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6

 朝日がカーテンの隙間から差し、イチカは目を覚ました。


「ん・・・」


 この世界には、当然ながら電気はない。陽が高いうちは、カーテンを開け太陽光を取り込む。陽が沈めば、ろうそくに火を灯す。


 イチカはこの世界に来て、こんなにも夜が暗く、太陽の光がこんなにも明るいことを知った。


「おはよう」


 寝台から降り、カーテンを開ける。そのまま窓を開ければ、薄い緑色の羽をもった小鳥たちがたくさん集まってきた。


(この世界の小鳥は、人懐っこいのかしら??)


 そう思うくらい、小鳥たちはイチカのそばにやってくる。


 手を差し出せば、我先にととまりにやってきて、出遅れたものはイチカの髪をついばむことで注意を引こうとする。


「ふふふっ」


 それがくすぐったくて、思わず笑ってしまう。


 そのまま窓枠に肘をついて、小鳥たちと戯れながら、イチカは自然と歌いだしていた。


 ―――――  歌を 歌おう


 大きな声で 声を響かせて


 歌は 幸せの魔法―――――


 幼いころ、母に教えてもらった大好きな歌。


 ――――― 歌を 歌おう


 力強く みんなで歌おう


 歌は 悲しみを吹き飛ばす魔法――――


 小鳥たちが、イチカの歌にあわせて舞うように飛ぶ。


 ――――― うまく歌えなくってもいいの


 楽しく歌えば それが幸せ


 さあ 歌おう


 歌を 歌おう―――――


 この世界に来て、短い間にいろいろあった気がする。


 苦手な人にも、出会ってしまった。


「・・・・はぁ」


 ため息がもれる。


 思わず、窓枠に顔をうずめてしまう。


 どんなに苦手な人と出会っても。


 異なる世界に来ても。


 自分は今。


 生きている。


「・・・・私、運が強いのかな」


 髪を、小鳥たちがひっぱっているのが感覚でわかる。


(悪運が、強いんだよね)


 開いた右手の平に、残る十字の傷跡。


 それは、かつてイチカの両親の命を奪った事故で負った傷。


 両親と、右手の機能を損なわせた傷。


 けれど、イチカの命は奪わなかった。


(あの時、死んだと思ったんだけどなぁ)


 子供をかばったとき、今度こそ(・・・・)死ぬんだと思った。


「・・・・はぁ」


 いつまでも、部屋にこもってはいられない。


 心優しいこの屋敷の使用人は、イチカがいつまでも朝食の席に姿を見せないことを、心配するだろう。この部屋に、様子を見に来るかもしれない。


 日本では、一人で生きていたイチカには、その優しさが心地よいというより、戸惑いが先にたってしまう。それほど、一人で生きることが当たり前になっていた。


「・・・・・」


 その優しさに、包まれてしまうことが恐ろしいのに、それを拒むよい手段も思いつかない。


 急に黙ったイチカを不思議そうに見上げる小鳥を、空に放つ。


 飛び立っていった小鳥たちを見上げ、窓を閉める。


 何かを締め出すように。


 何かが入り込めぬように。


 それは、イチカの心の扉のように、ぴったりと閉ざされた。

 

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