第11話:元・犯罪者
聡明な学者との出会いから、「災厄」という世界の真実を知ったシャルロッテは、次の目的地である港町へと向かった。彼女の心は、これまでの旅で得た記憶の断片によって、少しずつ満たされ始めていた。
港町の薄暗い路地裏で、シャルロッテは一人の男に出会った。彼は、かつてこの町を恐怖に陥れた凶悪な犯罪者だったという。しかし、今の彼は、粗末な身なりで、静かに港の海を眺めていた。その顔には、過去の罪を悔いる、深い後悔の念が刻まれていた。
「この海は、すべてを知っている。俺が犯した罪も、俺が手放した幸せも…」
男が呟いた瞬間、シャルロッテの左手の紋様が、またしても淡く光った。
【フラッシュバック】
薄暗い牢獄の中、絶望に打ちひしがれる一人の男。彼の瞳には、憎しみと悲しみ、そして深い後悔が宿っていた。 「俺は、もうどうしようもない…」 若いシャルロッテは、彼の心の奥底に眠る「やり直したい」という願いを理解し、そっと手をかざした。 「罪は、消せない。だが、その罪と向き合う心は、あなた自身が作り出せる。この力で、その心を手に入れてください」 紋様から溢れ出た光が、男の体に流れ込んでいく。光の中で、男は自分の罪の重さを改めて知り、そして、その罪を償うための心の平穏を得た。
【現実】
フラッシュバックが終わり、シャルロッテは目の前の男が、かつて彼女から能力を譲り受けた人物だと確信した。
シャルロッテは、静かに男に近づいた。
「あなたは、心の平穏を得ることができたのですか?」
シャルロッテの問いかけに、男は驚いたように顔を上げた。彼は彼女の左手の紋様を見て、瞳を大きく見開いた。
「紫紅姫様…!あなた様は、この俺のような、どうしようもない人間にまで、救いの手を差し伸べてくださった。そのおかげで、俺は過去の罪と向き合い、静かに生きることができるようになった」
男は語り始めた。
「私は、あなた様から心の平穏を得る能力を譲り受けた。それは、ただ心を落ち着かせるだけでなく、罪を悔い、償いへと向かうための、大切な希望だった」
彼は、シャルロッテが譲り与えたのが、能力だけでなく、罪を犯した者にも再び生きる道を与えようとする、深い慈悲であったことを理解していた。
「あなたは、ただ能力を与えるだけでなく、その人の心の闇を、光に変えようとしてくださった。それは、お姉様との約束なのだと、そう仰いました」
男の口から、再び「姉」という言葉が飛び出した。
「お姉様は、どんな人間にも救いの手は必要だと、そう信じておられた。そして、その慈悲こそが、『災厄』を乗り越える鍵になると…」
シャルロッテは、失われた記憶の断片を、男の穏やかな眼差しと共に取り戻した。それは、姉と共に、どんな心の闇も光に変えることができると信じていた、強い慈悲の記憶だった。
彼女は、なぜ姉が、慈悲の心と「災厄」の克服が繋がっていると考えていたのか、その答えを求めて、次の旅路へと向かう。彼女の心には、姉の切ない慈悲の心が、鮮明に蘇っていた。




