act1
夜会には遅れて顔をだした。
遅れてきたエリィは顔見知りと挨拶をかわしつつ、玄関ホールからメインホールへ静々進み出た。
初夏というにはいささか蒸しすぎた宵の刻。
両腕を広げるようにゆったりと開放的な方庭では既に社交を楽しむ雰囲気が満ちているようだった。
ゆかしい石造りのドムスは方庭に屋根を掛けた弊害で風の通りが悪く、見知った顔を見つける前に人熱れで薄っすら汗をかいてしまう。
肘から先が紗に切り替えられた最新のドレスは想像していたよりずっと涼しいけれど、エリィの生まれてからの十八年間とそれより長い過去とで一番暑い季節を前にすればひとたまりもない。エリィはたまらず扇子を取り出して扇いだ。
リウィウスの年の流行は、お堅い教会派が発端でありながら意外なことに衿ぐりが大きく開いているから扇子で胸元に風を送ると涼がとれるのだ。
教義だかなんだかで<女は指先から二の腕までをきっちり覆い隠さなければならない>と日ごろ声高に主張している教会派もこの暑さに音を上げたらしい。(音を上げた、といっても寄進の……喜捨額の多いお得意さんからの突き上げのほうだろうか)
やんごとなき家柄の令嬢がどこそこの夜会で卒倒したとか……彼女は教会派だったと記憶している。
騒動を境に苦肉の策で<紗で覆っているのであれば肌が直接露出していることにあたらない>と言い訳めいた公示があったのだという。
教会派が渋々認めた薄布越しに透ける意匠が、冬でも長手袋さえ身に着けず、腕をむき出しにしているような神殿派の目には新鮮に映り、結果、派閥を越え広まるとは皮肉が効いている。
この“夕方のそよ風を楽しむ会”も例外ではない。
ホールは頼りのない夕月が天窓から覗き、広間の中央――大きな水盤に主催者が目で涼を感じられるようにと、盤に小さな島を模して活けられた熱帯の植物にベールのような月光を落としている。
熱帯雨林の一画をそくりそのまま移したような趣向と色とりどりの紗・絽、羅、薄絹にオーガンジーの薄物が灯火に透けているのを見て、幻燈夜だわとエリィは感嘆した。
わたしがうっとりみつめていると「エリィ」――呼ぶ声がした。
視線を向けると、まだ青年とはとても呼べない小柄な少年がわたしに向かい、一目散にホールを突っ切った。
「あら、オージー。こんばん……」
わたしが言い終える前、
「待ってた」
オージーはそれだけ言うと踵をかえした。
「ごめんなさいね。思っていた路が使えなくて手間取ったの。御者も坂道に慣れていなくて往生したわ」
わたしはオージーを追いかけながら弁解を口にする。
御者はお父様からわたしを任された手前、真っ青になり必死の形相で失態を取り返そうと奮起したので間に合ってしまったが、オージーの頼みでも気が進まなかったわたしは遅刻を歓迎していたのだ。
間に合ってしまったけどね。
オージーには悪いがひとりで何とかしてほしかった。わたしは苦い気持ちを手にした扇子で綺麗に蓋をした。消極的なわたしの歩調に痺れをきらしてさあ、とオージーが腕を差し向ける。
観念してわたしは軽く手を添えた。
歩き出すと「見て」と促され、オージーの視線を追うとアンジェに張り付くように背の高い青年のまっさらな軍服姿があった。
どうするの? 視線で問えば「エリィは彼の相手を」と一番恐れてたことを囁かれる。
お願い。気が付かないで、との願いは気まぐれな神々に届かず――
「あら。今晩はオージー」
アンジェはどこか落ち着かないような高揚した表情で振り返る。
「やぁ、アンジェ」
オージーは悪びれたり隠したりしないアンジェに少し呆れた感じだった。
「エリィも」
ええ、と小さな笑みを返す。
エリィは無言で佇む青年をにこやかに上機嫌で仰いだ。
わたしは覚悟を決め――
「アンジェ――お友達に紹介してくださるかしら?」
