シロカミ
グルグル巻きにした異様な女性をへこみちは背負ってダンジョン奥に進む。にゃにゃーん大王とよしこもその後ろをついていく。通路は一本道で、奥の広い空間にはベッドや本棚テーブルなどが並んでいて天井には光る石がはめ込まれ全体が明るくなっていた。
「このモンスターの隠れ家ですねえ」
「金目のものあるかなー」
よしこが本棚に走っていきあさりだした。へこみちは興味なさそうに奥の階段を降りだし
た。
「初期魔法書あったよー!」
よしこたちが階段を降りきって通路を進みだしたへこみちに追いつく。
「それはなんだ?」
にゃにゃーん大王が興奮した表情で
「私みたいな一般人でも簡単な魔法が使える本ですよ!」
「そうか。適当に使ってくれ」
「任せてください!」
にゃにゃーん大王とよしこは歩きながら初期魔法書を開いて歩きながら雑談し始めた。へこみちは女性を背負ったまままっすぐな通路をさらに進む。
結局、モンスターにも危険なトラップにも遭わず、へこみちたちは地下三階奥までやってきた。目の前には錆びた両開きの鉄扉がそびえていてへこみちが押しても開かない。彼は異様な女性を降ろすと
「おい、ワンスコル起きろ」
と縄でグルグル巻きの身体を揺らし始めた。
「ワンスコル?」
よしこが尋ねると
「ポチみとワンスコルと悩んでワンスコルにした。ニャンスコルはすでに居るからな」
「あー犬的な名前ねー」
にゃにゃーん大王が慌てて
「私はアリサっていう人間ですし!少なくともにゃにゃーん大王っていう自分でつけた名前がありますし!そんなペットみたいな名前は!……はい、すいません……今日からニャンスコルです……はい……ペットです……」
にゃにゃーん大王改めニャンスコルは、へこみちから睨まれて、しゃがみながらよしこの背中に隠れた。緑の肌の異様な女性は明らかに置きているが、両目を必死につぶって寝た振りをしている。へこみちは大きくため息をを吐いて
「おい。ワンスコル。羽根をむしられるのと、胸や股の毛を全部むしられるのはどっちがいいんだ?」
と言うと、焦った表情で両目を開けて
「や、やめろ!!クイーンゴブリンである私の尊厳を奪わないでくれ!」
へこみちはニヤリと笑って
「起きたならそこの扉を開けろ」
「……くっ……」
ワンスコルは縛られたまま渋々立ち上がり、扉の中心部分に口づけをした。すると両開きで鉄扉が開いていく。
中には山と積まれた金銀財宝の上で、真っ白な顔のないマネキンが古びたギターをポロンポロンと奏でていた。ワンスコルは怯えた表情で
「クソッ……白神だ……この男が呼んだのか……」
と言うと逃げようとしてあっさりへこみちに捕まる。ニャンスコルが唖然とした表情で
「シロカミって、無属性の神ですよね?世界の間違いを正すために現れるっていう……」
よしこが部屋に入ろうとして、ニャンスコルが慌てて腕を取って通路に引き戻す。
「本当にアレがシロカミなら、私たちはもう帰るべきです。あの財宝も罠です。部屋に入ったら何処かへ連れ去られますよ!」
へこみちが不機嫌そうに
「偉そうなあいつに何か投げたい」
と言うとジッとワンスコルを見つめる。
「わわっ!私はいかないぞ!投げないでくれ!」
いきなり演奏が止むと、マネキンの頭に真っ黒な口が開いて
「ソレ……クレ」
とへこみちの腰に差してある血塗られた棍棒を指さした。へこみちは大きく深呼吸すると凄まじい殺気をマネキンに向けながら
「そんなに欲しいならくれてやる!行くぞ!ファイナルスーパー棍棒投げだ!!」
大きく棍棒を振りかぶって、次の瞬間には何故かよしこをマネキンに向けて全力投球していた。
「よしこちゃああああんん!」
というニャンスコルの悲鳴とともに飛んでいったよしこを、マネキンは大きく口を開けて何と吸い込むと、そのまま全ての財宝とともに消えうせた。