが一番厄介だという話だ。

 夜討ち朝駆け当たり前でしつこくされたら、何より先ず、うざったいし。

「……人身売買目的で近寄った連中が、実力差がはっきりした人間に個人レベルで突っかかるとは思えないから、個人の方にそこまでの心配は要らないだろうけど、無いとまでは言えねぇなぁ。逆に、『裏で糸を引いてた』側が、正体を探られることを嫌がって手を打って来ることの方が危険だな。俺の目が届く範囲にしたって、限界があるし……。取り敢えず、ゼンガーに頼んでた住居の斡旋は、ほとぼりが冷めるまで保留にしてもらったほうが良いだろうな。事が落ち着いたら、改めて俺がギルドに掛けあって斡旋してもらうことにさせてくれ。ホントにスマン」

 ティルトが難しい顔をしたまま、再び頭を下げる。

「……まぁ、こうなった以上当面は仕方ないけど」

「あら、『裏で手を引いてた奴が』ってことを言い始めると、実はティルトが一番危ないんじゃない? ティルトの連絡が遅れた所為で要らない失敗をした、とも言えるわけだし。裏があると知れたら、もう自分たちの目的を隠す必要も無いから、形振り構わないかもね」

 アスパーンが答えると、ラミスが悪い要素を付け足す。

 しかも、言っている事に或る意味間違いはなく、それを考え始めると実は影響範囲は広いような気がしてきた。

「そういう事になると、俺達もうかうかしていられないな……。一旦どちらに付くとも無い反応をしてしまった以上、根に持たれているだろうし。結構厄介そうだ」

「そうですね……。特に僕とリチャードは、契約した段階で連絡先まで知られているわけですし」

「連中に寝込みを襲われるのはぞっとしないなぁ……」

 アスパーンはげんなりして天を仰いだ。

 自分にも当然その心配はあるわけだし、連絡が行き届けば数日の間は安全が確保されるだろうが、ウッカリ気を抜いた瞬間に風呂やトイレで襲撃を受けるのは正直きつい。

「そういや昔、恋人を手篭めにされた奴が下水溝に忍び込んで、相手が便所の個室で気を緩めた瞬間に……」

「いやあぁぁぁっっ!! やめてぇぇぇっ!!」

 面白いことを思い出したように妙な事を口走ったティルトの言葉を遮って、ラミスが悲鳴を上げた。

 言わずもがなのような気もするが、『その後』を想像してしまった一同が一様に眉間に皺を寄せて嫌な顔になっている。多分アスパーンも同じ顔になっているだろう。

 ところで、その話はアスパーンも聞いたことがある。

 食事中の方に申し訳ない話だが、酔わせてトイレに追いやって、気を抜いているところを毒矢で狙い撃ったのだ。

 多分、というか、間違いなく、人としてそんな死に方をしたい奴は誰一人として居ないと断言できる。

 復讐心が生んだ、相手の尊厳を最大限に奪う殺し方の一つだろう。

 因みに、バルメースは復興事業と衛生処理を兼ねて、ごく一部の施設困難な民家や農家を除いて下水道と上水道の整備が進んでいる。

 戦後に出来た建築物には下水道の設置が義務付けられているのだ。

 これは疫病対策にもなり、集団生活と衛生面から発生する病気の多くを防ぐ有効な手段と考えられている。

 実は、下水道の設置に関してはアスパーンの実家のあるザイアグロスから考え方や技術が持ち込まれている。ザイアグロスではその特性上、怪我人が多発するため、同時に疫病の発生を防ぐに、衛生面の技術が必須且つ進歩的だったのだ。