扇子越しにこやかに<彼>を見た。
アンジェのドレスも輪郭を透かす流行の型で、胸元は薄様の垂れ襟が美しいドレーパリーの波を生み、ペプロスのようでもある。袖はたっぷりと布地が使われ、アンジェが動くと優美にふんわりひろがる。胴体は白に近い紫。垂れ襟と袖、装飾の飾り布は濃い紫の生地で落ち着いている。見事な金の髪は緩く結い、襟足を二房だけ背中に流し、同布のリボンを揺らしている。春の女神タロのように華やかなアンジェは「アレクよ」とごくごく簡単に青年を紹介した。
「アレク、親友のエリィとオージーよ」
アンジェに親友とまとめて紹介されたわたし達に青年は侮るような一瞥を投げてよこし
「アンジェから聞いている。よき弟分だとか……ならば俺にとっても弟だ。よろしく」
シミのない手袋を差し出した。
「アレク――アレキサンドロスのあだ名だったかな?」
オージーは挑発された動揺も見せず切り返した。
「……アレクサンダーだ」
「ああ、そう――そちら流だとそうなるね。なら、僕はオーガスト。オーガスト・クラウディウス」
本当はもっと長いんだけどね。面倒だからいいでしょう? と殊更子供っぽく首を傾げ
アレクサンダーを鼻白ませた。
オージーは物珍しそうな顔でしげしげとアレクサンダーの飾緒を指し
「ケントゥリオン?」
「さあ、それが何かは知らないが、士官だ」
「ふーん。将校さんなんだ――かっこいいねぇ。僕は乗馬も剣もさっぱりだから羨ましいよ」
オージーは口と態度こそしおらしいが「まだ候補だろう」とわたしにだけ聞こえるように囁いた。
わたしはそれとわかぬよう、オージーを扇子でぶった。程度を推し量るつもりなのだろうがこんな所で喧嘩を売らないで。悪い子。
「アンジェはどこでこんなお兄さんと知り合ったんだい?」
「もう。オージーったら。アレクにそんな口をきいて」
ごめんよ、とオージーは拘りなく謝る。身近にいる人はみんな扉は閉じておきたい人だから珍しくてさ。
アレクサンダーは姉弟じみたやり取りを醒めた目でながめるばかりだ。
「どこでしりあったかは――内緒よ。内緒」
ね? とアンジェが目配せる。
オージーは素知らぬふりで女性同士の意味深な仕草をやり過ごして
「エリィもだろう? 彼のはなし聞きたいよね」
”だいたい分かったから、あとは手筈のまま”と打ち合わせた通りのセリフ。
「――ええ、わたし、大変興味を惹かれるわ。なにぶん、双神の加護から出たことがないもので。軍神のご活躍を聞いてみたいですわ」
双神の加護から出たことがないとは言ってしまえば”世間知らず”となるけれど、双子の邦の支配圏は広いから庇護下から出ていくのも一苦労で、これを異邦人に使うと”田舎のことは知らない”と馬鹿にした意味にも取れる。
青年将校が怒ってこの場から立ち去ってくれることを期待したけれど、彼は――
「軍神とは恐れ多い。まだ若輩の立場でこれといった戦果も」
ちなみに、この軍神というのも先ず先ず馬鹿にした意味なのだけれど……謙遜しているくらいだから気が付いてはくれないようだ。
双神はマーズの息子とされており、教会派をこき下ろすとき神殿派が使う常套句で、同じ羊飼いであり、一方は軍神の息子ながらパクスを尊び、一方は開戦に固執する、とわたしからしたら良く分からない理屈を捏ねて、神話時代まで遡り粗探しする。
開戦派と教会派はイコォルといっていいからアレクサンダー将校もこの如何にも神殿派らしいセリフに反応すると思ったが……プレブス出の彼には通じず不発に終わってしまう。
そう、わたしはアレクサンダーに聞くまでもなく彼のことをよく知っている。
多分、彼自身よりずっと――
オージーは冴えた黒曜の瞳に敵の失敗を見咎め、好敵手に失望したような醒めた色を浮かべると
「――さあ、アンジェ。僕たちは踊ろうか」
