第7話:孤独な人形師
森を抜け、シャルロッテは次の目的地である、小さな湖畔の町へとたどり着いた。その町は、美しい人形を作ることで知られていた。しかし、彼女が訪れた工房は、町のにぎわいとは裏腹に、ひっそりと静まり返っていた。
工房の中には、一人の老人が、無数の人形に囲まれて座っていた。彼の顔には深い孤独が刻まれ、まるで彼自身が、命を持たない人形の一つのようだった。彼は人形たちに語りかけるように、一体一体を優しく撫でている。
「君たちは、僕の大切な友人だ」
老人の言葉を聞いた瞬間、シャルロッテの左手の紋様が、またしても淡く光った。
【フラッシュバック】
工房で、一人静かに人形を作る若い人形師。彼の表情は暗く、人と接することが苦手なようだった。 「僕が作れるのは、命を持たない人形だけだ。だから、誰も僕の気持ちなんて…」 その言葉を聞いた若いシャルロッテは、彼の作った人形にそっと手をかざした。 「この人形は、あなたの心の分身。だから、この力で命を吹き込んであげましょう」 紋様から溢れ出た光が、人形に流れ込んでいく。人形は、ゆっくりと目を覚まし、人形師の寂しさを埋めるように、微笑んだ。
【現実】
フラッシュバックが終わり、シャルロッテは目の前の老人が、かつて彼女から能力を譲り受けた人形師だと確信した。
シャルロッテは老人に声をかけた。老人は驚いたように振り返り、彼女の左手の紋様を見て、瞳を大きく見開いた。
「紫紅姫様…!あなたが、また来てくださったのですか」
老人は、震える手で彼女の手を握った。
「あなた様がくれたこの能力で、私は、孤独ではなくなりました。命を持たない人形たちが、私の心に寄り添ってくれるようになったのです」
老人は、シャルロッテが譲り与えたのは、命を吹き込む能力だけでなく、彼が抱えていた孤独を埋めるための、大切な絆であったことを語ってくれた。彼は、人形たちとの対話を通して、人との接し方を学び、少しずつ心を開いていったのだという。
「あなたは、ただ能力を与えるだけでなく、その人の心の一番深いところにある願いを叶えてくれた。それは、お姉様との約束なのだと、そう仰いました」
老人の口から、再び「姉」という言葉が飛び出した。
「お姉様は、あなたの孤独を理解し、その心を救うことが、世界を救うことにつながると、そう信じておられたのだと…」
シャルロッテは、失われた記憶の断片を、人形たちの優しい眼差しと共に取り戻した。それは、姉と共に、世界のすべての孤独を癒やすことを願っていた、温かい記憶だった。
彼女は、なぜ姉が、人々の孤独を癒やすことと、世界の救済が繋がっていると考えていたのか、その答えを求めて、次の旅路へと向かう。彼女の心には、姉の優しい笑顔が、より一層鮮明に焼き付いていた。




