第12話:冷酷な暗殺者
元・犯罪者との出会いで、慈悲の心の記憶を取り戻したシャルロッテは、ついに最後の旅路へと向かっていた。彼女は、旅の過程で得た記憶の断片をすべて繋ぎ合わせ、一つの確信にたどり着いていた。
彼女が最後に会うべき人物は、今、彼女の魔法を最も危険な形で利用している可能性がある。
シャルロッテは、人里離れた山奥にある、荒れ果てた寺院にたどり着いた。そこは、かつて暗殺者たちの隠れ家であったという。寺院の入り口で、彼女は一人の男が静かに座っているのを見つけた。彼の顔には感情がなく、まるで人間ではなく、精巧に作られた人形のようだった。
「…あなたは、ここに来るべきではなかった」
男が呟いた瞬間、シャルロッテの左手の紋様が、これまでにないほど強く、激しく光った。
【フラッシュバック】
暗殺者たちの隠れ家で、感情を持たない一人の若い男。彼の瞳には、ただ命令を遂行することしか映っていなかった。 「命令を…」 若いシャルロッテは、彼の心の奥底に眠る「心」を取り戻したいという、無意識の願いを理解し、そっと手をかざした。 「心は、感じるもの。この力で、その心を感じてください」 紋様から溢れ出た光が、男の体に流れ込んでいく。光の中で、男は初めて、人の心を感じた。それは、喜び、悲しみ、怒り、そして愛。あらゆる感情が、彼の中に流れ込んできた。
【現実】
フラッシュバックが終わり、シャルロッテは目の前の男が、かつて彼女から能力を譲り受けた暗殺者だと確信した。
シャルロッテは、静かに男に近づいた。
「あなたは、心を感じることができたのですね」
シャルロッテの問いかけに、男は初めて感情を見せた。それは、苦悩に満ちた表情だった。彼は彼女の左手の紋様を見て、瞳を大きく見開いた。
「紫紅姫様…!私は、あなた様から共感能力を譲り受けた。しかし、そのおかげで、私は人を殺すことができなくなった。人の心の痛みが、自分の痛みとして伝わってくるからだ」
男は語り始めた。
「私は、あなた様の能力で組織を抜け出し、身を隠している。しかし、その代償として、私は人との間に壁を作り、孤独な存在となった」
彼は、シャルロッテが譲り与えたのが、共感能力だけでなく、人間の心そのものであったことを理解していた。
「あなたは、ただ能力を与えるだけでなく、その人の心の奥底にある願いを叶えてくださった。それは、お姉様との約束なのだと、そう仰いました」
男の口から、再び「姉」という言葉が飛び出した。
「お姉様は、『災厄』を打ち倒すには、力だけでなく、人々の心を一つにすることが重要だと、そう信じておられた。そして、そのために、人々の心を理解できる者が必要なのだと…」
シャルロッテは、失われた記憶の断片を、男の苦悩と共に取り戻した。それは、姉と共に、人々の心と心をつなぎ、世界を一つにしようとしていた、壮大な願いの記憶だった。
彼女の旅は、ここで終わりを告げる。11人との出会いで、彼女は自分自身の多面的な過去を知り、すべてのピースが、最後の人物へと繋がっていることを確信した。
シャルロッテは、自分の心の中に、はっきりと姉の面影を感じていた。彼女は、静かに立ち上がり、最後の場所へと向かう。




