フロンテーヌよしこ
翌朝、へこみちたちは馬車に乗ってモッスン市から西へと旅立っていた。御者のにゃにゃーん大王は硬い表情で荷台に山と積まれた金貨が入った布袋を振り返りながら
「それ、モスモッスン公爵の家からもらってきましたよね……?」
「そんなことより脇見運転をするな」
「そうよ。油断一瞬、事故一生、よ。飲んだら飲むな、飲ませたら、乗せるな、よ」
「はっ、はい!あと、飲んでません!」
慌ててにゃにゃーん大王は前を向く。
「嘘をつくな。昨晩大量飲酒していたのを俺は知っているぞ。血中アルコール濃度はまだ高いはずだ」
「飲酒馬車運転で一発逮捕ね」
「一滴も飲んでないですって!」
「そうだよ!俺、見たもん!姉ちゃんは飲んでないよ!」
「ですよね……って誰!?」
金貨の布袋の中から顔を出した十二歳くらいの黒目黒髪ショートカットで浅黒い肌の少年に三人が注目する。にゃにゃーん大王は思わず馬車を止めて
「あの……誰ですか?」
ポエミーは少年の顔をマジマジと見つめると
「あー……この子は見覚えあるわよ。公爵の屋敷の地下で囚われていた子ね」
へこみちは顔をしかめて
「なんだ?お前のショタ◯◯◯を俺たちに捧げようと言うのか?残念ながら◯的な敗北者は無力なモンスターであるにゃにゃーん大王しかいないぞ?」
とても字面にできないことを言った。にゃにゃーん大王は両者を横にブンブンと振りながら慌てて
「私、ショタコンじゃありませんって!」
少年は顔を赤らめて
「俺……女なんだ……タピオカ村から真のタピオカ料理を作るために旅立ったらすぐ、あのクソ親父に囚われて……」
「あの村出身……もっ、もしかしてお父さんはジャスティスたからざきさんとか……」
にゃにゃーん大王が慌てて尋ねると、少年は微妙な表情で首を横に振り
「ジャスティスおじさん知ってるのかあ……自称村長で、民宿をしている内縁の奥さんに食べさせてもらってる老齢ニートだったでしょ?もしかして迷惑かけた?」
「自称村長だったんですか……道理で討伐に誰もついてこなかったわけだ……」
へこみちは衝撃を受けた表情で
「なんてことだ……やつもニートだったのか……貴重な真の仲間が……」
ガクリとうなだれる。ポエミーは腕を組んで何か考えながら
「老齢ニートという言葉はないわね。高齢無職というのが正しいわ。それに環境やメンタルなど様々な事情があるから無職いじりはよくないのよ。まあそんなことより、ショタティスみやざき(仮名)ってあだ名はどう?」
少年のような少女は微妙な表情で
「フロンテーヌよしこって名前なんだけど……」
へこみちが何故か急に怒り出すと
「うるさい。どう見ても男だろうが!まずはそこから出てこい!」
「まっ、待って!俺、何もきて……」
と慌てるよしこの首筋をつかむとズボッと布袋から一気に引き抜いた。白昼のもとによしこの何も着ていない、痩せて平坦な浅黒い全身が晒されて、へこみちは黙ってズボッと、金貨の入った布袋の中へとまたよしこを突っ込む。そして咳払いを一つすると
「つまり、俺女地黒ロリということか。三属性もちはいかんぞ。性◯敗北者のにゃにゃーん大王が忙しくなる」
「だから!私変態じゃありませんって!あっ……囚われてたんでしょ?大丈夫だった?」
「う、うん……◯◯されて◯◯とかされたけど……あと◯◯◯られて◯◯◯◯くらい。そんな大したことなかったよ?」
首をかしげるよしこに三人はドン引きして
「……そ、そうか」
「……モスモッスン公爵は死んでよかったのよ」
「……よしこちゃん、タピオカ村の家に帰る?」
よしこは首を横に振り
「俺!親ももう死んでいないし、村に帰っても厄介者だからさ。姉ちゃんたちについていきたい!」
と言って三人は考え込みだした。