テウテウ市
結局、三人はよしこを連れて行くことにした。壊滅したタピオカ村に戻ると、よしこでなく、むしろ三人がもめ事に巻き込まれる恐れがあるから戻るのはやめよう。という理由である。朝日の中、四人を乗せた馬車は進む。
西へと進む道には、馬車や徒歩の旅人や商人たちが忙しなく行き来していて、時折、兵士たちが魔物と戦っているところも見える。
相変わらず金貨の入った布袋の中に入ったままのよしこはその様子をみて
「レッサーゴブリンじゃん!俺、公爵の屋敷であれの◯◯◯についた◯◯◯が入ったスープ飲まされたぜ!ツーンとするんだよな」
とか
「ジャイアントスズメの群れかー。あれの◯◯は苦いんだよなー公爵がさー◯◯で食べさせられて顔をしかめる俺たちを見て、◯◯ってたよ!汚かったなー」
などと無邪気に三人がドン引きすることを喋りまくり、気分の悪くなったにゃにゃーん大王が馬車を停め、休憩することになった。
布袋から出ないよしこにポエミーが
「そこが居心地いいの?そろそろ服を着ない?」
と尋ねると、よしこはニコニコしながら
「あのねっ、俺、公爵によく金貨風呂に入れられてたから!寒い地下室よりあったかくて気持ちよかったんだ!出たくない!」
にゃにゃーん大王が目頭を押さえながら、ポエミーに小声で
「びょ、病院に連れて行かないと……モスモッスン公爵の◯的な虐待でもうこの子、とっくに壊れてますよ……」
へこみちさえも気を使った小声で二人に
「大きな街の警察か児相に置いていこう。身勝手な大人の世界の都合でこれ以上トラウマを与える必要はない」
「そうね。四人目の仲間にしようとしたけど、ちょっと……彼女のこれからの人生を考えるとね」
ポエミーも同意した。
1日後。
山や谷を越え、時にはモンスターをしばきあげ、テウテウ市に一行はたどり着いた。北と南を高い崖に挟まれ城壁のないその大きな街からは何本も煙が上がり、無残にも東の入り口から西の出口まで一直線に破壊されていた。
「また、あのドラゴンか。許せんな」
「ずっと西へ向かってるみたいね」
「あのドラゴンって?」
「こっ、子どもは知らなくていいんですっ」
「ケチー」
破壊された街のメインストリートを進む馬車の上からポエミーは左右を見回しながら、警察署を発見するとにゃにゃーん大王に馬車を寄せて停止するように伝えた。
「なんで!俺!離れたくないよ!」
金貨が抜かれた布袋に入ったよしこを外から縄で縛った状態で三人は彼女を警察に引き渡すと、故郷のタピオカ村に返して欲しいと伝え、足早に馬車に乗り込み立ち去った。
その後、同じ街の宿を三人は取り、へこみちが
「たまには冒険者ギルドに行くぞ」
と言ったので、ポエミーを残してにゃにゃーん大王とへこみちで行くことになった。
冒険者ギルドは街を破壊した大蛇のようなドラゴンの討伐依頼で騒然としていたが、二人は当然のごとく見ないようにして、すぐ終わりそうな依頼書はあるかと、壮年の引き締まった男性ギルドマスターに尋ねた。
「……高レベルニートと中レベル貴族かあ。基本職コンビとは変な構成だね」
そう彼は真顔で言いながら、スッと一枚の依頼書を渡してきた。そこには
「私の楽器をテウテウ市から南西七キロのダンジョン最深部に置き忘れてきました。取ってきてください。報酬七千ヴィラ 依頼者 名もなき詩人」
と書かれていた。へこみちは
「あからさまな罠だろ。楽器をダンジョン最深部に置き忘れる馬鹿がいるか」
「……確かに怪しいですね……匿名だし」
ギルドマスターはニヤリと笑って
「だからこそロマンがある」
「……ロマンか……!そうだな!」
ピクリと反応したへこみちを見てにゃにゃーん大王は肩を落とし
「ああ……簡単に乗せられちゃいましたねえ……」
と言った。