一回忘れていい?
二人はその後泥のように眠り込んで、夜が明け、宿から出された朝食を食べ、ようやくここがドドーン祭り町というふざけた地名だったと二人が思い出したころ、外が騒がしくなる。
宿の他の宿泊客に聞くと
「総攻撃だってよ!ボボーン大自然将軍王様が敵の本拠地に突撃をかけたらしい」
へこみちとよしこは部屋に戻って、また力が抜ける。
「私たちが戦力削り尽くしたからかな」
「そうだねーずっけえと思う?」
「ズルくはないよ。私たちが戦う必要なくなってよかったね」
よしことへこみちは騒然としている街に出て旅支度を始めることにした。
市場で日持ちの良い食料などを買いながら、へこみちはよしこに
「魔王のことは一回忘れていい?」
「あーお姉ちゃんの故郷に帰るんだね。いいよー」
「魔王もいつか倒したいけど、気軽に戦ったらこんなに簡単に人が死ぬなんて……」
よしこはへこみちの背中を叩いて
「ちょっと休もうよ。俺、キャットランド見てみたいな!」
「ありがとう……」
へこみちは涙をぬぐって買い物を続ける。
1日かけて二人はへこみちの故郷であるキャットランドに向かう準備を完了した。翌朝には戦勝に沸いている大通りの横をすり抜けるように二人は街を後にする。
二人とも魔物を倒しまくったおかげですっかり高レベル冒険者となってしまい、ジャングルや樹海の困難な地形も、時折襲いかかる魔物の残党もあっさり退け、1日かからずジャングルを抜け、その北の大草原へとたどり着いた。
夕暮れを見あげながら背伸びをした二人の横にいきなり、茶色い髪の毛がボサボサで着ている真っ白なローブがボロボロな少女が飛び出してきた。真っ青で大きな両目で、二人と目を合わせた可愛らしい少女は、泣きそうな表情で北へと必死に逃げようとして、すぐにビターン!と草地にコケると
「ああああああ!もうだめだあああ!わしもヴァヴァンチーみたいに魔王様に怒られて処刑よりもっと酷いエッチな奴隷にされるううう!」
その場で泣きわめき出した。
「……」
へこみちとよしこは恐る恐る近づいて
「あの……もしかしてヴァヴァンチーちゃんのこと、知ってる?」
「エッチな奴隷になったの?」
「……!」
少女は怯えた表情をしたあとすぐに諦めきった顔となり
「ほれ、わしを捕まえてどこぞに差し出すが良い。もう良いわ」
そう言うと俯いた。へこみちたちは首を傾げる。