 ザイアグロスには近くに豊富な水源が在る事もあって、一部ではその水源から水を引いた『上水道』も存在した。

 まぁ、上水道の方は緊急に清潔な水が必要になる事が多い医療施設を中心とした本当に『ごく一部』だが。

 そんな訳で、バルメースでもその『聞いたことの有る方法』は実現可能というわけだ。

しかし、今そんな話を聞くのは、冗談にしても性質が悪いにも程が有る。

「お前、ロクな死に方しなさそうだよな……」

「いや、俺は間違いなく大往生だって」

 周りの嫌そうな顔を見てニヤニヤしているティルトに一刺ししてみたが、ティルトは相変わらずニヤニヤしたまま答えた。

 正直、カチンと来る。

「立ち往生とかそういう死に方だと思うけど……」

「腹上死とか憧れてるんだけど」

「……それって、大往生って言える死に方じゃないと思う」

 ティルトが腹上死に対してどのようなイメージを持っているのかは知らないが、それは大概、持病を持っている人間の死に方であるし、決して安らかには死ねない死に方だ。

「そこの盗賊君がどう死のうと関係ないが、俺としてはもう少し自衛手段が欲しいな。俺は普通に戦うのならそう簡単には死なないと思ってるが、先刻みたいに不意を突かれることはある。意外な方法で来られれば誰にだって危険はあるだろ? 別に気を抜いて生活するつもりもないが、気を張りっ放しで生活するのも嫌だし、来ると解っているのなら事前に情報くらいは欲しい。それだけでも雲泥の差だ」

 ティルトとアスパーンのチクチクとした差し合いをあまり建設的に感じなかったのか――――いや、元より建設的でないことにかけては語るに落ちているのだけれど――――リチャードが口を挟んできた。

 リチャードが『先刻みたいに』というのは、恐らくアスパーンとシルファーンがマレヌを抜いたときの話だろう。

 同意するようにマレヌが頷く。

「来ると決まったわけではないですけどね。それが今後の鍵で、それはまだ解らないという話ですから」

「あんたはそう簡単に死なないだろうというのはアスパーンコイツとやりあって生きてる時点で疑いようがないが、不意を突かれるのは困るというのは皆一緒だな。特に、コイツに関してはポックリ死にそうではある」

 ティルトはアスパーンを指差しつつ、呆れたようにリチャードとマレヌに答える。

 極めて余計なお世話だが、アスパーン自身が都会に対する知識や経験不足からうっかりヘマをしそうだと思っている時点で、確かに否定できない。

 それにしても、実際に一番うっかり死にそうなのはティルトなんじゃないかという気持ちが禁じえないのは何故だろう。

「取り敢えず、宿は変えるしかなさそうだな。今の場所に居座るのが多分一番危ない」

「僕も、トイレで襲われるのは嫌ですね……」

「う……す、すまん。数日分くらいは俺が負担させてもらう……」

 マレヌの言葉に、ティルトが頭を下げる。

 ようやく冗談としての性質の悪さに気付いたらしい。

「いや、別に構わんさ。正直に言えば今の宿は本当に腰掛け用の仮宿という感じの場所で、それで声を掛けられたのもあると思う。田舎ものという意味じゃ、俺もそっちの彼と大差ないのさ。代わりに、信用の置ける宿を紹介してもらえるとありがたい。安いに越したことはないけどな」

 しかし、ティルトに半眼を向けたアスパーン達(厳密には、苦笑いするマレヌと我関せずといった風情のブラフマンをのぞいて)の態度を意に介さないかのように、リチャードはアッサリと否定した。

 代わりに、とばかりに要求してきたのは、意外にも『拠点』の斡旋だった。

「……宿?」

 ティルトが、何か引っかかる単語を聞いたかのように軽く腕組みをして首を傾げた。

「あぁ。そうか」

 アスパーンも、ティルトが考えている何かに行き着く。

 要するに、リチャードの要求と現状の危機に則して、一緒くたに解決できる方法が一つあったのだ。

「この際、俺達が泊まっているところに来てもらうってのは、アリじゃないの?」

「なるほど。確かに条件的には揃ってるわね」

 ラミスがアスパーンの言葉を首肯する。

 なんとなく、思いつきで言った事では有るが、それが一番いいように思えた。

「『林檎亭』か……」

「さっきの話だと、あいつらに連絡が行っていなかっただけで、本来予定されてた行動は既に始まってるんだろ? だとすれば、俺達がもう一度宿を変えて、最初からやり直すよりは、そっちの方があの人たちにも迷惑が掛からないと思うんだ。調べがつかないわけではないだろうけど、今からこっちの居所を調べるにしても、ギルド経由での調べは既に情報が手に入れ難いだろうし、宿の人たちも事情を察して守ってくれる雰囲気だし」

