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第8話:強欲な商人

孤独な人形師との出会いを経て、人々の心を癒やすことの重要性を学んだシャルロッテは、次に大都市へと向かった。そこは、富と権力、そして欲望が渦巻く場所だった。


街の中心には、豪華絢爛な大邸宅がそびえ立っていた。その主は、莫大な富を築き上げた大商人だという。彼は、どんな投資も成功させ、決して失敗しない「幸運の持ち主」として知られていた。


大邸宅の門前で、シャルロッテは一人の老商人に声をかけた。彼の顔には、かつての成功の傲慢さと、今は虚しさだけが残っているように見えた。


「昔はわしも、この邸宅の主と肩を並べるほどの成功者だった。だが、ある日を境に、幸運はすべてあの男に奪われてしまったのじゃ」


老商人の言葉を聞きながら、シャルロッテの左手の紋様が、またしても淡く光った。


【フラッシュバック】


薄暗い裏路地で、借金に追われ、絶望に打ちひしがれる一人の男。彼は、金儲けにしか興味がなく、周囲の人間を顧みない傲慢な男だった。 「どうか…どうか私に、もう一度だけ幸運を…!」 若いシャルロッテは、そんな彼の心の内を読み取り、そっと手をかざした。 「幸運は、人から奪うものではなく、分かち合うもの。この力で、その意味を知ってください」 紋様から溢れ出た光が、男の体に流れ込んでいく。男は、その光の中で、自分の欲望が、どれほど多くの人を不幸にしてきたかを知り、後悔の念に駆られた。


【現実】


フラッシュバックが終わり、シャルロッテは目の前の老人が、幸運を引き寄せる能力を譲り受けた大商人だと確信した。


「あなたは、その幸運を、人々と分かち合いましたか?」


シャルロッテの問いかけに、老商人は驚いたように顔を上げた。


「なぜ、そんなことを…」


老商人は語り始めた。


「私は、あなた様から幸運を引き寄せる力を譲り受けた。しかし、私はその力に溺れ、さらに多くの富を求めるようになった。力を分かち合うどころか、独占しようとした結果、多くの人から恨みを買い、今ではこの邸宅に閉じこもっている」


老商人は、シャルロッテが与えた幸運の力が、彼を幸せにするどころか、かえって彼を孤独に追いやったことを後悔していた。彼は、シャルロッテが譲り与えたのは、幸運の力だけでなく、分かち合う心であったことを理解していたが、その心を忘れてしまっていたのだ。


「紫紅姫様は、こう仰っていました。『この力は、姉が教えてくれたもの。分かち合う心こそが、本当の幸運をもたらすのだ』と」


老商人の口から、再び「姉」という言葉が飛び出した。


「お姉様は、私のような欲深い人間にも、救いの手を差し伸べてくださったのだと、そう信じておられる」


シャルロッテは、失われた記憶の断片を、老商人の後悔と共に取り戻した。それは、姉と共に、人々の欲望の心さえも、希望に変えようとしていた、優しい記憶だった。


彼女は、なぜ姉が、人々の欲望と向き合うことを願っていたのか、その答えを求めて、次の旅路へと向かう。彼女の心には、姉の優しい笑顔が、より一層鮮明に焼き付いていた。

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