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第9話:吟遊詩人

強欲な商人の邸宅を後にしたシャルロッテは、次の目的地である水の都へと向かった。そこは、美しい運河が街を巡り、歌声が絶えないことで知られている。しかし、彼女が訪れた日、街はひどく静まり返っていた。


街の中心にある広場には、大勢の人々が集まり、一人の老いた吟遊詩人を囲んでいた。彼はリュートを抱えているが、その口からは、かすれた音しか出てこない。かつてこの街で最も愛された歌声は、もう失われていた。


「ああ、この美しい水の都も、私の歌がなければ、まるで色を失ってしまったようだ…」


吟遊詩人が悲しげに呟いた瞬間、シャルロッテの左手の紋様が、またしても淡く光った。


【フラッシュバック】


水の都の広場で、歌うことができずにうつむく一人の若い吟遊詩人。彼の瞳には、深い絶望が宿っていた。 「僕の歌声は、もう戻らない…」 若いシャルロッテは、彼の心の痛みを理解し、そっと手をかざした。 「歌は、あなたの心そのもの。だから、この力で、その心を美しい音色に変えてあげましょう」 紋様から溢れ出た光が、吟遊詩人の体に流れ込んでいく。光の中で、彼は再び歌い始めた。その歌声は、水の都に響き渡り、人々の心を癒やしていった。


【現実】


フラッシュバックが終わり、シャルロッテは目の前の老吟遊詩人が、かつて彼女から能力を譲り受けた人物だと確信した。


シャルロッテは、静かに吟遊詩人に近づいた。


「あなたの歌声は、まだ失われていない」


シャルロッテの言葉に、吟遊詩人は驚いたように顔を上げた。彼は彼女の左手の紋様を見て、瞳を大きく見開いた。


「紫紅姫様…!あなたが、また私の前に現れてくださるとは」


吟遊詩人は語り始めた。


「私は、あなた様から美しい歌声を譲り受けた。おかげで、この街で最も愛される吟遊詩人となり、たくさんの人を幸せにすることができた。しかし、年老いた今、その声はもう出ない…」


彼は、シャルロッテが譲り与えたのが、単なる歌声ではなく、人々の心を癒やすための希望であったことを理解していた。


「あなたは、ただ能力を与えるだけでなく、その人が持つ才能を、最大限に引き出してくださった。それは、お姉様が教えてくれたことだと、そう仰いました」


吟遊詩人の口から、再び「姉」という言葉が飛び出した。


「お姉様は、歌や物語が、人々の心を繋ぎ、世界を一つにする力を持つと信じておられたのだと…」


シャルロッテは、失われた記憶の断片を、吟遊詩人の優しい歌声と共に取り戻した。それは、姉と共に、芸術の力で世界を平和に導こうとしていた、温かい記憶だった。


彼女は、なぜ姉が、歌や物語にそこまで大きな意味を見出していたのか、その答えを求めて、次の旅路へと向かう。彼女の心には、姉が歌う優しい子守唄が、鮮明に蘇っていた

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