(4)
秋穂は入り口から見て、左奥にある誰なのかよくわからない石造の裏側に隠れていた。
ああ、もうレノンもいないし今度こそ殺される。
そう思いながら息を潜める。
銃声がほんの少しの間、鳴り止んだので秋穂は音を立てないようにゆっくりと上半身だけを動かし入り口の方向を覗き込むと、そこに石造の表側に立っている男が見え、目が合った。秋穂はそれを見てすぐに身を戻した。
――どうしよう、どうしよう、どうしよう、殺される。
秋穂は頭の中がパニックになってしまう。そんな時、銃が秋穂の後ろに転がってきた。そしてさっき立っていた男をよく見ると石造に血をつけながら倒れた。そこで秋穂はさっきの男は立っていたのではなく、石造に寄りかかっていただけで――もう、あの時点では瀕死の状態だった――目が合ったときには秋穂のことなど認識もしていなかった。目の前で人が死んだのを見たのは初めてだ。だが秋穂にはまるで、いまだ映画の世界にいるようで実感がなかった。そして銃声の音がまた聞こえてくる。もう一度秋穂は銃声がなる方向を覗きこんだ。
二人の男が大きな噴水周りの壁に隠れながら、
「もう、無理ですよ。これ以上は」
部下は困ったような声を出す。
「うるせぇ、やるしかないんだよ。ここまで来て戻れるかよ」
主犯格である男はなかば投げやりに言う。
「でも、警察も動いてますし」
「警察はこの件に関しては関与はしないはずだったのに――くそっ、あいつら手のひら返しやがって」
主犯格である男は頭を抱えた。
「終わるならせめて、エスコに風穴開けてやる」
――よくわからないけどもめてる? もしかしたら隙を見つけて逃げ出せるかもしれない。
そう少し安堵しながら秋穂が身を戻そうとすると、
「おい」
秋穂は知らない男に銃を向けられていた。
その事に気づいた秋穂は急いで後ろへと身体を動かすが、それ以上は行き止まりだった。
――殺される。なら、なら、あの時みたいにすればいい。
秋穂は銃を掴む。そして秋穂は慣れた手つきで、流れるように銃のスライドを引いて男に驚く間すら与えずにヘッドショットをくらわせた。男は人形が後ろへ倒れるのと同じように倒れた。秋穂はその後銃を落とし、しばらく動かなかった。そして秋穂の目の前が真っ白になった。
「終わったか……。元々ばかな奴だったがここまで迷惑をかけられるとは想像してなかった。」
しわがれ声で老人が呟いていた。
老人は高級車に乗り込むと、部下が走ってやってきた。
「エスコ、あいつ、チェンを見ました。」
ぜいぜいと言いながら、老人に話す。
老人は歪んだ笑いを見せた。
「探し出して、裏切り者は消せ」
エスコと呼ばれる老人は答える。
「おい、あっちから銃声がしたぞ」
主犯格である男が言う。
「見てきます」
肩に銃弾を受けた男がかすれた声で言い、踵を返した背中に三発銃弾を浴びて転んだ。その男が立ち上がることはなかった。
「降伏して出て来い」
警察がマイクを使って叫ぶ。
「ごめんな」
主犯格らしき男がそう一言呟くと自らの頭に銃を突きつけて自害した。そして銃声は鳴り止んだ。
レノンがちょうど非常階段から出てくる。
「終わったみたいだな」
レノンは銃を下げた。
「俺達も行くぞ」
秋穂に向かって叫ぶ。すると、秋穂はレノンのほうを向いた。しかしすぐに立ち上がることは出来なかった。