 今回の一件、最終的にはティルトのミスという事がはっきりしているとは言え、悪意のあるミスではなく、所謂『うっかり』だ。

 アスパーンとしては、出来るのならばティルトのことを悪く思いたくないし、出来る限りは知恵を出して融通の出来る部分は譲ろうというつもりでいた。

 シルファーンはやや『おかんむり』だが、それも単純に一時の感情的なものに見えるし、元より彼女はリチャードに含むところがあるわけでもない。

 あまり気にする必要も無いだろう。

 ティルトへの怒りにしても、出会ってからここまで一緒に旅してきたのだ。

 この程度の出来事で彼らを拒絶するほど、シルファーンの器も小さくはない。

(それに……)

 視線をリチャードに配る。

 ほんの数合とはいえ、本気で仕掛けたアスパーンの攻撃をいなし続けた男だ。

 自分が原因で恨みを買った挙句に、情けない死に方をされるのも何だか寝覚めが悪い。

「……俺としては悪くねぇ話なんだが、アンタ達はこいつらと一緒でも構わないか?」

「……うーん」

 ティルトの言葉を受け、リチャードは少し考えてから、視線をマレヌに向けた。

 マレヌは視線を受けて、僅かに肩を竦めて頷く。

「僕には拒否する理由はありませんね。リチャードが嫌だと言うなら、話は別ですが」

「なら、決まりだな。そちらさんの誰かが嫌でないというのなら、だが」

 リチャードは確認するようにティルトから順に、ラミス、シルファーン、そしてアスパーンへと視線をめぐらせた。

「俺は問題ない。そうでなきゃ、わざわざこんな提案しないよ。シルファーンは?」

「私も問題ないわ。寧ろ、襲われたときにあなたたちと近くに居られる可能性がある方が私たちにとっても何かと助かるし」

 シルファーンは鷹揚に頷くと、それまでの怒りはどこへやら、落ち着きを取り戻して果汁に口をつける。

「あぁ、アタシも問題ないよ。というか、皆ごめんね。何か面倒な事になっちゃって……」

「まぁ、それはラミスの所為じゃないし」

 シルファーンがラミスに答えながら、チラリとティルトを見た。

「はいはい、俺の所為ですよ。えぇ、間違いなく俺の所為です。済みませんでした」

 半眼を向けられ、ティルトは平謝り。

 まぁ、それが本来あるべき態度なのだが、あまり引き摺って欲しくないものでもある。

 アスパーンとしては何となく、複雑な気分だった。

 本人には大いに反省してもらいたいところでは有るので、『気にするな』とは言えないが、気にしたところで今更どうにもならないし。

「……まぁ、一応謝っていることだし、今は良いんじゃないのかのぅ、これ以上は」

 仲裁に入ったのは驚く事に山妖精だった。

 偶発的とはいえ、自分も関わっている話だけに、少々腰の据わりが悪いという事もあるのだろう。

「……まぁ、これ以上言っても仕方ないしね」

 言われて、自分がややしつこくティルトに当たっていた事に気付いたのか、シルファーンの耳が僅かに下がる。

 どうやら自己反省モードに入ったらしい。

「では、これで決まりと言う事で。よろしくお願いしますね、皆さん」

 決着を待っていたように、マレヌは柔らかく微笑んだ。

「当面、ほとぼりが冷めるまでは運命共同体だ。よろしくな」

「いやいや、こっちこそ本当に、迷惑掛けたな」

 リチャードが差し出した手を、ティルトが軽く握り返す。

「ふむ。まぁ、遺恨無く話が付いて良かったの」

 実は内心で冷や冷やさせられていたらしいブラフマンが、溜息をつきながら髭を擦る。

 アスパーンもまた、知らず知らずのうちに大きく息をついていた。

 都会へやってきた初日に、いきなり随分とハードな出来事に出くわしたものだ。

 隣で小さく息をついたシルファーンと、目が合う。

 お互いに似たような事を考えているのが解って、揃って苦笑いした。

 都会は広い。

 いきなりこんな事になるとは、思ってもみなかった。

 出来るのなら、これが毎日でない事を祈るばかりだった。

 と、言うか。

 毎日これじゃ、先ず体がもたないし。

「ほら、決まったところで先ずは『林檎亭』へ行くぜ」

 一息ついていたアスパーンとシルファーンの肩を、人騒がせな草原妖精が叩いた。


【SECOND CASE END】


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