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アカハネ伝承 ~不思議な赤頭巾と亡国のヒストリア~  作者: 宮野徹
龍の末裔と砂漠の奴隷たち 【Journey story】
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リーゲルと共謀者の元奴隷たち、そして、東の小国による国盗りは、つつがなく進行し彼らは成し遂げた。ヘロボロスの国民たちは、未だ不安な状態でいたが、リーゲルたちの行いに、積極的な反感をする者もいなかった。



「それではリーゲル殿。我々は一度、本国へ戻り、交易商隊と開拓団の編成を行ってまいります」

「よろしく頼むよ。その頃には、こちらの情勢も落ち着いているだろう」


リーゲルは彼らを見送り、そして簒奪者もとい、同志たちを宮殿へと集めた。


「さて、諸君。やるべきことはたくさんある。これから、人間の国を築いていこう」


彼の周りには多くの元奴隷たちが集っていた。彼らは事前に示し合わせていたのだ。いつか必ず、人の権利を取り戻すために。




「俺は、そんなことすらわからなかったのか」


変わらず地下蚕鍾の下層で、ギンディルは己の無知を恥じていた。性格的に、調子に乗るようなものではない。ただ堅実に、国のために奔走してきただけだ。それがいつしか、砂漠の狩猟者などと呼ばれるようになった。国民が笑ってくれるようになった。あの何とも言えない充足感は、抱いてはならない感情だったのだろうか?


そんな浮かれた想いの裏で、人間達の本音を見抜けないとは。なんて単純な奴だろうと思った。自分に対して向けてくれる信頼は、全部独りよがりだったというのだろうか。


「そうだ・・・。少なくとも俺は、人間達を必要としていた」


狩りに向かう際の、キャラバンの編成と手配。いつも変わらず良質な武器を生成する職人連中。幾度もなく開かれた宴で、いつだって楽しい時間を提供してくれた踊り子たち。

ギンディルにとっては、彼らは大切な同士だった。同士だと思っていた。その上で自分にできることが、狩りをし、国を安定させ、この帝国を守り続けることだと思っていた。

だけど、その大切というものでさえ、今さら気付いたのだ。彼らのことを考えもしなったことには変わりない。


「俺は、どうすればよかったのだろうな・・・」


檻の中から、地上への穴ぼこを見つめた。外は夜だろうか。光はほとんど差し込んでこない。投獄された同胞たちは無事だろうか?死銀鉱の毒を吸わされ、かなり衰弱しているに違いない。せめて、リーゲルたちが人並の扱いをしてくれることを願うしかない。


いや、そんなことはしないだろう。奴らは蛇人たちを奴隷として扱うつもりなのだ。それも、この国の人間達のようなものではなく、本物の奴隷として。


「もっと早くに、このことに気づいていれば、彼らと和解する機会はあったのだろうか?」


気付くことが出来ていれば、このような結末にはならなかったのだろうか。いや、それでもきっと、蛇人と人間達との関係は、そう簡単には解決しなかっただろう。

それくらい、人よりも知性の低いギンディルにもわかっていた。

ヘロボロスの歴史は2000年。2000年もの間、人間達は奴隷として生きてきたのだ。

今まで生まれ、そして生を全うした人間達の想いをくみ取ったのがリーゲルだ。無論、奴のやり方を認めたわけではない。自分が第3者の立場であれば、実に巧妙な策士と讃えるだろう、というだけの話だ。

王である父を殺めたこと、同胞に手をかけたこと。それを思うと腸が煮えくり返りそうになるほど、怒りが込みあげてくる。だが、自分が彼らの立場だったとしたら、違うやり方を思いついただろうか?

