鍛えましょう
「はーい、ここでワンッ!」
「ワッ、ワンッ!」
映りの悪いテレビがつけっ放しの部屋で、四つん這いになったヴァヴァンチーの背中に女子が乗り、グルグルと部屋の中を回っている。ヴァヴァンチーは顔を真っ赤にしながら
「こっ、これを外でずっと?」
「うん。ここではお友達、お外ではワンと鳴く間抜けな馬、動いていない時は足置き。お馬と足置きは服を着ないでしょ?」
「こ、ここでは着ても……」
恐る恐る尋ねたヴァヴァンチーに少女はニッコリ微笑んで
「だーめ。私、恥ずかしがったり、怯えて漏らしてるヴァンちゃんが尊くて愛おしいの。もう死ぬまで服と毛はありませーん」
「くっ……くうう……」
ヴァヴァンチーは、口から涎と鼻水、さらには少し涙を垂らし
「でっ、でも……命は助かった……」
「ふふっ、死ぬより恥ずかしいめにたーくさんあわせてあげるー無能な裏切り者には制裁をだー」
「あっ……やっ……そんな……魔王様あ……お慈悲を……」
少女は後ろ向きにまたがって、ヴァヴァンチーの股に手を伸ばし、いじり始めた。
その頃
洞窟では、輝く盾を手に取ったへこみちが
「し、尻に挟む……これを?」
未だ戸惑っていた。するといきなり目の前の湖から「ザバアアア!」と大げさに水しぶきをあげながら、カッパになった初代へこみちが現れた。
「それは魔王将の盾だ。尻に挟めば、自動で全ての攻撃を八割の確率で防いでくれる」
「なっ、何で知ってるんですか」
「ふっ、カッパの叡智だ」
初代へこみちはニヤリと笑うと、再び湖に消えた。2代目へこみちは意を決して尻に盾を挟む。そして両手を離すとすぐに盾の重みで落としてしまった。
「……無理ですよね……これ」
そう言ったへこみちのすぐ背後から
「諦めたらそこで修行終了なのよ」
というポエミーの声がして、へこみちが振り返ると、全身が半透明なポエミーが立っていた。
「あの、透けてますよ?」
「死んだのよ。逃げ切れずモンスターに囲まれてやられたのよ」
「……いやさらっと言いますけど、幽霊ってことですよね?」
「細かいことは良いのよ。これからはへこみちに取り憑いて存在し続けるのよ」
「ちょっと待ってくださいよ!」
近寄ってくる半透明のポエミーに湖に落ちる寸前までへこみちは追い詰められる。ポエミーは微笑んで
「さあ、お尻の筋肉を鍛えましょう」
と言った。




