第八話 出会い
森を出ることを決めた俺は、魔力波を飛ばして現在の場所を探った。これは魔力操作によって魔力を飛ばして周辺の情報を集める技術だ。すると森の中層に集団がいるのがわかった。中層にいるような魔物は基本的に群れないため、おかしいと思い重点的に探る。魔物の持つ魔力と人が持つ魔力は違う。この魔力の感じからして、人と魔物が戦ってるのか!
俺は全力で人がいる方へと飛ぶ。盗賊をボコして奪った服を着ているから、ぎり人前に出れる格好だ。
目的地へと近づいてきたところで俺は翼を消して走り出す。翼で飛んでる人間なんて普通に考えたら魔物の一種だと思うだろう。走っているとはいえ身体強化を全力で使ってるから時速40キロくらいだろう。そんなことを考えながら走った先には、
倒れ伏す複数のオーガと騎士っぽい人、そして他の個体より一回り大きく黒いオーガと戦う少女と女性の姿が見えた。今の所魔法使いの少女と前衛の女性の2人がかりで戦えてはいるがオーガはまだ余裕そうなのに対し少女たちはボロボロ。いつやられてもおかしくない状態だ。
そして疲労によってできてしまった隙にオーガが少女の眼前に移動し拳を振り下ろした、その瞬間俺は少女とオーガの間に割り込み、振り下ろされたオーガの拳を全力で殴った。
あっぶねぇぇ!ギリギリ間に合った!後コンマ1秒でも遅れてたらこの女の子死んじゃってたって!そんな気持ちととは裏腹に俺は冷静にこのオーガについて分析していた。コイツは明らかに普通のオーガより強い、というか強すぎるのだ。ただのオーガなら拳が弾け飛ぶ威力で殴ったのにコイツは普通に耐えやがった。そしてさっきの踏み込むの速度も速すぎる。森羅万象、コイツはなんだ?
オーガ(変異種) 突然変異によって他の個体よりも強靭な肉体を得たオーガ。スキル金剛を有する。他の個体を統率することができ、群れでの脅威はAランクに達する。
オーガの変異種、デミ・オーガってとこか。単体ではAランクには届かないがBランクよりは強い。B+ってとこかな。そして俺の拳に耐えることができたのはスキル金剛のおかげか。
分析を終えた俺は少女へと声をかける
「大丈夫か?」
「私は大丈夫。でも、騎士たちが重症なの。私のことはいいから彼らを助けて!」
その言葉に俺は驚いた。俺と同じ年頃の少女が自身の命より他人の命を優先したのだ。それにはどれほどの覚悟がいるのか。だがよく見ると少女の足は震えていた。そりゃそうだろう、死にかけたんだから。だから俺はできるだけ安心させるような声色で言った。
「大丈夫、君も君の騎士たちも、みんな俺が助けるから。」
そう言って俺は範囲回復魔法を唱える。
「エリアヒール」
淡い緑の光が周囲に広がっていく。
かなりの魔力を注いだから倒れていた騎士たちや少女の怪我はほぼ治っているだろう。
あとは、このちょっと強くなって調子に乗ってる筋肉だるまに身の程をわからせてやろう。
これから使う魔法は継続的に使える強力な攻撃魔法が欲しいと思って開発した、俺のロマン技だ。
イメージするは巨大な剣。破壊の象徴。純粋な威力のみを求めて創ったこの魔法の名は
「厄災の世界樹」
俺の手に紫色の焔を纏った巨大な剣が現れる。この焔に本来のものを燃やすという性質はない。あるのはただ破壊の意思のみ。俺はその剣を眼前の敵に向けて振り下ろした。
「ガァァ」
断末魔の声を上げながらデミ・オーガは真っ二つになり、絶命した。統率個体を失ったからか俺の魔法を恐れたのか知らないが残っていたオーガは散り散りに逃げていった。それを横目に見ながら俺はニヤリと笑いながら少女に言った
「な?大丈夫だったろ?」
「うん!」
ヤバいなにこの子、かわいい。可憐な顔にアメジストのような色の長い髪と綺麗な瞳。うーむ、100点だ。
って俺は初対面の女の子の顔を見てなにを考えてるんだ?正気を取り戻した俺は目の前の少女からの興味津々と言った感じの視線に気づいた。
「なんだ?」
「あなた、名前は?」
名前か、ステータス上俺の名前はレノ・ヒイラギになっているがそれは前世での名前だ。この世界の一員であることを自覚するためにも、新しい名前にするのもいいだろう。そう考えた俺は思考加速と並列思考をフル活用して名前を考えた。
そして決めた名前は
「ロア、俺の名前はロアだ」
前世、ゲームでいつも使っていた名前にした。ゲームで最強を目指していた、あの頃の名前に。
「じゃあロアって呼ぶわね。ロア、私たちを助けてくれたことへのお礼に貴方を我が家に招待します!」
ん?この子今なんつった?俺を家に招待する?この子、私の騎士とか言ってたし絶対貴族令嬢とかじゃん!ってことは俺がいくのは貴族の家ってことになるのか?俺礼儀作法とか全く知らないんだけど。でもこの世界について知るためにはついて行くのが一番早いか。そう考えた俺は少女に答えを返した。
「オーケー、その招待、謹んで受けさせてもらうよ。ところで、君の名前は?」
「私の名はアイリス、アイリス・ヴェルシュタインよ!」
これがアイリスとの出会いだった。