国に反逆を決意するというだけでも、並の者には難しいことだ。入念な策を練り、自分たちの目的を達成するために、非道になるのは致し方が無い事だ。リーゲルたちの行いは、是非を問うものではないのだから。


「俺の命は、砂を掘り続けて終わるということか」


なんと儚い命だろうか。きっと、かつて王子だったものが死んだことすら知られずに、朽ち果てていくのだろう。

これから訪れるであろう、奴隷としての日々を思うと、なんとなくだが、彼らがそうであった頃の心情が読み取れるような気がした。

けれど、きっと自分たちは、彼らのように再び玉座に付こうとは考えないだろう。


「俺たちは、何者でもなかったんだな。龍の血も、加護も、与えられてなんていなかった」


リーゲルの話を真に受けるわけではないが、真偽を知ったところで、何になる?自分たちは、リーゲルが言ったように、力ばかり手にした能の無い亜人に過ぎない。

国民たちの想いに耳を傾けなかった能無しに、国を背負えるわけがないだろうに。


それでも、ただ一点だけは、確かめたいことがあった。今さら何をと思うかもしれない。だけど、この20数年の僅かな人生で得た、かけがえのない時間に、何の意味もなかったと思いたくない。せめて、ほんの少しでいいから、彼らと話がしたかった。


「俺たちの関係は、見せかけだけの陽炎のようなものだったのか?」




「それは自分で確かめないとね?」


誰もいないはずの地下蚕鍾の下層に、聞きなれた声がした。顔を上げると、そこには、純白の御髪を下した少女の姿があった。暗い地下蚕鍾の下層でも、その白さと、赤いフードはとても目立っている。


「・・・ハル。いったい、いつからそこに?」

「さぁーて、いつからだろうね?かくれんぼは得意なのよ?」


そう言いながら、少女は檻に近づくと、鍵をかけてある錠を手で握りしめた。そんな細腕でいったい何をするのかと思えば、錠は瞬く間に赤熱し、どろりと液状なってに溶け落ちた。

彼女の細腕が、ゆっくと檻の扉を開けた。


「出て」


手足に鎖を繋がれているから、胡坐をかいたまま、ずりずりと這いずるように檻から出る。

ハルは腰に差した剣を抜き、鎖を叩き切った。小さな火花が、暗い下層を僅かに明るくさせる。

そして、少女はギンディルに対して、手を差し伸べた。


「行きましょう?」

「・・・・・・どこへ、いくというのだ?」

「ふっ、日の当たる所だよ?」


彼女の物言いは訳が分からなかった。こんな時間に、太陽など上っていないだろうに。それでもギンディルは、光に吸い寄せられる羽虫のように、手を伸ばしていた。


小さな手だ。力任せに握れば、潰してしまいそうなくらい、脆く柔いものだった。それなのに、とても暖かかった。

蛇人の掌は、甲殻が薄く、多少柔らかくはなっているが、それでも直に火に触れても表面が焼け焦げるだけで、肉体に影響が無いほど強靭な肌だ。そんな肌で、人間の手を取ったくらいで、熱量を感じられるはずがないのに、その少女の腕は、太陽に用に温かかったのだ。


「ハル」

「何?」

「俺は、・・・俺を逃がしてくれるのは、とてもありがたいことだ。だが、今俺がいなくなれば、宮殿に捕えられている同胞たちが、どんな扱いをされるかわからん。申し訳ないが、このまま国を出るわけには・・・」

「何言ってるの?ここはあなたの国でしょう?」


少女はそう言ってのけた。いったい何を言っているのだろうか。ここはもう人間の国だ。自分たちは、簒奪者に敗れたのだ。それなのに、少女は笑っていた。


「あなたには、まだまだやってもらわなきゃいけないことがあるんだよ?」

「ハル、気休めはよせ。俺は、俺は何者でもなく、何もできなかった愚かな亜人だ!奴隷を物と扱い、彼らの想いも気持ちも、ずっと踏みにじってきた最低の者だ。そんな俺に、いったい何をさせるつもりでいるんだ!!」


少女の手を引き力は変わらなかった。


「別に私はしてほしいことは無いんだけどね。みんな待ってるんだよ?」

「・・・何?」


ようやく地上への出口にたどり着いた。そこには、嫌という程顔を合わせた、従士たちの姿がった。


「ギンディル様、ご無事で何よりです。さぁ、お急ぎください」


従士はそう言ってギンディルは案内するかの如く、道を開いていった。

外は異様に静かだった。いつだって賑わいを見せていたヘロボロスとは思えないほどに、故に、小声でささやくような声でも、空気に響いて聞こえてくるようだった。


「お前たち、どうして・・・?」

「話はあと。とにかく、行くよ?」


ギンディルは再び少女に手を引かれた。細くて柔い腕で、力強く。



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