お題:体育 絶叫 誰得
開始2回目にして時間切れしてしまった…………(汗
ていうか、お題に誰得とか入れてる時点でまともなもの書かせる気ないなあの親。
カオス。
今の現状を一言で言い表すとすればその一言に尽きる。床に伏す生徒やら叫び声を上げる生徒やらで満ち溢れていた。
さて、なぜこんなことになったのかを話したいと思う。話のはじめはこの授業の最初、そう、この体育の授業の始めに戻そうと思う。
「退屈だ」
そう体育教師は言った。
それにしても授業開始早々教師失格ではないかと疑いたくなるセリフを吐く教師である。
ただ、これだけならただの面倒くさがりだが、この教師はそれでは終わらなかったのが特に問題であった。
「えー、今日はみなさんに殺し合いをしてもらいます」
「「「断るよ!」」」
「……今のは冗談だ」
生徒全員のツッコミにさすがの体育教師もたじろぐ。
「今日はみんなに鬼ごっこをやってもらおうと思っているんだ」
えー、とか面倒くさい、とかいう言葉があちらこちらから聞こえる。
「もちろんただの鬼ごっこじゃない。この箱の中にお題を書いた紙が入っているから、そのうちの一枚を引いてその条件で追ったり逃げたりしてくれ。最初の鬼は出席番号が8の倍数な5人な」
またもやブーイング。特に番号が8の倍数である5人から。
「異論は認めん。真面目にやらないと成績落としちゃうぞ」
今度は生徒全員でブーイング。とんだ職権乱用である。パワハラで訴えられないだろうか。
さて、全員文句タラタラではあるものの多少興味はあるらしく、意外と素直にくじを引いていく。
「うさぎ跳びって……どうゆうこと?」
「お前はまだマシだ。俺なんて匍匐前進だぞ」
かく言う僕もクジを引く。
さてと、僕のお題は――
――――二人三脚
「一人で!?」
寂しい奴というかもはやどうやったらいいかわからないレベルである。
「あのー、先生。これはどうしたらいいんでしょうか」
「んー? ああ、二人三脚か。確かそれは二枚入れておいたはずだからもう一人と組んでやってくれ」
「……はぁ」
ずいぶんと適当な教師である。
そんなことをして男女で組むことになったとしたらどうする気なのだろうか。小中学校でのキャンプファイヤー時に行われるオクラホマミキサーの時に「男女で組んでくださいね」と言われた時に似た気まずさが醸し出されるではないか。
…………誰だ、フラグとか言った奴。
兎にも角にも組む相手を見つけなければ
「二人三脚を引いた人はいませんか」
「あ、私です」
…………ほら、言わんことじゃない。誰かがフラグだなんだ言うから実際に女子とあったってしまったではないか。
僕は比較的、人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。年度の終わり近くならともかくはじめの方ではほとんど知らない。日頃接点がない女子ともなれば知らない人は滅多にいない。
しかし、その女子のことを僕は知っていた。
一年の頃、定期テストで全教科の全テストを9割以上の点数を叩き出した我が校きっての秀才、北川さんだからだ。
「えっと、飯田君だよね」
「あ、はい、そうです。君は北川さんですよね」
「うん」
意外だ、特になにも有名でなく一年の頃クラスが違う僕の名前を知っているとは。
それとも、それが普通で僕がダメなんだろうか?
「えっと。足を結ぶ紐かなんか持ってますか?」
「紐は持ってないけどハンカチで代用していいですか?」
何ぃ!? ハンカチだとぅ!
