この変な生き物
へこみちたちが立ち止まって奥の通路を眺めていると、何とも心地よい羽音が聞こえてきて、かなりの速度で人のような物体が飛んできた。へこみちがあっさりとその物体を全身で受け止めて捕獲すると、ゴブリンが慌てて跪き、頭を深く下げる。へこみちの腕に抱かれて茫然としているその物体は、わずかな茶色の体毛で隠れている股と乳房の先以外、全身緑肌の手足の長い中背の女性で、背中からは2枚の透き通った虫の羽根のようなものが生えていて、ボブのような髪型の茶色でくせっ毛の頭頂部には黒く短い角が一本だけ生えていた。
ブラウンの大きな両目で、その異様な女性はへこみちを見つめ、愛らしい紫の唇で
「にっ、人間……」
と言いながら、そのまま気絶してしまった。すぐに奥から巨大な銀のサソリが走ってきてへこみちたちを見つけると戦闘態勢を取り、ハサミを一瞬振り上げ、そしてあっさり下ろした。
「……討伐隊に見つかったか……第3師団も終わりだな。人間よ。好きにするが良い」
にゃにゃーん大王が慌てて前に出ると
「あのですね!我々は最深部にある楽器を取りに来ただけです!あとゴブリンさんが話があるそうです!」
銀の巨大サソリはしばらく黙り込むと
「そこのゴブリンはモヘイ曹長か。要件は分かる。すでに第3師団の全兵力は任を解かれた。魔王様からの伝言もある。『すまない』だそうじゃ」
ゴブリンは頭をさらに下げ
「シルバル軍師様!もったいないお言葉ですゴブ!」
銀のサソリはジッと女性を抱き上げているへこみちを見つめると
「そこの男、それから女たちよ。ヴァヴァンチー様を頼む。わしはこのゴブリンや残存勢力とともに撤退をして魔王様に報告せねばならん。行くぞ」
「ははっ!外に仲間たちも居ますゴブ!この方たちは親切だから心配いらないゴブ!」
銀の巨大サソリとゴブリンは階段を上って静かに去っていった。
しばらくへこみちたちは立ち尽くし
「頼まれちゃいましたねえ……」
「モンスターたちのボスでしょ?王様に引き渡したら?大金もらえるかもよ」
にゃにゃーん大王とよしこがへこみちに抱き上げられている異様な女性を見ながら言うと
「……この変な生き物を、ペットとして、飼う」
へこみちがポツリと呟いた。よしことにゃにゃーん大王は口を開けて固まる。