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《走る妖精たち2》

「それで、小僧はどの辺に居るんじゃ?」

 夕方の喧騒をソーレンセンの馬車で抜けながら、ブラフマンがティルトに訊ねる。

 『馬車を貸せ』。

 唐突にそう言ったティルトに対する、ブラフマンの返事は『ノー』だった。

 当然の返事に食い下がったティルトに対して、ブラフマンが出した折衷案は、 『銀槌シルバーポールに行く名目』で荷台に乗せて目的地まで運んでくれるというものだ。

 ブラフマンが治してくれたとはいえ、怪我をしているティルトのことが気になっているのか、それとも馬車を盗まれるのが嫌なのか、どういった理由かは知らないが人の好い話である。

 加えて、どういうわけかこの山妖精は馬車の操縦に長けており、意外にもスイスイと混雑しているルートを避けて銀槌シルバーポールへと向かっている。

「乗合馬車を使っているだろうから、多分、銀槌シルバーポール近辺の路地裏か公園だ。アイツならきっと、そういう場所を選ぶ」

 アレが『アスパーン・メリス』である以上、奴の思考は『相手にとって不利な場所』よりも、『自分にとって優位な場所』を選ぶ。何故なら、判断のつかない敵の情報を考えるよりも、自分にとって優位な情報を利用する方が、相手の機先を制して短い時間で対応を終えられるからだ。

 本当は喧騒の中で目立つように行動していればおいそれと襲われる事はない筈だが、そこまでの判断はつかないだろうし、ティルトはアスパーンがそちらを選ぶようには思えなかった。

 奴は根本的に、こういった問題を解決する際に、『原因を取り除く』事は考えても、『困難自体を回避する』事は考えないのだ。

 それ故に、間違いなく奴は叩き伏せる事を選ぶ。

 それだけの『根拠』が、奴にそれを選ばせる。

 『メリス家』という名と共に、その身に染み付いている『力』、『教育』、『生き方』が、それを知らないものが戦慄を抱くほど簡単に奴にそれを選ばせるのだ。

「……確か、銀槌シルバーポールから歩いて少しの所に大きめの公園があったのう」

「じゃぁ、先ずはそこへ頼む!」

「応よ」

 ブラフマンが改めて手綱を絞ると、荷馬車はやや減った武器と三種三人の妖精を乗せ、夕方の喧騒を駆け抜ける。

 それにしても、だ。

 ブラフマンの手綱捌きは繊細でも華麗でもないが実に無駄がなく、決まったルートを走るだけの乗合馬車よりもかなりの高効率で銀槌シルバーポールへの道を走っていく。

 実は山妖精という奴は、手足の短さから馬に直接乗れない種族としても有名なのだが、逆にそれゆえに馬車の扱いは上手いのかも知れない。

 まぁ、乗馬の件については草原妖精たるティルトも全く他人のことは言えないのだが。

 いずれにしても、これは嬉しい誤算だった。

「でも、それでも間に合うかしら……」

 ラミスが不安そうに柳眉を寄せる。

 確かに、アスパーンとシルファーンの事だ。

 人間相手にならばそこまでの無茶はしないと思う一方で、何かの『はずみ』とまでは言わないが、逆鱗に触れるような出来事があれば『決して躊躇などしない』タイプのあの二人なら、いつ何が起こっていてもおかしくはない気もする。

 馬車は早くも女王参道を抜けて左折し、ウチボリ通りへ入った。銀槌シルバーポールまでもう少しだ。

「何だか解らんが、急ぐに越した事ないということじゃの?」

「そりゃそうだが……って、ちょっとストップ!」

 視界の端に、或る一団が入ってくる。

 見たことのある集団は、或いは肩を借り、或いは背負われて、ウチボリ通りから女王参道のほうへ急ぎ足で歩いている。

「あいつら。もしかして」

 厄介な知人を厄介な事態から救うより先に、どうしてもやらなければならない事が一つ増えた。


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