サッと瞬時に消し、流れるような所作でアンジェの手を取って口づけた。
色めきたったアレクサンダーに
「レディに”慈悲を”と乞うのは男の甲斐性だよね」
と、茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってみせた。
ちらり、と隣に残った彼を盗むように仰ぎ見た。首の角度を上げなければ彼の肩しか映らないのだ。
むっつり黙り込んでふたりが去った方を睨みつける青年は鮮やかな赭い髪と青い目をしているため、第一印象はそれらに目を奪われるが、実は顔の造作は女性的で繊細ですらある。
表情を緩めさえすれば相手の胸に甘く忍び込むことも出来るだろうに厳めしく飾った表情と厳格な物腰がそれを裏切る。
上背がある彼は軍人らしいピンと伸びた背筋の美丈夫なのだった。
不本意とはいえオージーに≪アンジェと踊っている間、レディをお願いいたします≫と任されたにも関わらずむっつりと腕組みは解かず、組んだ腕を指で叩いて不機嫌を隠そうとしない。
わたしを忌々しく感じているのが手に取るように伝わってくるではないか。
あらあら……随分と明け透けな態度ですこと。オージーがわたしをダシにして彼の可愛らしい秘密の恋人――わたしの親友のアンジェを浚っていたものだから、腹だたしいのね。
なるほど少しだけ礼儀作法を身につけたようだけれど所詮は付け焼刃ということ。
真に貴公子然とした振る舞いはまだ板についてはいないよう。
わたしは苦笑する口元を扇子で慎み深く隠した。
アンジェはアンジェでオージーのリードで愉しそうに踊っている。
親友のアンジェは舞踏会の華だ。
控えめな微笑ではなく心が赴くままの大輪の笑みを溢すアンジェの周りには自然と人が集まる。婚約者のオージーは面倒くさそうに親が決めた婚約者なんだと溢しつつ、その実二つ年上のアンジェに首ったけで今夜もアンジェとのファーストダンスを踊るために従姉のわたしにお願いするぐらいなのだ。
アンジェの恋人さんはダンスホールで上機嫌にスッテプを踏むふたりにすっかり意識を向け、隣のわたしを蔑ろにしている。
興が乗ったのかアンジェはファーストダンスが終わった後もオージーとホールに残った。
許嫁として長年ずっと踊っていただけあって気心知れ、ただ音楽に身を任せるだけの時間を堪能している。
薄いチュールを重ねたドレスが蝶の翅のようにふんわり揺蕩う。可憐な顔は音に舞う快感からか官能すら感じる。わたしの親友はハッとするほど美しいのだ。アンジェに魅了されるのも無理はない。
やっと彼は気まずい空気をなんとかしようと口を開いた。
「……ところでこの曲は随分と流行しているようですね。どのダンスパーティーへ行ってもコレにお目見えする」
"コレ"といってみせたのはまさにアンジェが身を任せている曲だろう。
「……そうですわね」
明るい曲調の前半は飛び跳ねる様な軽快さと高揚感を掻き立てるが、変調した後半は軽快さは鳴りを潜め、高揚感は不穏な……焦燥感に取って代わるのだ。
パトリキの楽団らしく楽士達の腕もよい。
「最後には華々しさが戻りはするが、でも途中は暗く重い……わたしは好みませんね」
「でもアンジェは好きですわ」
「そうですね――あなたもお好きなのですか?」
「わたしは元になった詩の方が好きですの」
「詩ですか?」
「ええ。この曲は詩に惚れ込んだ侯爵様が作曲家に依頼したものです。それもご自身のお嬢さんへの贈り物として」
「なるほどね……あなた達はそんなことばかりに一生懸命なのですね」
まるでアンジェだけは別だ、とでも言いたげではないか。
「あら。でもこうしてあなたのアンジェは楽しんでいるわ」
「おれには無駄に思える」
ボソッと囁く。
一人称が"わたし"から"俺"に変わった。
