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103話 粛清の順番

 貴族と私兵たちの逃走経路を追って、ネアたちは王都の裏通りへと駆け込んだ。


 「団長! あちらに足跡と布の切れ端が!」

 「この先の通りだ。急ぐぞ!」


 ガルドの声に団員たちが散開し、路地を縫うようにして距離を縮めていく。

 その時、見覚えのある人影が現れる。


 「お? ネアじゃないか。その様子だとお勤め中か?」


 ひょっこりと袋を抱えた男性が顔を出した。

 赤褐色の髪、やや薄汚れた外套、そして楽しげな笑み。

 カイランだった。


 「カイラン!? リサナも……!」


 妹のリサナは、控えめに手を挙げた。


 「久しぶり」


 カイランは買ったばかりの野菜袋を肩に乗せながら、ニヤリと笑って言う。


 「いや〜、久々だな。いや、そうでもない気もするな?」


 ネアは少し息を整え、小声で近づいた。


 「……いきなりだけど、女神教の妨害、できない? 少しでいいから」


 そう話しながら、金貨をこそっと見せると、カイランの表情が面白いほど変わった。


 「おお〜!? 純朴だった田舎娘が、すっかり都会の空気に染まっちまって……お兄ちゃん悲しいわ〜。なあ、妹よ?」

 「兄貴、黙れ。その演技、臭いしうざい」

 「ひでえ。そこまで言うか」

 「妨害、引き受けるよ。ただし小さな邪魔しかできないからね。大がかりなのは無理」


 ネアは頷きつつ、手のひらを軽く合わせるようにして金貨をそっと渡した。

 リサナは一瞬だけ笑って、それを袖に隠した。


 「よし、それじゃ行くよ、兄貴」

 「へいへい。じゃあ俺たちは適当に時間稼ぎしとくか」


 二人はすぐに人混みの中へ消え、同時に遠くで「荷物を落とした!」だの「道が塞がってる!」だのと都合よく通路をふさぐ声が聞こえてくる。


 『器用な兄妹ね、ほんと』

 「おかげで時間が稼げる」


 カイランたちの妨害のおかげで、女神教の兵士を引き離し、逃げる一団との距離は着実に縮まっていく。


 「見えた! あそこだ!」


 すると数人の私兵らしき者が振り返り、武器を構えた。

 雇い主を守るため、足止めしようとしている。


 「ええと、リュナ、行ける?」

 「余裕だよ、任せて」


 先手を取ってリュナが地を蹴り、私兵の一人の武器を弾き飛ばして回し蹴りを入れる。


 「ぐっ──!」


 もう一人へはネアが踏み込み、レセルで鍔迫り合いをしながら押し返す。

 最後の一人は、鎧を着たガルドが一直線に突っ込んでそのまま弾き飛ばした。


 「ええい、邪魔だ!」

 「鎧を着たまま追いかけ続けるとか、うちの副団長すごいよな」

 「こら! お前たちそんなこと言ってる場合か! 早く縛れ!」

 「は、はい!」


 見事な突破により、貴族の男性に追いついたガルドは、腕を掴んで押さえつける。

 叱られた団員たちは急いで手足を縛っていく。


 「観念しろ。抵抗するな」

 「ぐっ……放せ! 我らは……!」

 「静かに。女神教に引き渡されたくなかったら、おとなしくしてほしい」


 ネアのその言葉に、貴族の男性は露骨に怪訝な顔をした。


 「……お前たち、女神教と通じていないのか?」


 ネアは静かに首を振る。


 「通じていないよ。だから、女神教よりも先に、あなたたちを確保したかった」


 短い沈黙。

 男性の肩から、力が抜けていった。


 「……わかった。それなら従おう」


 ガルドは軽く頷き、相手を立ち上がらせる。


 「よし。確保は完了。早く安全な場所まで運ぶぞ。女神教の追手が来る前に」


 ネアは頷き、レセルがほっと息を漏らす。


 『ふぅ……なんとか間に合ったわね』

 (……でも、これは始まりに過ぎない気がする)


