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スランプです・・・。この主人公、動かしづらいんです・・・。
はっと我に返ったのは、地面に足がついたときだった。
「す、すみません」
(何やってんの、私!!)
一瞬前の状況を思い出しての恐怖と、歌を聴かれていたという羞恥と、また相手に迷惑をかけたという罪悪感と、様々な感情がめまぐるしくイチカの中を駆け巡る。そしてもうひとつ、よりによって何故、彼の上に落ちてしまったのか、と。
(と、とりあえず落ち着こう・・・・)
一つ、息をついて笑みつくる。日本にいたときからの習慣だ。つねに顔に笑みを張りつけること。
「ありがとうございました」
「大丈夫?怪我は無い?」
さっと駆け寄ってきてくれた天使のような青年。たぶん、声をかけてくれたのは彼だったと思う。その声に反応しきれなかった、自分の運動神経が悪いのだ。
「はい。大丈夫です」
意識的に笑みを深める。そうすると、相手はほっとしたように息を吐いた。
「良かった。こんなに天気がいいからね、雨は降らないと思ったんだけどね、まさか人間が降ってくるとは思わなかったよ。世の中何が起こるか分からないもんだね、イージス?」
「・・・・・・・・」
柔らかに笑う彼とは対照的に、騎士の彼の表情は堅い。
つられて引きつりそうになる頬を、必死で動かして笑みを保つ。
「・・・次はない」
「・・・はい、申し訳ありませんでした」
堅い騎士から落ちてきたのは、静かな言葉。彼の声に一瞬肩が揺れたのは、彼を警戒してのこと。どうやら、かなり自分は彼が苦手らしい。まだ数回しか会っていないのに―――――――――。
その様子に、やれやれといった感じで肩を竦めるのは天使の青年。
「相変わらずストレートだよね。ごめんね『次も僕たちが通りかかるとは限らないから、危ないことはするな』って言う意味ね」
「・・・・はい」
天使の青年がそう言うのなら、そういうことにしておこう。本当は、『怪我をされたら面倒だから』、とかかもしれない。なんせ、眉間に盛大なしわが寄っていらしたから。
「そうそう、今日はあるものを渡しに来たんだ」
「???」
怪しい人物である自分に渡すものとはなんだろう?疑問とともに青年を見れば、彼は笑みを浮かべたまま視線を騎士の青年へと向ける。
(えっ、もしかして・・・・・)
てっきり、天使の青年の方から何か渡されると思ったイチカの期待は、あっさりと裏切られる。
騎士の青年が懐から取り出したのは、長方形の箱。日本と違うのは、それが紙ではなく、木で出来ていることぐらいだろうか。
「これを、肌身離さず身につけておけ」
「えっ、そんな・・・・受け取れません」
アクセサリーの類いなのだろうか?どちらにしても、イチカに受け取る権利はないような気がする。
素直に受け取らないイチカに苛立ったように青年の眉間にさらに深いしわが出来る。それに、びくりと肩を揺らすのは、もう条件反射かもしれない。笑みが一瞬崩れる。
怯え――――――――。
彼の何がそんなに怖いのか分からないが、一瞬見せてしまった本心に動揺する。すぐに笑みを被り直すが、彼は気づいたかも知れない。
(何故、彼の前だとうまく笑えない・・・・)
内心の同様と、少しの苛立ちを押し隠すように、笑みをいつも以上に意識する。イチカにとっては大きな変化も、周りから見ればささいな事。気づく人間なんていない。そう言い聞かせた。
「だから、イージスは言葉が足りなさすぎるんだよ。それじゃあ、相手も意味が分からない」
またやれやれと言った形で間に入ってきたのは、天使の青年。
騎士の青年から箱を受け取り、ふたを開いて中身を見せてくれる。
「・・・・スカーフ?」
そこに入っていたのは、美しい淡い青色の布だった。シルクのような光沢のある布で、結構な大きさがありそうだ。故に、スカーフだと判断した。
イチカの言葉に笑みを深めながら、天使の青年はそれを取り出す。広げてみると、やはりスカーフのようだ。正方形をしており、端をぐるりと金のツタのようなものが描かれている。文字のようにも見えるが、あいにくイチカはこの世界の言葉は理解できても、文字は読めないようなので、美しい装飾にしか見えない。
(・・・・綺麗)
その一言だった。金の装飾と、布自体の青が美しい。どこかで見たような色なのだが、どこか思い出せない。
「これを身につけていれば、君はイージスの保護下にあると証明出来るんだ」
「・・・・・?」
何故、これを身につけていると証明になるのか。
おそらく、イチカの疑問を読み取ってか、天使の青年が説明してくれる。
「この国ではね、色を重んじるんだ。特に、貴族や王族などは、自分の色を持っている。公の場では、必ずその色を身につけなくてはいけない」
ということは、これは彼の色だということか。
「例えば、僕がこの屋敷の主としよう。そうすると、使用人はすべて僕の色を身につける。まあ、大抵こういうスカーフを用意するんだけどね。どこかに行くときも、もちろん身につける。そうすると、他の人が見たときに、その使用人がどこの屋敷の者か一目瞭然となる」
スカーフが身分証になるなんて、なんだか簡単な気がする。
「まあ、僕があげても良かったんだけどね。王族が女性に渡すと、色々めんどうだからね」
今、とても聞き捨てならない事がさらりと言われた気がする。
「で、イージスに頼んだわけ」
ふと、この屋敷の使用人の姿を思い浮かべる。
(この色は見たこと無い気がする。確か、チョコレート色のスカーフをしていたような・・・)
「これには、君の名前も刺繍してあるから、なくしたり、誰かにあげちゃったらすぐに分かるからね」
やはり金の装飾は文字になっているようだ。
「イージスが初めて送るものだから、大事にしてね」
「えっ!!」
爆弾発言とともに渡されたスカーフは、さらりとした布のはずなのに、鉛のように重たかった。
亀以下の更新速度です・・・。




