大事な冒険初日
ブルー王は、口を拭うと
「それで、にゃにゃーん大王のことなのだが」
真剣な眼差しで二人に語り始めた。
3日後早朝。
グリグランの街外れに停められた、頑丈そうな荷台の一頭立ての馬車の横に、待ちくたびれた顔の普段着のままのへこみちとポエミーが突っ立っていた。遠くから白い布マントとターバンを巻いた旅装姿のにゃにゃーん大王が走ってくる。
「すいませーん!遅れましたあ。お二人の大事な冒険初日に失礼しましたあ」
すっかり元気になった彼女が、ニコニコしながら二人に近づくと
「おい、猫耳モンスター。御者はできるか?」
「できるわよね?」
二人からいきなり詰め寄られて驚いた表情をしたあとに
「は、はい。たしなみとして、一通りのことは……」
へこみちはあごで御者席をさした。
数分後、馬車はゆっくりと西へと走り出した。御者席のにゃにゃーん大王は手綱を握りながら戸惑った顔で
「あの……私、キャットランドにたどり着くまでこれですか?」
荷物が積まれた荷台に座ってボーッとしていたへこみちが
「馬の世話もしろ。むしろ馬車と一体化することを目指せ」
「そうよ、馬と荷台のどんな小さな異常も見逃さないプロになるのよ」
荷物の中身を物色していたポエミーがそう言うと、にゃにゃーん大王は恐る恐る振り向いて
「あの……私、アリサと言いまして、人間なのです……よ?」
「猫耳と尻尾の生えている人間がいるか」
「今まで人間様にご迷惑をかけてきた罪滅ぼしのため、これからは御者モンスターとして、私たちの役にたちなさい」
「もしや、ブルー王から事情を伺っていない……?」
へこみちはやる気なく青空を見上げ
「キャットランドとかいう、ど田舎の国にお前を届けたら大金が貰えるとか聞いた。あとは王族がどうとか小難しい話で覚えていない」
「細けえことは良いのよ。魔王討伐のついでに小銭稼ぎするのよ」
にゃにゃーん大王はホッとした表情で前を向き直り
「私、がんばります!」
明るい表情になった。へこみちは興味なさそうに寝てしまい、ポエミーは荷台に立ち上がると
「旅立ちの空は青くてー私たちはー得体のしれないモンスターにー導かれーよくわからない国に向かうのーきっと罠よーモンスターは裏切るものだからーでもそんな過酷な運命に私たちは、負けないのー」
と歌い出した。
「がんばれー私……きっと帰れる……」
にゃにゃーん大王は手綱を握りながら自分に言い聞かせるように小声で何度も呟いていた。
山道に馬車が通りかかると、大きな茶色の鷹のようなモンスターが三匹、高速でこちらへと飛んできた。寝ていたへこみちムクリと起きると、荷台に立ち上がり、血塗られた棍棒を振りかぶる。そして正確なスリースイングで一直線に飛んできたモンスターたちを空の遥か向こうに打ち返した。驚いて馬車を止めそうになったにゃにゃーん大王にへこみちが
「ダメだ。パーティーは止めるな。夜はこれからだ」
「ダンシンオールナイッよ。レッツゲッブランニュートゥモローなのよ」
「は!?えっ……まだ真昼ですけど……あっ、はい……わかりました……進みますね……」
二人から背中に殺気を向けられたにゃにゃーん大王は必死に手綱を握り直した。