共学とはいっても僕のような女子に接するのは苦手です、といったような男子としては女子のハンカチで互いの足を縛り付けるというのは恐ろしく魅力的な話ではある。
あるのだが。
「い、いや。長さがちょっと足りないんじゃないかな。確か倉庫にリレー用のタスキがあったはずだからちょっと長いけどそちらを使おう」
「そう?」
そういった選択肢を選べるようであればそもそもこういった状況にはなっていないわけでありまして。
ええそうですよ。どうせヘタレですよ。ヘタレで悪いか。
「各人好きな時に出て行ってくれ。範囲は学校敷地内。鬼は減らず、増えるだけのルール。鬼の出発は10分後。授業終了10分前にここに戻ってこい。以上」
まさかの放任である。それともどこかで高みの見物を決め込む気なのだろうか。
「どうする?」
「他の人達はどうかは知らないけど僕たちは二人三脚で転びやすいと思うんだ。体育の授業で怪我してもつまらないし、早いうちにできるだけ遠くに逃げて鬼とのエンカウント率を下げよう」
まあ、本音としてはあまり走りたく無いのでエンカウント率を下げようとしているのだが。
そして移動である。
案外、初めての相手でも掛け声さえかければそれなりに二人三脚できるもので、大した苦もなく体育館から校舎を挟んだ反対側についた。
「おーう、はじめー。お前もこっちに来たんかって――何!? どういうこと! なんで始は女子と二人で二人三脚なんかしてんのさ!」
「泣くな鬱陶しい。お題で二人三脚が出ただけだ」
ついでに始というのは僕の名前。さらについでにこいつは榊原康太。
僕とこいつ、河合牛太郎でよくつるんでいてクラスからはバカトリオと呼ばれている。――――なぜだ。
始や康太はいいとして牛太郎は親のネーミングセンスを疑う。牛太郎の両親は彼が生まれてくるときに何か嫌なことでもあったのだろうか。
「それにしても始も同じこと考えとったんな」
「この調子だとギュウのやつも――――」
その時、向こうの方からワーだの、ギャーだの叫び声が聞こえてきた。
「…………なあ康太。ギュウは出席番号何番だったっけ」
「確か8番だったと――――」
「こうたぁ、はじめぇ。そこを動くなぁ」
僕と康太の頬を汗が伝う。
校舎の方を見るとそこには猛スピードで走ってくるギュウの姿が。
ここでギュウについて少し話そうと思う。
ギュウは陸上部に所属していて砲丸投げの選手だ。圧倒的に恵まれたフィジカルで砲丸を投げるその姿は名前に劣らぬものがある。
そして、今のギュウの姿はいつものそれから恐ろしくかけ離れた物だった。
振り返った僕らの目に入ってきたのはフリフリのドレスに包まれた筋肉質の巨漢の姿っだった。
「ギャー!」
僕ら三人は絶叫した。
後で聞いた話だと、ギュウは「女装、男装」というクジを引き、演劇部が去年使っていたドレスを無断拝借したらしい。
はちきれんばかりに着こなされているドレスは、その時の僕らに凄まじい恐怖を植えつけたのだった。
「「散開!」」
僕と康太は咄嗟に駆け出す、が僕は転んだ。北川と足を繋いでいることを忘れていた。
「北川さん! 立って! 逃げなきゃ」
「こ、腰が抜けちゃった」
「な、何ー!?」
って、驚いている場合じゃない。
「北川さん。ごめん」
「え?」
北川さんの腰に腕を回し荷物を抱えるように持ち上げて走り出す。
「ぎゅぅうたぁんでぇす。待てやコラ!」
「待てと言われて待つ馬鹿は居んわ! タンをつけても全く可愛いくねえかんな!」
「というか名乗りが焼肉でいいのかよ!」
僕らは必死で逃げるが方や荷物持ち、方や後ろ歩きであり、恥ずかしい格好ながらも動作に何不自由ないギュウ相手にどんどん差が詰まっていく。
「始! このままじゃ追いつかれんぞ」
「校舎内に逃げ込もう。やつの巨体じゃ障害物があれば不利だし、人目があるところには行きづらいはずだ」
とはいったものの思った以上にノリノリなギュウの様子を見ると人目の方は期待できないかもしれない。
ドタバタとやかましく玄関に入る。
そして――――
「失礼します」「失礼します」「失恋します」
すぐそばの教室に飛び込む。授業中に非常識ではあるが構うもんか。その件で教師に怒られるより今、ギュウに捕まるほうが怖い。
僕らは机の間をすり抜けて、ギュウは机を跳ね飛ばしつつ走る。
たちまち教室は怒声やら絶叫やらで包まれる。
「失礼しました」「失礼しました」「失恋しました」
ちぃ、これでも振り切れんか。ていうかギュウ、お前は今の入室と退室のセリフをギャグで言ったつもりかもしれないが、その格好だとシャレにならんぞ。
「くそぅ! どうやったら振り切れるんだ」
そう言いながら通りすがりに匍匐前進をしている奴にトレイン(ゲーム等で自分を追っていたモンスターを他人に擦り付ける行為)を試みるものの、一瞬でタッチ&ゴーされる。
「このままじゃ共倒れだ! 二手に別れんぞ」
「了解!」
僕はそのまま直進、康太は階段から二階へ上がろうとする。
後ろも見ずに走っていると二階から悲鳴のような声が。すまん康太。次会うときは敵同士だな。
手近な空き教室に飛び込み、息を整える。
「えっと、飯田くん大丈夫?」
「あ、うん。まあ」
でも次からは自分で走ってください。
「でもすごく息切れしてるし。本当に大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。まあ、ちょっとばかし想像より重かったけ――――」
次の瞬間。頬につよいしょうげきをうかけ、視界が回転した。
理不尽である。
しばらくそこに留まる。
外では相変わらず死闘が続いているらしく、あちこちで大声が聞こえる。
「まあ、ここに居ればもうしばらくは――――」
トンッ、という軽い足音。僕たちの間に緊張が走る。
「悪ぃーごは、いねがー」
チクショー!
こっからどうやったらラブコメになるんだ。
自分の実力のなさに泣きたいです。