真のへこみち
「というわけで、2代目のへこみちを決めるわけだけれど」
ポエミーが横目でニャンスコルを見つめる。
「わっ?私はなりませんよ!」
ヴァヴァンチーがよしこを見て
「私は人間でないし、よしこは子供だ。ポエミーは小柄すぎるし、パーティーの核だからな。目立たない方が良い」
よしこもニャンスコルを見つめ
「きっとへこみちさんの跡を継げるよ!」
ニャンスコルは口をあんぐり開けて固まってしまった。
1時間後
フンドシとサラシのみ着た、元ニャンスコルだった2代目へこみちが河原で茫然と立ち尽くしていた。
「あっ、あの……ガガガーンに行くのやめません?」
へこみちは猫耳と尻尾を垂らしてしょげながら言う。しかしポエミーが毅然とした表情で
「初代へこみちの失敗を乗り越えなければ、その名は継げないわ」
ヴァヴァンチーも頷いて
「お前には期待している」
よしこも祈りながら
「お姉ちゃんならできるよ!」
へこみちは真っ青な顔をしながら河へ飛び込んだ。そしてすぐに泳げる流れではないと悟って水に呑まれていった。
へこみちは河の中で不思議な光景を見た。頭に皿を乗せて、背中に甲羅を背負った全裸の初代へこみちが助けてくれたのだ。初代へこみちは、2代目へこみちを対岸まで上げると
「俺は、この河で死んでカッパとして転生した。この体ではもはや陸では生活できない。あとは頼むぞ。真のへこみちよ……」
と言うと再び河底に戻っていった。
「……なにこれ……なにこれええええ!!」
一人残されたへこみちは絶叫する。
へこみちはしばらく発狂したように泣き叫んだあと、涙と鼻水まみれの顔で、そびえ立つ高さ二十メートルの黒岩を見上げる。
「……もっ、もういいや!たぶん落ちて死ぬけど……きっと私はへこみちさんたちにあった時に死んでたの!」
などと意味不明なことを言って、へこみちは気合を入れると猫耳と尻尾をピッと立てて、ロッククライミングをし始めた。