襤褸が出ていますよ、と教えてやるほどわたしは親切ではないのだ。
アンジェは男性らしくてとっても素敵なの、とはにかみながら打ち明けてくれたものだが……生憎わたしは粗野としか思えない。
「詩か……アンジェもその詩を知っているのですか?」
聞こえていないと思っているのか、彼はそう尋ねた。
「どうでしょうね?」
爆発的に流行しているが裏側とまでいかないものの経緯まで知っている人は多くないのかもしれない。
「曲が終わるまでまだかかりそうです。暇つぶしに教えてくれませんか?」
暇つぶし……いっそう清々しいほどだ。毛ほどもわたしに興味がないらしい。
いまさら溜息も出ない。
(毎度のことながら気が付いているのはわたしだけみたいね。)
彼の冷淡な態度は、わたしに今回も諦めるしかないことを明かしせしめた。
「初めの夜会に心を弾ませる少女の詩ですのよ。不安と期待に満ちながら、美しく飾り立てられたホールを歩いていると、ある紳士に手を差し伸べられファースト・ダンスを踊るの――青年に魅了され、そのまま少女は虜になってしまうの」
「ほう……虜に。そこまで言うからにはかなり参ってしまったのでしょうね」
自分のように――とでも言いたいのかしら。
彼はわたしを見ない。視線はアンジェを追い続けている。
「……ええ。魅了された少女は毎夜、夢遊病のごとく青年を求めて彷徨い歩くの」
「尋常ではないですね……その男、少女になにかしたのですか?」
「ご名答ですわ。青年は魔性の者だったの」
「魔性……悪魔のような?」
「名言はされていませんがそうとしか考えられなくて?」
「運が悪いことだ。ただの性悪男ならばまだしも魔物とはたちが悪い」
性悪男!
明け透けな言い回しが気に入って、わたしは思わず笑い出しそうになった。
「――生気を吸われ、衰弱した少女は恋する幸せの中で命を落とす……と、云うような詩ですの」
枝葉を落とし説明したが――
薔薇の花が 乙女を引き寄せ
恋の魔力が 心に宿り
死という闇が 彼らの運命を繋ぎ
生と恋の舞台で舞踏せん
退廃的でただ美しくあれ! と清貧を説く協会派からは批判されるような金糸で縫い込んだアラベスク模様のような優美さと背徳が織りなす一篇なのだ。
「なるほど……悲恋の詩というわけですね。惜しいな――結末以外はアンジェにぴったりな曲だ。……由来を知ったからには尚更わたしがアンジェと踊りたかったものです」
ちくり、と愚直に当てこするからにはダンスが踊れなかったことに拘っているのだろう。
「しかし意外ですね。あなたのような淑女までこんな意地の悪い企みに協力するとは」
皮肉をたっぷり織り交ぜて苦言を呈する手際はご自身が嫌っている貴族らしいじゃない?と可笑しくなったから……少しだけ魔が差した。
「――アンジェにぴったり? そうかしら? わたしは、あなたにこそぴったりな曲だと思うのだけれど」
「……」
むっとして眉根を寄せた彼に
「短気はお辞めになってね――あてこすりでもなければ、皮肉でもないもの」
かなり直接的な釘を刺す。アンジェを誘惑する、とそういうことを言いたいわけでないのだこっちは。
「ただ、羨ましいのですわ――あなたも詩の少女も」
「羨ましい? おれを?」
何故? 本当に分からない――アレクサンダーの表情がそう物語る。
丁度、変調に差し掛かる箇所で前半は鳴りを潜めていたビオラやコントラバスの弦がかき鳴らされる。
少女が破滅に向かう、絢爛豪華な墜ちるような旋律だ――
「だって、恋に総てを投げ打っているもの――比喩ではなく命がけで。実際、可憐だわあなたは」
彼は唖然とした表情で今晩初めてわたしを真正面から見つめた。
(あらあら……驚いた顔はずいぶんと幼いのね)
こんな表情は初めて見るのではないかしら? ねえ凛々しい将校さん?
