section.3輸送隊
大型の車両が群をなして大地を疾走している。
全長だけで10mに至る大型の輸送車両は、複数のタイヤが重厚な車体を支えており、牽引するコンテナ車両も運転席のある機関車両も分厚い装甲板で覆われていた。
先頭を走るのは地雷除去用の重機を携えた特殊戦車。巨大な車輪に取り付けられたハンマーが大地を穿ち地雷があれば爆破する。
彼等はキャラバンと呼ばれる輸送隊だ。都市の外に拠点を持ち、都市間または都市外の資源プラント間、企業の施設間に物資輸送を担っている。
各都市が独立した権力を持ち城塞都市化した現在、城塞都市間で列車に通っている例は稀で、とある理由で空輸も制限されている情勢で彼等は世界の物流の要である。
キャラバンの大型の車両が並ぶ中、周囲にはMⅢが並走していた。中型機動兵器の略称ではあるのだが、展開している機体のほとんどは人型に分類される機体だ。
四肢、胴がある点を見れば人型と言って差し支えない。頭はあったりなかったり……ロッドアンテナが生えているだけのものもあったりするするが。
機種も装備もバラバラなMⅢ達はキャラバンに雇われた傭兵達だ。ギルドという巨大な警備派遣企業仲介の下、護衛や用心棒の他、もちろん武力行使も請け負っている。
燃料車両から給油ホースを繋いだまま並走する傭兵達のMⅢの姿は犬ぞりを引く猟犬のようだった。
「都市国家アイアスから通信が入りました」
そんな一団の中で少年の声が専用回線で全体に行き渡る。殿を務めるMⅢ3機のうち1機。狙撃に特化した機体と思われる、青いMⅢからの通信だった。
「これよりキャラバンの隊列上空をアイアスの輸送ヘリ3機が通過するとの連絡です」
「了解した。全機、間違っても空に武器を向けるな」
少年の報告に、キャラバンの隊長が全機に通達する。
少し間をおいてから、対空レーダーが機影を捉えた。連動する空襲のアラートが鳴り響く中、輸送ヘリが3機、MⅢを吊り下げた状態で通り過ぎていった。
「軍事作戦にしちゃ、数が少ないな」
「あちらは、カルコサとの国境方向ですね」
「流れ弾でも飛んできたら厄介だな」
などと話していたら、砲撃音が響いてきた。先程通り過ぎたアイアスのMⅢが接敵したのだろう。
さらに、立て続けに2発の発砲音。
「……アンタたちなら、様子を見てこれたりしないか?」
キャラバンの隊長は殿を務める小隊の少年に声をかける。
輸送部隊の隊員に護衛の傭兵達も含め、誰も「子供に頼むことか」などとは言わなかった。それだけ、後備を務める機体達は異彩を放っていた。
少年の機体含め、機種や塗装は異なるものの、一企業のフレームとパーツで統一されていた。そして、全てのMⅢと車両に企業のロゴマークと部隊のエンブレムが刻まれている。
ギルドの傭兵やキャラバンの運び屋を担う者たちにとっては知らない者がいないマーク。
「アルビオン社のあんたらに金を払っている訳では無いが……」
企業連合と呼ばれる軍需企業を中心とした企業の複合体、アルビオン・バイオニクス社。
MⅢという地上兵器のシェアを独占している企業の1つだ。雇われている傭兵達の中にもこの企業のフレームや武装を使用しているMⅢがいる。
殿の車両とMⅢはその直属部隊だった。
打診を受けた少年は小隊の通信回線に切り替えた。
「ラルスさん。どうしましょうか」
左腕と右肩関節のショルダージョイントに大型の砲を背負った青い狙撃型のMⅢが、大盾を持った白いMⅢに頭部を向けた。
青い機体が甲冑なら、白い機体は戦闘機に手足が付いたような見た目をしていた。シャープでエッジのある装甲が共通しており、アルビオン製MⅢの特徴だった。
「仕方ないだろ。流れ弾は俺達もゴメンだ。シーラのMⅢだったらすぐ行って戻ってこれるだろ?」
「……うん。私ならすぐ」
ラルスと呼ばれた男性は、女性の名前を挙げる。消去法で残りの1機、黒いMⅢのパイロットのことだった。
こちらも特徴的なMⅢで、下部に長く伸びた胸部装甲と、スタビライザーらしき装備の付いた肩関節……ショルダージョイントが鴉のようなシルエットを作っていた。
砲身の長いアサルトライフルと銃口の代りにレンズの付いたハンドグレネードのような武装を積んでいる。
「それはそうですけど、人目に付きますし、場合によっては戦闘に巻き込まれますよ」
「隠せとの命令もないし、問題ないだろ。巻き込まれたら……アイアスの領土だから、そっちに加勢だ」
「……ニコル、気にしなくて大丈夫」
年長者2人の言葉に少年、ニコルは頷いた。
「分かりました。キャラバンの隊長に伝達します。じゃあ、シーラさんお願いしますね」
ニコルはキャラバン全体の通信回線に繋ぎ直す。
「状況確認をこちらで引き受ける事になりました。都市軍同士の戦闘に巻き込まれた場合はアイアス軍に加勢しますがいいですね?」
「ああ、助かる。了解し……」
キャラバンの隊長が返事をし終える前に、走行給油用のチューブをパージする、分離ボルトの炸裂音が響き渡った。
シーラのMⅢだ。
彼女の機体は車列から離脱するように後方に下がる。ショルダージョイントのスタビライザーらしき装備が広がるように展開すると青白い光と噴流を吐き出し、機体を中心に周囲の草や粉塵が放射状に煽られ始めた。
その状態でMⅢが跳躍すると数十メートルの高さまで飛び上がり、ミサイルのように空中で方向を急展開させアイアスの輸送ヘリが飛び去った方向へ飛び立っていった。
「……本当に飛ぶんだな。初めて見た」
「……ヤバ」
「あれ、中のパイロット大丈夫なのか?」
キャラバンの通信回線から呆然とした様子の感嘆が聞こえてきた。見慣れているラルスは無反応だが、ニコルはため息をついた。
「見世物じゃないんですよ」
「おっと、すまない。このまま移動は続けて問題ないか?」
「見た通りの速度ですので大丈夫です」
「了解した」
MⅢは中型機動兵器の略称ではあるが、重量や姿から鑑みれば地上の機動兵器だ。ただ、追加の推進装置を備え付ければ理論上は飛べる。
そう、理論上は。
そんな実験兵器を運用し実戦データを収集、開発に貢献するのがニコル達のいる部隊の主な仕事である。
ニコルがこの部隊にやって来た時にはすでにシーラのMⅢは完成されており、現在は携行装備とコストダウン……そしてパイロットの装備の研究が主軸となっていた。
ニコルは狙撃機の望遠レンズでシーラを見送る。シーラの機体は蛇行という程ではないが緩やかな曲線を描きながら飛んでいた。
「……シーラさん、今日は機嫌良かったりします?」
「そこに気付くか。あの日が終わったからな。昨晩は搾り取られて大変だったんだ」
「……そこは聞いてないです」
聞いてもいない情事の話をされてニコルはため息をついた。




