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5 公爵家の庭


 その庭は、芳しい薔薇の香りに包まれていた。

 色々な種類の薔薇が植えられており、それぞれがその美しさを競い合っている。ルーズベルト公爵家自慢の庭園だ。



「うん……、いい香りだ。そしてなんと美しい……。心が洗われるようだよ」


 俺は別に花心なんて持ってやしないけど、やっぱり綺麗なものは綺麗だ。最近サーシャから逃げる事に神経をすり減らしていたからか、本当に心が癒されるような気がした。



「まぁ、ステファン殿下ったら……。あちらの東屋までご案内しましたらお茶を用意させますわ。東屋から眺める景色はまた格別ですの」


 キャロラインは笑顔でそう言い、そしてその東屋に着けば使用人達に目配せで合図をしあっという間にお茶の準備が整った。

 ……完璧、だな。



 ……『完璧』? いやそんな人間がいるはずがない。ねーちゃんで思い知っているだろ!? 騙されるな! しっかりしろ、ステファン!


 俺は必死で自分に言い聞かせていた。


「……ステファン殿下?」


 またしても、キャロラインに心配をかけていた。……本当に、しっかりしろ! ステファン!



「いや、すまない……。やはり私は少し疲れているようだな。けれどこの美しい薔薇を見ていたらなんだか心が癒されたよ」


 そう言って微笑みかけると、キャロラインは頬を染めながらもこちらを心配そうに見て言った。



「ご公務や学園の勉学だけでも大変ですのに、今のように生徒会のお仕事もされているのですからお疲れになって当然でございます。……あの、よろしければこちらをどうぞ。疲れによく効くといわれるハーブティーですの。少し味にクセはございますが翌朝の目覚めはとても良くなりますわ」


 そう言って勧めてくれたハーブティー。……確かに少し匂いが変わっている。けれど、何やら少し花の香り? ……嫌いじゃない。


 そう思いながら「いただくよ」と言って飲んだハーブティーは、やはり味に少しクセはあった。けれど、俺は嫌いじゃない。……そう、……うん、好きな味かも知れない。



「……うん。美味しいよ。確かにクセはあるけど私は好きだな」



 そう正直に褒めたステファン王子にキャロラインは少し驚き、そしてとても嬉しそうに微笑んだ。



「ようございましたわ。……このハーブティーは……実は私が配合したものなのです」


 …………え。


 公爵令嬢が、お茶の配合を? 結構ディープな趣味だね?



「そうなのかい? ……お茶の配合なんてなかなか面白そうだね。他にも何か効能のあるものはあるの?」



 一瞬変わってるねと言いそうになったが、そう言われたくなくて今まで黙っていたのかもしれないと思った。

 そういえば、ねーちゃんも周りの自分への勝手なイメージに嫌そうにしてた時もあったよな、とも思い出しながら。



 キャロラインはパッと表情が明るくなり、楽しそうに俺に説明し出した。なんでもハーブや薬草に興味があり身体に良さそうな配合を色々試したり、今はハーブの栽培にも手を出しているらしい。好きなものを話す楽しそうな彼女の様子に、俺も何やらほっこりした。


 ……初めて見る、キャロラインの自然な笑顔。貴族の令嬢としては少し変わっているかと思われるお茶の配合や栽培という趣味が、彼女が隠していた魅力の一部、という事か。……俺はキャロラインのまだ知らない部分を、ミステリアスな魅力的なものと感じていた。


 そして俺は決心していた。この気持ちを、キャロラインの秘密を一つ知ったこの踊るようなワクワクした自分の気持ちを信じようと。


 ――キャロラインと、このまま婚約者として過ごしそしていずれは――。




 ……そうだ。あのねーちゃんの本の『ドキドキイベント』が始まる前に、キャロラインにきちんと話をしておかないと。



「素敵だね、キャロライン。……私は君のことをもっと知りたい。私達は今まで婚約者として過ごしながらも上辺だけでお互い本当の深いところはそれほど知らなかったと思う。これからは2人の、こんな時間をもっと増やしていこう」


 俺はキャロラインに、君との未来をきちんと考えている、お互いもっと知り合いたいという自分の思いを伝えた。



「ステファン殿下……。私のこんな趣味をお知りになって呆れられたかもと思いました。それなのにそのようなお言葉を賜りとても嬉しゅうございます。……私も、ステファン殿下の事をもっと……、もっと知りたく存じます」



 キャロラインは頬を染めてそう言ってくれた。俺は胸の奥から湧き上がるような喜びを感じ、更に自分の顔が少し赤くなっている事を自覚しながらキャロラインの手を取った。



「キャロライン……」


「……ステファン殿下……」



 キャロラインも俺もお互い頬を赤らめながら手を取ったまま暫く見つめ合った。






 ……それからの俺とキャロラインは。



「殿下! 今日は先日お話したものをお出し出来ますが……」


「本当かい? 勿論今日も伺わせていただくよ」



 ……あれから、俺と婚約者キャロラインの関係性はとても良好だ。私は何度もルーズベルト公爵家へキャロラインを訪ねに、キャロラインが王子妃教育に王宮を訪れる際には必ず俺とお茶をして過ごす時間を設けている。会うと話は弾むし、何より俺は本当に楽しい。そして……とても彼女を愛おしく感じるようになっていた。



 キャロラインも俺と同じ気持ち、だと思いたい。






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