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アカハネ伝承 ~不思議な赤頭巾と亡国のヒストリア~  作者: 宮野徹
雪食いと火の神 【Journey story】
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数日前の、まだムンバイと遭遇する前のこと。

ハルは、この村で情報収集をしていた。村人たちは、自らが火の神フルウバの信徒であることを吹聴していた。それ以外は、ごく普通の村人たちだった。

雪食いについて聞いているうちに、ある程度どういった種族なのかは、知ることが出来た。村人たちは雪食いを羨ましがっていた。自分たちと同じ火の神の眷属でありながら、人間よりも優れた能力を持っていると。


今思えば、それが霊火の魔法のことだったのだろう。人間は魔法の才能がある者は少ない。人間にとって魔法は、10年に一度の天才が生まれるようなことで、並の者には縁遠いものだ。

それ自体は、異種族への憧れのようなものだったのだろう。鳥のように空を飛びたいと考えるのと同じで、雪食いたちの、霊火の魔法の力に憧れたのだ。


それだけだったら、ハルもこの村の者たちを葬ったりはしなかっただろう。ハルには、人を殺す理由がないし、《《人を殺せない理由》》がある。

それでも、やらなければいけない時はあって、それがこの時だったのだ。




日が完全に沈み、夜闇が訪れた後も、村の跡は霊火の光で溢れていた。青白い炎は、普通の火よりも光を放っているように見える。自然の火は、照明としては案外役に立たないものだ。暗闇の中で燃えているから目立って見えるが、実際は目の前を照らす程度の光量しかない。

それと比べ霊火は、まるでランタンに火を灯したように輝きを放ち、村だけでなく、その周囲が明るくなるほどに、光を放っていた。

雪が少し弱まっているおかげで、幻想的な空間が出来上がっている。


ハルは、火が弱まった場所を通って、火の中心にいるムンバイの元へ寄っていった。


「きれいだね」

「・・・そう思うか?」


ムンバイの表情は、初めて会った時と、大して変わっていなかった。ミコの言う子供のような表情とは、たぶん違うだろう。


「ムンバイ。あなたは、アカハネを嫌っているのよね?」

「ああ」

「じゃあフルウバは?」

「嫌いだ」


ムンバイの表情は変わらない。


「そう。・・・そう言うことにしておこうかな」

「ん?」

「ねぇ、ムンバイ。雪は好き?」

「雪は雪食いの食べ物だ。好きも嫌いもあるか」

「なら、灰は好き?」

「《《はい》》?」


そこで初めてムンバイは、表情を変えて、ハルの方を見た。この反応は、予想通りだっただろうか?全部ハルの憶測に過ぎないのだが、ムンバイが、なぜ火に対して歪んだ執着を見せるのか、なんとなくだがわかった気がするのだ。

ハルは、ムンバイの目の前で、崩れて粉々になった灰の山に手を突っ込んだ。掌に、まだ生暖かい灰の盛りを乗せて、それをムンバイに見せつけた。


「これは何だと思う?」

「・・・?雪だろう?」

「・・・そう」


手を傾けて灰の粉を、新雪の上に振りかけた。灰色の粉と、真っ白い雪が合わさると、当然雪は溶けだし、灰を含んだ濁った水たまりが出来た。

遺体を焼いていた雪の棺からも霊火が消え、灰が雪を溶かし始めていた。火には熱が無いのに、霊火によって生まれた灰に、灰本来の熱があるのは、不思議なものだ。


「さて、役目は終わりだ。帰ろう」


ムンバイはゆっくりと立ち上がり、溶けだした雪を避けて、歩いていった。

ハルは、彼が座っていた箇所に目をやった。雪が押しつぶされ、どうしてか、少しだけ溶けて、びちゃびちゃになっていた。




一同はムンバイの住処の洞穴に戻っていた。洞穴のすぐ外に、ミコが作ってくれた霊火の焚火を囲んで、しばらく談笑していたのだ。


「そんなことが・・・。世界は未知なるものに溢れているのですね」

「そうだね。知らないことばかりだよ。それを知るのが、とても楽しいんだ」


ミコが旅の話を聞きたというから、これまで辿ってきた旅路を掻い摘んで話していたのだ。ムンバイの方は、焚火から少し離れて、豪快にその辺の雪を口に運んでいた。ハルの話には、あまり興味がないようだ。


