section.2_城塞都市
施設内に響いた警報に、倉庫内の人々は一瞬だけ固まり工程を省略、または途中で放棄し上官の下に集結した。
緊急出撃の警報に、蜂の巣が突付かれたように作業音が喧騒に切り替わった。
倉庫内には人の形をした機械が整列し……この倉庫には24機が格納されていた。
「司令部からラブコールだ!都市外作戦用特殊部隊に緊急出撃命令が出た!!」
「不幸な待機任務中のMⅢはどいつだ!?」
「シトウェル中尉の小隊です!」
「MⅢの足下に立ってる馬鹿はいないな!?ホバーエンジンの風圧に吹っ飛ばされるぞ!!」
MⅢと呼ばれた人型の機械と中央の通り道から人が離れていく。それを待っていたかのように、3機のMⅢが整備用のハンガーから離れた。
「メイア・シトウェル中尉下小隊出撃する。テレスコープ通るぞ。道を空けろ踏み潰すぞ」
灰色の都市迷彩塗装は共通だが、機種はバラバラの3機だった。メイアの搭乗するテレスコープと呼ばれたMⅢがスピーカーで警告を発しながら先行する。
無骨だが細身の機体で、センサー類が多く取り付けられている。ショルダージョイント下の対人用機銃を除けば、長大な狙撃ライフル……口径で言うと戦車の火砲に近い口径だが……を1丁のみ装備していた。
「アーノルド小隊、ローレンス准尉、遅れるな。タクシーの準備はできているぞ」
「了解」
「……了解」
追随するのは流線型の装甲に包まれた2機。同じ流線型と言っても形状は大きく異なっていた。
その3機に整備士の男が大声で声をかけている。
「クレア・アーノルド少尉!!」
「はいっ」
「復唱での機体チェックは省略し計器のみで確認とする!相棒……レプスの調子はどうだ!?」
「オールグリーン。問題ない」
レプスと呼ばれた1機は大型の太股パーツが特徴的な、高速列車のような流線型をしたMⅢだ。マガジンが2つ着いた多弾倉のライフルとマシンガン……要は口径の異なる機関砲を右と左のマニピュレーターに保持していた。
クレアの愛機のMⅢである。
「ジャック・ローレンス准尉も同様だ!レックスはご機嫌か!?」
「……機嫌はわからんが、オールグリーンだ。問題ない」
「よし!シトウェル中尉!そのまま行ってくれあとはオペレーターに引き継ぐ!!」
レックスと呼ばれたもう1機。これは人型と言っていいのか怪しい見た目をしていた。頭部がない……というわけではなく、上半身が大きく前に飛び出していて、その先に頭が付いてる。腕部は小ぶりだがマニピュレーターはなく機関砲がそのまま接続されていた。
鳥か恐竜のような形の脚に、前方に飛び出た上半身とバランスを取るためのテイルスタビライザー……尻尾の着いた姿は、ファンタジーに出てくるリザードマンのようだ。
変わった機体だとクレアは思う。
ただ、機体はパイロットが選んだのではなく、戦闘スタイルから都市外作戦用特殊部隊の大隊長殿が選んだものなので文句は受け付けられない。
モニター……正確には操縦用ヘルメットのバイザーに進行ルートが表示され、それに従って進む。倉庫を出るとすぐ外というわけではなく、MⅢが通行できるサイズの通路が続いており、兵器運搬用の大型エレベーターに乗るよう指示される。
「オペレーターを務めますアンナ・クライヴ准尉です。状況の報告と作戦目標を説明します」
画面にブロンドの女性の……アンナの顔と衛星写真らしき画像が表示された。森林地帯の開けた箇所が写っている。
「0918にカルコサ軍のMⅢ小隊による越境行為が確認されました。今回はそれに伴う緊急出撃となります」
「粗末だが、人家のようなものが見えるが」
写真に対しメイアが質問を飛ばす。アンナは淡々と説明を続ける。
「現在、アイアスの資源プラントと市民に損害と人的被害は報告されていません。ですが、距離は近く許容できる行為ではありません。再三の警告も無視されました」
アンナの説明にメイアは異を唱えなかった。要は、そこに"巻き込まれてはならない人"はいないということだ。
「今回の作戦は現場に急行し、越境行為を続けているようであれば排除。撤退している場合は、資源プラントの状況確認となります。武器使用は自由」
「要は行って帰ってくるだけのおつかいだ。配属したてのお前達にはちょうどいい任務だ」
「……応、MⅢ…中型の機動兵器が確認されてるんだけど」
「何か?」
「いえ何も?」
「ならばよろしい」
メイアに問われ、アンナは素知らぬ顔をした。メイアはひと睨みするも追及はしなかった。
「大隊長殿よりメッセージだ。獲物がいれば早いもの勝ちとのことだ。いるとも思えんがな」
「任務中のコールサインはビーグルです。復唱願います」
「ビーグル1了解」
メイアが1、クレアが2、ジャックが3となる。
それぞれ復唱したところで、エレベーターが目的地に着いた。
壁面などない文字通り平らに舗装された大地……よりも遥かに高い位置。城塞都市アイアスの城壁屋上にある駐屯地だ。
MⅢ用の輸送ヘリが首ではなく、下部にMⅢが入れるよう足を伸ばして待っていた。
ピロンと通知音が鳴る。アンナからシークレットでメッセージが届いていた。
"外の人間は市民じゃないんだから助けようとするんじゃないわよ"
「……了解っと」
返事を返して、クレアは機体を進めた。