「この青年は恋のアレゴリーなのだわ。この曲が胸を打つ理由は、恋に憧れて、でも恐れて、それでいてどうしようもなく惹かれて――恋をして、自分が自分でなくなって、恋のために命すら捨てたっていい、そんな恋にきっとみんな出会いたいからよ」
「あなたは――」
わたしはアレクサンダーを制した。本音を告げるために、だ――
「わたしもあなた達のように恋に堕ちてみたいと思うの」
アレクサンダーの双眸が揺れ、ぐっと寄って左上に視線が彷徨う。
「……本当に初対面か?」
どこかでお会いしましたか? とは、白々しい。毎回顔を会わせているのよ。あなたとは。
まあ、あなたはあなたの可愛らしい<恋人>に夢中だから、わたしのことなど壁紙の模様くらいにしか気にも留めていないのでしょうね。
わたしは――
「……なんて、他力本願な時点で高望みですわね」
冗談めかし本気にしないで、と笑顔で窘めた。
気付くと曲は終わっていて
「ごめんねさい。アレク」
目一杯愉しんだのを後ろめたく思っているのか眉尻を下げ、神妙にアンジェは戻ってきた。
アレクサンダーは不意を突かれたような表情を一瞬浮かべたが
「……いや。楽しかったかい?」
すぐに笑みを取り繕った。
アンジェはほっとアレクサンダーの腕に手を掛け、彼もそれをごく自然に受け入れて本来のパートナーのオージーに目礼で応えアンジェの手を握り、また演奏の始まったホールへ取って返す。
残されたわたしたちはと言えば
「悪かったね。エリィ」
「いいえ。こちらはこちらで楽しくおしゃべりさせていただきましたわ」
オージーは婚約者が別の男の手を取るのを見せ付けられながらもわたしへ差し伸べる手つきは丁重なものだ。
「詳しくは踊りながら話そう」
二曲続けて躍ったにも関わらず、彼の若さの前には疲労は関係ないらしい。
ダンスの練習相手をずっと務めていたから、アンジェほどではなくともオージーとわたしのダンスは滞りなく滑らかに流れて行く。
黒髪を肩まで伸ばしたオージーは、十五という若さと装飾的なフロックコートのせいで背伸びしているみたいに微笑ましいけれど、この頃は会うたびに身長が伸びて、顎のラインを仰ぎ見る日も近いのかもしれないと感じる。
でも今はまだ、勇剛な内面に似合わない、少女に見紛う可愛らしい顔はわたしと同じ高さにある。
「エリィからみてアイツはどうだった?」
「あんなごく短い時間の当たり障りのない会話ではなにもわからないわ」
半分は嘘なんだけれど。
「まぁ、おおむね問題ないのではないかしら」
オージーは小さく項垂れて
「アンジェの気まぐれには困ったもんだよ」
だいぶ投げやり気味だ。
許嫁に振り回され慣れているオージーもアレクサンダーの件は堪えているらしい。
彼の心の乱れを示すように、やや乱暴になるスッテプ。
わたしは曖昧に微笑む。
「はしかのようなものだわ。逆立ちしたってアンジェとあの人は結婚出来やしないのだからいつも通り、恋が醒めるのを待ちましょう」
「そりゃあ、アイツだって自分の立場は弁えていると思う……僕が心配しているのはアンジェの方さ。完全にのぼせ上がってる。放っておくと何をしでかすかわかったもんじゃない。アイツをその気にさせて結婚するために改宗させたっておかしかないね」
僕は驚かない自信があるよ、とオージーは真顔で断言した。
「確かにこのままだと彼が危険かもしれない」
(あの赤毛の青年は身を粉にして恋にすべてを捧げてしまうのでしょうから……)
「だろ? アンジェがぶちまけたのがエリィ相手で本当によかったよ! 想いの丈とやらを両親にも話していなのは奇跡さ! 僕はヴィリプラカに寄進するのを真剣に検討したからね」
「……アンジェは告解には行ったわ」
「僧さん相手だろう? ならいいさ」