第13話:紫紅姫の選択
11人との出会いを経て、全ての記憶の断片を胸に、シャルロッテはついに旅の終着点へとたどり着いた。そこは、世界から隔絶された、時が止まったかのような静寂に包まれた小さな家だった。家の前には、一人の女性が立っていた。彼女の顔は、シャルロッテの記憶の断片に何度も登場した、優しい笑顔の女性。
「…姉さん」
シャルロッテがそう呟くと、姉はゆっくりと振り返り、優しく微笑んだ。
「よく来てくれたね、シャル」
再会を果たした姉は、シャルロッテの左手の紋様を見て、そっと彼女の手を握った。
「その紋様が、あなたと私を再び繋いでくれた。…もう、すべて思い出したのでしょう?」
姉は、シャルロッテが記憶を失う前の真実を、すべて語り始めた。
「私は、世界を破滅させる『災厄』に憑りつかれていた。私の体は、徐々に『災厄』に乗っ取られ、世界を破壊する存在になろうとしていた。でも、あなたは…愛する妹であるあなたは、私を救うために、自らの最も大切な記憶を代償に、最大技『想像の具現化』を発動し、私の中の『災厄』を封印してくれた」
姉の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「その時、あなたは、私に『他人の記憶を読み取る能力』をくれた。あなたの記憶を、私が預かることで、封印が解けるのを防ごうとしたんだね」
姉は、シャルロッテが旅の途中で出会った人々について語った。騎士、魔術師、農夫、吟遊詩人、学者、暗殺者…彼らに託された力は、すべて姉との約束、つまり、世界をより良い場所にするための願いから生まれたものだった。そして、その願いの根底には、姉妹の深い愛情と、世界を救うという共通の使命があった。
「でも…その封印は、もう長くはもたない。あなたの記憶が、こうして一つに繋がってしまったから」
姉は、悲しげな瞳でシャルロッテを見つめた。
「あなたの中で記憶が完全に蘇れば、封印は解け、私は再び『災厄』に憑りつかれてしまう。そうなれば、あなたは私を倒さなければならない」
そして、姉は、シャルロッテに最後の選択を迫った。
「シャル、あなたは、どちらを選ぶ?記憶を取り戻し、『紫紅姫』として再び戦うか…それとも、大切な記憶を失ったまま、今のあなたとして、私と共に生きていくか…」
シャルロッテの心の中で、二つの選択肢が激しくぶつかり合う。
記憶を取り戻し、姉を救い、世界を守るという「紫紅姫」としての使命。 大切な記憶を失ったまま、姉を守り、穏やかに生きていくという「シャルロッテ」としての人生。
彼女の左手の紋様は、その決断を待つかのように、静かに、そして強く、輝きを放っていた。
その瞳の奥には、強い決意の色が宿っていた。しかし、それがどちらの道を選ぶものなのかは、誰にも分からない。




