プロローグ
プロローグ
九月十五日
秋山秋穂の腕時計の針は十時三十五分を回っていた。
また塾で帰りが遅くなっちゃった。
そう思いながら秋穂は最終便に乗り遅れないために塾からぜいぜいと息を切らし、大きく腕を振ってバス停まで必死に走る。秋穂がバス亭に着くと同時にバスも着いた。この時間帯になると人もほとんどいない。今いる乗客は浮浪者みたいに髭をはやし、黒の中折れ帽を深くかぶっている男。その男の格好からだと金色のネックレスが浮いていた。その後ろの席には疲れ切っているのか小皺が多く、おそらく三十路間近であろうOLと秋穂を含めて三人だけだった。そのおかげで秋穂は席に楽々と座ることが出来た。
早く寝て、明日の学校の用意をしなきゃな。
そう思った時に秋穂はふと、運転手のほうを見る。さっきは気づかなかったけど、あの人、体が透けてる……よね?
秋穂は恐怖やら驚きやらが交じって声を出す事も出来なかった。
思わず秋穂はバスに乗っている二人も同じことになっていないか見てみた。しかし、二人とも体が透けてる、なんてことはなかった。それに二人とも寝ていてそのことに気づいている様子もなかった。
それを見て、だんだん秋穂は驚きつつも自分の目の錯覚か何かではないかと思って、もう一度秋穂は目をこすって運転手を見た。先程と変わらずに透けていた。
うーん、おかしい。
勇気を出して秋穂は運転手に近づくことにした。秋穂が席を立つと、「危ないので席にお座りください」という無機質な言葉を運転手は繰り返し秋穂に注意する。
しかし、その注意を無視して、運転手のもとへゆっくりと秋穂は近づいていく。
秋穂が運転手の顔が見える距離まで近づこうとした瞬間、バスのスピードが急激に上がり、秋穂は立つことも耐えられなくなり、座り込んでしまった。
事故? もうなにがなんだか分からない……。
そして秋穂は落ちていく感覚を味わいながら意識を落とす。