へフラレーンかめた
「う、うう……ここは……」
小舟の中、2代目へこみちは起きる。そこは吹雪の吹いている木々に囲まれた山中だった。吐瀉物も排出物も凍りついて、よしこは鈍い光に包まれていて無事だが、魔族の少女は凍りついている。
「あ、まずい……」
とへこみちは辺りを見回すと近くに小屋を発見した。よしこを起こして少女を担いでいく。
小屋の扉は開いていて、倒れ込むように二人は中に入り込み、少女を降ろすとすぐに扉を閉めた。
小屋の中には何もなく誰も居ない。へこみちは小舟に食料を乗せていたのを思い出して、小屋から出て、吹雪の中小舟へと戻っていくと急に小屋の方から
「点火プログラムを実行します……スリーツーワン……」
という無機質な声がしてきて、へこみちがそちらを振り向くと「ゴゴゴ」という地鳴りと共に小屋の下から猛烈な煙が噴き出していき、小屋はそのまま底からジェット噴射を噴き上げながら空中へと猛烈な勢いで飛んでいき、そして吹雪の中、見えなくなった。
「え……何これ……なにこれえええ!」
半狂乱になったへこみちのすぐ横によしこが少女を連れてワープしてくる。
「あ、危なかった……お姉ちゃん、今の小屋なんなの……」
へこみちは思わずよしこを抱きしめると
「良かった……よくわからないけど、このままじゃ凍えるから……」
荷物の中からありったけの服を取り出して着込んで、少女にも着せた。よしこは
「俺、なんか自動でバリアが張られていて快適だ。エスパーの力かな」
平気なようでへこみちはホッとする。
吹雪の中、へこみちが少女を背負い、よしこが荷物を背負って小屋があった方向の先へと進んでいく。しばらく進んでへこみちの意識が寒さで朦朧としてきたころ、二人は峡谷に挟まれるように建てられた巨大神殿を見つけた。
中へと入ると、巨大な熊たち3匹が焚き火をしながら話し込んでいた。へこみちたちを見るとダルそうに一匹が立ち上がり
「人間と魔族か……合言葉は……?」
と尋ねてくる。へこみちとよしこが戸惑っていると背負われている少女がボソッと
「魔物に優しく……じゃ……」
へこみちが意を決して
「魔物に優しく!」
と叫ぶと、巨大熊は頷いて焚き火の輪に戻っていった。
その頃
「えー行きたくないにゅー」
ギルドで女性が面倒そうな表情でマスターを見ている。彼は錠剤の入った袋をポエミーに預けながら
「ギルド条項第七条に、反社会レベル50以上の転職があった時は監視員を同行させろって書いてんの!勇者は反社レベル89だから監視員がいるの!」
「ぽへー……いやだにゅう……働きたくないでござるう……」
女性はダルそうにポエミーに手を差し出す。ポエミーが錠剤を数錠渡すと、一気に口に入れ、ガリガリと咀嚼して飲み込んだ。そして気持ちよさそうな表情になり
「まあ……いっかにゅう……私、へフラレーンかめたっていうにゃあ……風邪薬大好きっ子だにゅう……カメタって呼んでくれにゃあ」
ギルドマスターが
「俺はへフラレーンとしぞうだ。妹を頼む」
ポエミーがカメタに
「何ができるのよ?」
「ぽへー時空計算師レベル93だにゃあ……因果の働きとか読んで、相手にダメージを与えるにゅう……ちなみに算◯師ではないにゃあ……にてるけど違うにゅう」
へこみちが感心した表情で
「前回より強くなっているな」
「そうね。超強職なのよ。一歩も動かずに相手を殲滅できるのよ」
としぞうが顔をしかめて
「こいつ風邪薬ないと頭回らんから気を付けろよ」
と注意した。




