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久々更新・・・。


 異世界に来て2日目の朝を迎えた――――。


 空のように澄み切っているのに、氷のように堅い瞳の青年の元に保護されて2日。イチカはずっと屋敷の一室にいた。


 バストイレ完備の客室で、食事を運んでもらえれば、外に出る必要はない。用事があれば言ってくれと言われたが、なにかを願える立場に自分がいるとは思えない。むしろ、見知らぬ土地で、一人果てていく運命かも知れなかった自分を救ってくれるだけでなく、衣食住まで与えてもらって何を言えようか。


 それに、どこの馬の骨ともしれない自分を、安易に信用するほどこの国の人間も不用心ではないだろう。食事を運ぶという名目で、おそらく定期的に何か疑わしい事がないか確認しに来ているのだ。


 けれど、本を読もうにも字が読めず、せめて何か手伝おうと思っても監視される身。結局何も出来ないまま部屋に籠もるしかなく、悪い言い方をすれば軟禁状態。


「・・・・・・暇・・・」


 はっきりいって退屈である。


 イチカが3人くらい寝られそうな寝台に身を沈め、考えるのは今現在自分に起きている現象について。それも、昨日一日考えただけで飽きてしまった。

 

 なんと言っても、手がかりが少なすぎるのだ。


 交通事故の衝撃で、おそらく空間にねじれか亀裂が走ったのだろう。その隙間に、自分が落ちてしまい、この世界に辿り着いた。傷がないのは、空間を越える際のなんらかの副作用。言葉もまた然り――――と、思うことにした。


(まあ、どこに居ても、私が一人であることには変わりないし・・・・)


 世界の境界線を一つ越えたからと言って、会いたい人間に会える訳でもなし。平行世界にいるもう一人に会ったらと思うとぞっとするだけだし、世界が変わったからと言って、自分が変わるわけじゃない。


 ただ、この状況がひどく退屈なだけ―――――。


 元の世界のイチカは、両親が亡くなって、引き取ってくれた祖母が亡くなってからずっと一人で生きてきた。生きていくためには稼がなければならず、仕事を中心に生きてきた。もちろん家事もすべて自分でこなしていたので、こういう何もしない時間というのが実は苦手だったりする。


「・・・・歌、歌おうかな」


 考えることにも飽きた。本が読めない以上、この世界の事を知るのも不可能。となれば、出来ることはほとんどない。


 音楽教師だった母の影響で、イチカは幼いころから歌を歌うのが大好きだった。両親を失ってからは、いっそう歌に救いを求めるようになった。悲しいときや、苦しいとき、もちろん楽しいときも記憶の中にある母親を思って歌を歌う。特別な楽器もいらない。声だけあれば、声こそが楽器であり、音楽になる。とても経済的なのだ。


「・・・・・よしっ」


 勢いをつけて起き上がる。そのまま、窓まで歩いて行き両開きの窓を開く。ふわりと髪をなぜる風が心地よく、知らず笑みが零れていた。


 少し出窓のように外に出っぱっていたので、お行儀が悪いとは思ったが、よいしょと体を引き上げて足を外にぶらさげるようにして座った。もちろん、カーテンを掴んで落ちないように体を安定させて。


 すぅ、っと息を吸う。


 ―――――歌を 歌おう


 大きな声で 声を響かせて


 歌は 幸せの魔法―――――――


(・・・気持ちいい)


 歌う声を遠くに飛ばすように、風が吹き抜ける。それが心地よく、自然と体も揺れる。


 ――――歌を 歌おう

 

 力強く みんなで歌おう

 

 歌は 悲しみを吹き飛ばす魔法―――――


 このとき、ちょうどイチカの座る窓の正面に位置する屋敷の入り口に、二人の人間がやってきたことに、歌に夢中だったイチカは気づかなかった。


 風が、イチカの声を屋敷中に響かせていた。


 ――――うまく歌えなくってもいいの


 楽しく歌えば それが幸せ


 さあ 歌おう


 歌を 歌おう―――――――――


「・・・・ふふふっ」


 嫌な気持ちも、不安な気持ちも、今この瞬間は全部吹き飛んでしまった。あんなに退屈で、陰湿だった気分も、全部何もかも、歌に乗って消えてしまった。


 その事が可笑しくて、笑ってしまったイチカの視界に、とんでもない人物の姿が飛び込んできた。


「なっ!!」


 ぽかん、とこちらを見上げる二人の美青年の姿。


(聞かれてた!?)


 しかも、窓に座るなんてどんなお転婆だと思われただろう。羞恥に赤く頬が染まり、イチカにしては珍しく感情の波が激しく揺れた。


「きゃあ!!」


 その瞬間、一陣の風が吹き抜ける。


『悲しい?人間のせい?』

『遊ぼう!!楽しいよ!!』

『わぁい!!会いたかったよぉ』


(えっ?誰?)


 風に乗って、響く声。けれどその持ち主の姿は見えない。


『僕たちはここにいるよ!!』


「誰?誰なの!!」

「危ない!!」

「えっ?」


 大きな声に、はっと我に返る。随分と乗り出していた体は、重力に従って下に落ちようとしていた。


(落ちる!!)


 とっさに伸ばした右手。包帯の巻かれた右手は、窓の枠を掴んだのに、力が伴わないせいか、あっさりと滑ってしまう。


『僕たちはここにいるよ!!』

『遊ぼう!!』

 

 風が空を切る音と、誰か分からない声だけが響く。


「・・・・っ!!」


 地面にぶつかる衝撃と、痛みを覚悟して瞳を閉じる―――――。


『お止めなさい!!』


(誰?)


 何かが散っていく気配。かわりにふわりと何かに包まれる。そして、地面に衝突する痛みとは違う。もっと柔らかいものにぶつかる痛み。


 おそるおそる開いた瞳に、氷の瞳の美青年が映し出されたことに、体も思考もフリーズしたイチカだった―――――。

 

めんどくさいのでサブタイトルは数字で・・・。

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