2 ステファンの生活
ステファン王子は現在王立学園の2年生。……あと少しで最高学年の3年となる。その時、『聖女』となったサーシャが編入してきて2人は出会うのだ。
それまでのステファン王子の評判は上々。
少し癖のある金髪、長いまつ毛にアーモンドの形の二重の深く青い瞳に彫りの深い美しい顔。そして程よく鍛えられた肢体は明らかに脚が長く、これぞ八等身! いや九頭身か? というやつだ。とにかく足が長い。
鏡でそれを見た俺は余りのイケメン度に悶絶した。ソウタの時もまあまあのイケメンだと思っていたが、レベルが違う。流石は物語の主人公の相手の王子。思いっきりキラキラだ。
さて、今のステファン王子とその婚約者、キャロライン ルーズベルト公爵令嬢との関係は……。
……実のところ、良くも悪くもない。
というか、いつも誰かがいる公式の場でしか会った事がないのだ。若い2人で交流を~と言われても、結局は側には侍女か側近が控えている。王子も公爵令嬢も当たり障りのない会話しかしていない。
キャロラインには嫌われてはいないと思うが……。いつもこちらに微笑んで会話をしているし。……それで言えば、王子である自分もそうなんだよな。こちらもいつも微笑みを絶やさず対応している。王子たるもの、ポーカーフェイスで内心など気取られないようにしなければならない。
そう考えると、キャロラインの気持ちも本当のところは分からないか……。
で、嫉妬で何かをしでかす程王子のこと好きって事もないと思うんだよなぁ。だからやっぱりねーちゃんの本の通り、ヒロインサーシャの嘘で話が進んでいくって事なのか?
まあ王子に対する嫉妬でなくても『王子妃』の座を奪われそうな事に焦りを覚えるのかもしれないが。
そして、本では将来俺の代わりに国王となる弟、1つ歳下の第二王子パウロ。
……パウロとは母が違う。正妃の息子である俺と違って女官として働いていた子爵家の娘が王のお手つきとなったのだ。母が俺を妊娠中の話だったので、夫婦仲も険悪となり当時王太子だった王も随分周りから責められたそうだ。
そんな訳で、弟母子は王宮の端にある離宮で細々と暮らしていて俺との交流はほとんど無かった。数年前にその側妃も病死されている。王も当時の騒ぎに懲りたのか、その当時から彼らには最低限の暮らしを補償するだけで寄りついていないようだ。
……コレは、パウロはこちらを……、俺のことを恨んでるんだろうなぁ。学年が違うとはいえ学園内でもほぼ会わないし。こちらからも行かないが多分向こうもこちらを避けている。
ここにも何か不吉な爆弾を抱えているようなものだな。……国王、恨むぞ。
ねーちゃんの本では、パウロはステファン王子が婚約破棄騒動をやらかしてから急に出てきたようなイメージだったけど、棚からぼたもちみたいな感じだったのか? それとも……。
――そんな事を考えながらも時は過ぎ、努力はしたものの相変わらず婚約者であるキャロラインとは上辺だけの交流しか出来ないまま……。とうとう『運命』の女性サーシャとの出会いの日がやって来たのである。
◇ ◇ ◇
――王立学園の新学期。
……出来る事なら、今日は休んでしまいたかった。
しかし、この国の王子で最高学年の生徒会長がズル休みをする訳にはいかなかった。生徒会長の挨拶もあるし。
せめて、『ヒロイン』と出逢う予定の『ウッカリドッキリハプニング☆』とやらを回避しようと試みたのだが、あれやこれやと周囲の状況から逃れられず、本の予定通りに『ヒロイン』と校門辺りでぶつかってしまった。
「……キャッ……! ごめんなさい……ッ! はっ! 貴方は……!」
……うわー。まんま、小説通りのセリフだ……。『キャッ』て……、ホントに言うんだなぁ……。
そう思いながらも、俺はそんな事を表面上はおくびも出さずに爽やかな笑顔で彼女――サーシャに手を差し出した。
「……大丈夫かい? 慌てて走ると危ないよ」
うわぁ! 俺まで小説通りのセリフ出ちゃってるよ! なんだコレ! 身体が勝手に!!
『王子はサーシャの手をそっと掴んで立ち上がらせた。……そう、まるでエスコートをするかのように……。そして2人は見つめ合った』
……て、ホントに何だコレ――!! 強制かい! 俺の意志は無視か! た、助けてくれ! ねーちゃんっ!!
その時、何故かふっと力が抜け、サーシャの手を離す事が出来た。俺は慌てて彼女から離れる。
「ッ! ……それでは、くれぐれも気を付けるように」
そう言い捨てて、サーシャから逃げるように足早にその場から離れたのだった。彼女が後ろで何か言っているようだったが、俺はとにかく逃げた。
俺は校舎の裏手の陰にまで来て誰も居ない事を確かめて止まる。
……何だったんだ? 今のは……。
まず、勝手に身体が動きまるで小説通りの行動をとったこと。
そして、後から急に身体の自由が効いたこと。
俺は深呼吸して頭の中を整理する。
まず一つめ。
もしかして、俺はあの小説通りの行動を強制されるのか? 自分の意思に関係なく?
そして二つ目。
急に動けたのは……。……あの時、『助けて』って思ったんだよな。そうしたら動けたんだ。もしかしたら助けてって思ったら小説に強制されないってことか?
そうでないと、ステファン王子はざまあされて転落するじゃねーか!
……でもそうか、ならこれから『助けて』って考えればいいって事か? もうこんな状況になるのはごめん被りたいけど、とりあえず助かる方法があるんなら……。
俺はそう考え、とりあえず入学式に向かった。