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4 学園生活


「……それは先生方との調整が出来ているのか? それからこちらは……」


 この時期、生徒会は忙しい。


 それというのももうすぐ学園の交流の為のオリエンテーションがあるからだ。日本でも新学期から暫く経ったこの時期は体育祭があったりするが、まさか貴族達が綱引きなどをする訳もない。これは学園内あちこちに散りばめられたチェックポイントをヒントを元に探して1番高いポイントを集めたクラスの勝ち、というちょっとしたゲーム。これでクラスの交流を深めましょう、的な。


 その主催が生徒会なのだ。そして……。


「きゃあ! 素敵ですぅ、ステファン王子~!」



 貴族の学園にそぐわない黄色い声が生徒会室に響く。…………お分かりだろう、サーシャだ。


 恐ろしい事に、生徒会のメンバーの1人がサーシャに攻略され彼女を生徒会室の中に連れ込んだ。



「……君は部外者だね? ここは関係者以外立入禁止だ」


 俺はそう冷たく言い渡した。……が、本人は全く気にした様子がない。


「キャッ! そんな冷静に仕事をするところも素敵過ぎますぅ! あ、大丈夫ですよぅ! 私はこの生徒会のスヴェンの関係者ですぅ!」



 俺はギロリと生徒会会計のスヴェンを睨んだ。

 彼はマズいと思ったのか、慌てて言った。


「……あのっ! 彼女がどうしても見学がしたいと……! 申し訳ございませんっ! すぐに連れて出ますのでっ」


「ええぇーっ。酷いわ、スヴェン。私をここでメンバーに推薦してくれるって言ったじゃないっ」


 それを聞き他のメンバーも冷たい目でスヴェンを見る。流石にスヴェンは慌てふためいて嫌がるサーシャの手を引っ張り外へ連れて出て行った。


「……スヴェンは最近あのサーシャとかいう娘に随分とご執心のようですね。彼女は聖女とはいえ、スヴェンには幼い頃からの婚約者がいるというのに……。嘆かわしい事だ」



 ――そう言って片手で眼鏡を軽くあげたこの侯爵令息アベルも、その内あのサーシャに攻略される事になる。


 そう。ねーちゃんのあの本にはキャロライン以外のこの生徒会のメンバー全員がサーシャに攻略される事になっていたのだ。



 ……そう、勿論この俺ステファン王子も。



 今のところ、俺は必死に抗ってはいるが、その他はほぼあの本の通りに進んでいるようだ。


 ……あの本の通り? ……そういえば、もうすぐ『王子様とドキドキ交流イベント♡』とかなんとかがなかったか? ……そうか! 今回のオリエンテーションの事か!

 確か友達とはぐれたサーシャが偶然出会ったステファン王子と一緒にイベントを回るっていう……。そこからサーシャと王子は急接近するんだった。


 以前のサーシャと王子の初めての出会いも避けられないイベントだったよな……。あれだけサーシャに会わない為に予防線を張ってたのにそれでもあの時間あの場所に行くハメになった。


 ……もしかして、今回も?


 俺はゾクリとした。



「ステファン殿下? ご気分がよろしくないのですか? 顔色が悪いですわ」



 そこに俺に声がかかった。……キャロラインだ。彼女の美しい緑の瞳は俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。


「ありがとう。……大丈夫だ。少し考え事をしていただけだよ」



 キャロラインはまだ少し心配そうにしながらも、「……それならば良いのですが」と微笑んだ。



 ……優しいよなぁ。キャロライン。


 美人で気品があって頭も良くて機転も効く。それで優しいなんて反則だよな、欠点ないじゃん。


 そこまで考えてハタと気付く。


 ……『欠点がない』? そんなヤツいるか?



 俺は前世のスマホやニュースで色んな情報を知ってる。『完璧』な人間なんていない。


 実は前世の俺のねーちゃんは世間では才色兼備で人当たりが良いと巷で評判だった。

 それが家に帰れば豹変し恐ろしい暴力的な姉だった事は、家の外で幾ら俺が話しても誰も信じてくれなかったのだ。



 ……実は、キャロラインも家では凶暴だったりするのか?

 それとも何かとんでもない秘密が……?



 俺は思わずキャロラインをじっと見つめた。



「……? どうかされましたか? 殿下」



 不思議そうにこちらを見るキャロライン。美しく優しいその様は、とても裏表があるようには見えない。


 いやしかし! 俺はねーちゃんで思い知らされている! 女は魔物だ! そして女優なんだ! 騙されちゃいけない!



「キャロライン……。今度2人で出かけ……いや、君のお屋敷の薔薇が美しいと話していたね。見せてもらいに行ってもいいかい?」


 真剣な顔で言った俺の言葉にキャロラインは頬を染めた。


「……! 殿下……。……是非、お越しくださいませ。今度のお休みになさいますか?」


 ……今、不意打ちじゃないと本当の姿を見られないじゃないか! そう思った俺は勢いづいて言った。



「いや、今日だ。……これが終わったら行こう。今無性に薔薇が見たい気分なのだ」


「えっ……。そうなのですか?」


 少し驚き戸惑うキャロラインに、俺はかなり強引に約束を取り付けた。





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