まおちゃん
「死刑は!斬首だけはアアア!」
泣きわめき口から泡まで吹いている裸のヴァヴァンチーが、陰鬱な雰囲気の玉座の間の入口まで、全身を縛られて首輪をはめられ、ゴーレムから引きずられてくる。その位置から奥の玉座までは左右に数十体の厳つい魔物が並んでおり、音もなく醜態を晒すヴァヴァンチーを見つめている。
高い玉座の前まで引きずられてきたヴァヴァンチーを漆黒の鎧に身を包んだ騎士が足組をして見下ろす。そして静かだが低く悍ましい声で
「ヴァヴァンチーは一軍の将で、一万二千二十一の兵卒を束ねる立場にあった」
「ホワッホワー!ヒャアああ……」
ヴァヴァンチーは奇声をあげながらその場で失禁して震えだした。
「だが、王都グリグラン周辺で一万百七の貴重な命を失い、あろうことか逃亡した」
漆黒の騎士は立ち上がり
「皆の意見を募ろう。どうだ?」
魔物たちの中から、ボロボロのローブを着たひび割れたスケルトンが進み出て
「このコッツィー、皆を代表して謹んで申し上げます。極刑がふさわしいかと」
「爺、その通りだ。上級国民は栄誉の代償に責任を負うのだ。そしてこのような失態は我が国始まって以来である」
「ピャアア……ぴゃアアン……」
ヴァヴァンチーは奇声をあげながら泣き始めた。
しばらく沈黙と鳴き声だけが陰鬱な室内に響き渡り、漆黒の騎士がそれを払うように
「しかし、余の中では、極刑とは死のみを指すことではない。この世には死より辛いことは多々ある。英霊に報いるためにも、この無能の醜態を余は見てみたいのだが」
スケルトンが戸惑った声で
「しっ、死より……辛いことはとは?」
しばらく沈黙が続き、漆黒の騎士の悍ましい声が
「この無能は年若く、プライドが高い。これからは、立場と資産と、さらには魔力の源である体毛を全て奪い尽くし、一糸まとわぬ姿で、余の足置き、そして外遊時の馬としたいがどうか?」
スケルトンは全身で驚きを表現して跪くと
「……仰せのままに」
と返した。ヴァヴァンチーは口を大きく開けて玉座を見上げる。
乱雑にパジャマや下着が床に置かれた一室で、黒髪黒目でボブカットの下着姿の女子がベッドに座って、映りの悪いテレビを眺めている。女子は脇からスマホを取り出して
「ポライムビデオの映画更新されてる!何が良いかなー」
嬉しそうに操作しようとした瞬間、扉が叩かれ、賢そうな男性の声で
「魔王様、ヴァヴァンチーを連れて参りました」
「ごくろー。コモーもゆっくりしてく?」
「私は、代理としての役目がありますゆえ」
「身体壊さない程度に頑張ってー」
扉が開けられると、俯いたヴァヴァンチーが入ってくる。何も着ていない身体は、短くなった髪の毛と眉毛以外全ての毛が剃られている。女子はヴァヴァンチーにベッドの上から手招きして近寄らせると、脇にしゃがませ
「……ごめんなさいは?」
優しく微笑む。ヴァヴァンチーはその場に土下座して
「ごっ、ごめんなさい……」
女子はニカッと微笑むと
「よろしい。まあ、わたし的極刑でこれから大変だから、この部屋にいるときくらいはダラダラしてて」
と言いながら、ヴァヴァンチーに手を伸ばしベッドにあげ、抱き寄せた。
「まっ、まおちゃん……ホントにいいの?」
戸惑うヴァヴァンチーの頬に女子はキスをすると
「だめだから、ずっと私の側に居てもらうの。恥ずかしい思いをしながらね」
ヴァヴァンチーは顔を赤らめて何度も頷いた。




