ニャンスコルとワンスコル
へこみちはニヤリと笑うと
「よしこは死んだ。もういない」
「なっ、何やったのか分かってるんですか!?」
ニャンスコルがへこみちに詰め寄ったその時だった。
「危なかったー。何かいっぱい星が光ってて、上下がないところだった」
よしこがなんともない顔でへこみちの隣に立っていた。
「よっ……よしこちゃん!?」
ニャンスコルが慌てて両肩を触るとよしこは恥ずかしそうに
「……俺、公爵に変な薬飲まされてから……たまに凄く強く念じると、気に入ったものの近くに戻って来られるようになってて……」
ワンスコルが怯えた表情で
「わ、ワープ能力者……」
と言うと、また気絶した。へこみちは全てわかっていたような表情で
「ふっ、いきなり金が入った布袋に、よしこの気配が出現したときから分かっていた」
「と、ということは、へ、へこみちさんは戻ってくるのわかってて、投げたんですか?」
「ニートレベル99だぞ?当たり前だ。お前みたいな下等モンスターには分からないだろうが、さっき山でよしこがいきなり出てきた時もワープだぞ。気配が急に現れたからな」
「と、とにかくよかったああ……」
ニャンスコルに抱きつかれて、よしこは照れていた。へこみちは黙って、扉の奥の部屋に入ると端に転がっていた古びたギターを手に取ると
「帰るか」
と呟いた。
へこみちが縛ったワンスコルを背負い、よしこがギターを持ち、ニャンスコルがその後ろをついていき、三人が深夜山道を苦労しながらテウテウ市の宿屋に戻るとポエミーはよく寝ていた。へこみちたちはとりあえず気絶したままのワンスコルが絶対に逃げられないように厳重に縛って二部屋ある部屋の一部屋を監視部屋にし、交代で寝ることにした。
真夜中、監視役のニャンスコルがウトウトしていると縛られて床に転がされているワンスコルがポツリと
「私は、人間に売られるのか」
ニャンスコルはハッと覚醒すると
「へこみちさんがペットにするって。ワンスコルってペットネームもつけてたよ」
ワンスコルは絶句すると
「わ、私が人間のペットだと……」
口を半開きにして、天井に虚ろな視線を向ける。ニャンスコルはため息をつきながら
「私もついでにニャンスコルにされて、ペット扱いなんですけどね!ってかあなた、本名はヴァヴァンチーで、なんかクイーンゴブリン?なんでしょ?」
ワンスコルは悲しげな表情で
「ああ……ゴブリンたちの輝かしき王だ。栄光の魔王軍第3師団の師団長でもあった……だが……」
「一万のゴブリンとスライムを失って、帰ったら魔王に怒られる?」
ワンスコルは少し黙ってから
「斬首は免れないだろう……魔王様は下級領民たちの福利厚生を特に重んじていて、逆に我々上級国民には厳しいのだ……」
ニャンスコルは唖然とした表情で
「すっごい名君に聞こえるんだけど……」
ワンスコルは皮肉な笑いを浮かべ
「……しかしグリグラン方面への戦力配置は、魔王様のミスでもある。アークデーモン3匹でも送り込めば、このような事態にはならなかった。この地方は人間の戦力レベルが低いからな」
ニャンスコルは疑いの眼差しで
「ほんとに魔王のミスなのー?そもそもあなたは何で一万も部下が死んだのか分かってるの?」
ワンスコルは憎々しげに天井を見ながら
「……おそらくは、グリグラン王国のブルー王の指示による王国暗殺部隊の卑劣なゲリラ戦法だ。森で弱い個体が単独でいるときを狙われ続けていたからな」
ニャンスコルは呆れた表情で
「ボスのあなたが戦っていたらよかったのでは?」
ワンスコルはニャンスコルを睨みつけ
「私はクイーンだぞ?戦うのはゴブリンとスライムたちの役目だ」
「呆れた。それで一万も殺されて逃げ隠れてたって、とんでもない無能ってことでしょ」
ワンスコルはいきなり両目から涙を流して
「……だって、とっても簡単な戦場で魔王様も囲んでいればいいって……だって……私は、こんなみんなが死ぬだなんて……ううっ」
まるで少女のような表情で泣き始めた。ニャンスコルは何とも言えないといった顔になり目をそらすと黙り込む。