 王都の影は、ますます深く、濃くなっていく気配があった。


 「このまま宿舎に連れて帰るのは危険だな。間違いなく途中で女神教に横槍を入れられる」


 ガルドが立ち止まり、周囲の警戒を強めた。


 「じゃあ、どうする?」

 「……昔、自分が衛兵だった頃の詰所が近い。今も当時の顔見知りがいるはずだ。そこなら、しばらく預かれるだろう」


 王都の各地にある衛兵の詰所は、なんらかの理由で捕まえた者を閉じ込めておくために利用することができる。

 ただ、管轄の違う騎士団の場合、多少の手続きは必要だが。

 ネアは頷き、団員たちを指示して素早く移動した。


 ◇◇◇


 衛兵詰所。

 王都の外れにある小さな建物。

 しかし、内部は意外なほど整っており、留置場も簡易ながらしっかりしている。

 当直の衛兵は目を丸くし、中にいる隊長を呼ぶと、彼は気さくな様子で声をかけた。


 「ガルド隊長、いや、今は騎士団の副団長様か。久しぶりだが、順調に出世してるね」

 「いきなりですまないが、ここの牢を借り受けたい」

 「騎士団の任務関係かい? 牢が必要なら、どうぞご自由に」


 ガルドは感謝の言葉と共に頷き、貴族の男性を牢へと入れる。


 「安心しろ。ここなら誰にも邪魔されん」

 「……捕まる相手が騎士団で助かった、とでも言えばいいか。女神教が相手では、遅かれ早かれな気もするが」


 鉄格子が閉じられ、ネアとガルド、ユニスにリュナが、簡易的な机を前に聞き取りを始める。


 「では聞かせてもらう。女神教が追っていた理由は、魔神教との繋がりか?」


 貴族の男性は観念したように肩を落とした。


 「ああ……確かに繋がりはあった。だが、それは深い関係ではない。少しの金を払って情報を買っていただけだ」

 「情報……?」

 「どちらも、だ。女神教にも、魔神教にも。貴族として生き残るには、多方面に情報網を持つ必要がある……」


 ネアは複雑そうに眉を寄せた。


 「それだけで、あそこまで堂々と捕まえられるんですか?」

 「いや。本来なら、捕まるほどの罪ではない。注意くらいはされるとしても。だが……女神教は今、魔神教の弱い繋がりから順に掃除しているらしい」

 「弱い繋がり……?」

 「魔神教と深く結びついた者は、後回しにしても間に合う。だから、まずは浅い繋がりの貴族を片っ端から、というわけだ」


 ガルドが深く唸った。


 「むむむ……乱暴にも程がある。深い繋がりから排除すればいいものを。浅い繋がりの者たちは、それだけで関係を断つだろうに」


 貴族の男性は、鉄格子を指で叩きながら、低い声で続けた。


 「理由は単純だ。女神の依り代となるための儀式が近いのだろう。魔神教の内部は今、かなり混乱している。そのせいで、後先考えず女神教の邪魔をする連中が出てくる可能性がある」


 小金を払う程度の繋がりからでもわかるほど、魔神教はゴタゴタしているとのこと。


 「だから、その芽を早く潰したい……?」

 「そうだ。魔神教からすれば、女神教の依り代となる者の存在は致命的だからな」


 ネアの脳裏に、つい先日会った少女の顔が浮かんだ。

 白銀の髪。

 淡く笑う、あの危うい瞳。


 (……フェリシア)


 魔神教と女神教の衝突は、

 王都の中で静かに、しかし確実に熱を帯び始めている。


 「……情報は十分かな。今後どうする?」

 「ひとまず、この者を正式に保護する手続きを取る。女神教の追手が来ても、“騎士団として尋問中”と言い張れるからな」

 「なるほど……」


 レセルが鞘の中で軽くため息をつく。


 『女神教の振る舞い、なんとも大胆ね。このままじゃ王城がきな臭くなるのも時間の問題よ。つまり、そこに宿舎のある黄昏の剣騎士団も巻き込まれる』

 「勘弁してほしいよね」

 『ま、だからこっちから突っ込んでいくしかないわけ。今みたいに』

 「引っ掻き回されるぐらいなら、引っ掻き回す方がいい?」

 『そう。こちとら、女神教の司教様というお偉いさんと知り合いなんだから、それを盾にしまくるわよ』


 王都は表向き平穏だが、裏では確実に複数の勢力が動き始めている。

 その中でどう立ち回るべきか。

 ネアにとっては頭が痛い状況だった。

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