「本当に雪を食べてる。私からしたら信じられないな」

「・・・うまいぞ」


ハルも同じように、その辺の雪をつまんで舌の上にのせてみたが、すぐに水となって味なんてわからなかった。そもそも、ムンバイ言う、うまい、は味の話なのか、腹が膨れることへの幸福感なのかわからない。全ての生物に味覚があるわけではないから、本当に雪が生命活動に必要なものなのだろう。


「ミコは食べなくていいの?」

「雪食いにも、人間と同じように大食いだったり、小食だったりするのですよ。私はまだ、それほど空腹ではありません」

「やせ我慢しているだけだ。ミコは結構大食らいだったはず」


ドヤ顔で細い女アピールをしたミコを、ムンバイはバッサリと切り捨てた。妹はすぐに兄を睨みつけたが、当の兄は雪を食べるのに夢中で、見向きもしなかった。

その時のミコの睨みつけた目元が、ムンバイそっくりだったのは言うまでもない。外見はかなり違って見えるけど、兄妹らしい姿を見ると、人間と大して変わらないようにも見えるものだ。


「んんっ。ハルさんは食べなくても平気なのですか?人間こそ、一日に多くの食べ物を食さなければ、活力が得られないと聞き及んでいます」

「ああ。平気、平気。私、人間じゃないから」

「そうだ。ハルは人間じゃないぞ」

「ムンバイ?ハルさんが人間じゃないとどうやって知ったのですか?」

「初めて会った時、人間じゃないと言っていた」

「ぶっ・・・」


ムンバイは、はじめこそ乱暴な雪食いかと思っていたけれど、愛嬌があって、素直で、なかなか面白い人柄をしている。裏表のない性格は好ましい。ミコのように、真面目でも腹黒い者は、なんだかんだ、とっつきにくいのだ。


「はぁ、少しは危機感を持った方がいいのではないですか?ハルさんに悪意があったらどうしたのですか?」


本人を前にそこまで言うとは、彼女も肝が据わっている。確かにハルは、それだけ警戒されることしたのだが。

ミコが呆れたように問うと、ムンバイは雪を食べる手を止め、ほんの少し考え込んだ。


「・・・よくわからないが、ハルからは、懐かしい感じがするんだ」

「ええと、それはどういう?」

「・・・ふーん」


本当によくわからない答えだった。しかし、ハルは満足げに笑みを零したのだった。




まだ外が暗い深夜の時。しんしんと降り積もる雪の中、ハルは雪食いに別れを告げようとしていた。


「これからどこへ行くんだ?」

「だいぶ北上してきたからね。今度は南の方へ行ってみようと思うんだ」

「ハルさん。あなたの旅路は、どこまでも続いているのですね」


旅人として、たくさんの地を歩いて回り、こうして多くの種族と出会いを繰り返して来た。今回、こんな極寒地へやってきたのは単なる偶然に過ぎないが、それでも、彼らとの出会いは、一人の旅人に多くの経験を与えたのだ。


「ムンバイ、ミコ。あなた達に会えたこと、とても有意義だったよ」


単なる異種族との交流ではなく、アカハネという神が作り出した縁がこんな風に出会いと別れを彩ってくれることが、ハルにはとても嬉しかったのだ。


「また、いつか、どこかでお会いしましょう」

「・・・またな」


「ええ。また、どこかで・・・」


そうしてハルは雪の中を歩きだした。暗い闇夜の雪原に向かって姿を消したのだった。




            ――― 雪食いと火の神 ―――

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