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20 パウロの旅立ち



「ーーパウロ!」



 そう呼びかけると、パウロは振り向き俺を見て意外そうな顔をした。



「兄…………、殿下」



 パウロは『兄上』と言いかけてやめた。そしてその祖父に似た顔には『何故ここに来たんだ?』と書いてある。



「私はお前の兄だ。弟の旅立ちに兄が見送りに来るのは当たり前だろう」



 あれからパウロは父王の取り決めの通り、王位継承権を放棄し叔父上と共に辺境の地へ行くことになった。パウロは一切反抗する事なく、それを粛々と受け入れたそうだ。



「私は貴方とは実の兄弟では……」



 パウロはそう言って横を向いたが、俺はそれを最後まで言わせなかった。



「……パウロ。どこへ行こうとも、お前は私の大切な弟だという事に変わりはない。身体に気を付けよ。叔父上達の教えを乞い、立派な騎士となれ」



 俺はそう言ってパウロの肩をポンと叩いた。


「ッ……! 兄上……」


 パウロは驚いて俺を見た。

 そして……俺はパウロに言っておかなければならない事がある。


「……パウロ。私もここで国の為人々の為に精一杯尽くしすべき事を成していく。……そして、愛するキャロラインと共にこの国を守っていくと約束する」


 叔父とねーちゃんに言われたのだ。2人は俺がパウロのキャロラインに対する気持ちを知りながらも、パウロには知らぬふりをしておこうとしている事に気付いていた。

 そして、キャロラインにはパウロ本人が伝えない以上余計な事は言うべきではないだろうが、パウロには俺の気持ちを伝えてもいいのではないか、と。


 俺もパウロのキャロラインへの罪を犯す程の愛を知っていて、このまま彼に知らぬ顔をしてキャロラインと結婚するのは卑怯かもしれない、と思った。俺も、パウロにキャロラインに対する真剣な思いを伝えようと決めたのだ。


 そんな俺の気持ちを感じたのだろう。パウロは最初驚き、そしてジッと俺を見た。



「…………兄上ならば、きっと素晴らしい国王に御成になります。ご婚約者殿と……お幸せに」



 そう一言言って俺に少し苦しげに笑いかけた。俺もパウロに笑いかける。



「……ありがとう。……必ず、キャロラインを幸せにすると誓う」



 俺のその言葉に、パウロは目を固く閉じ頷いた。



 それ以上は俺たちは何も言わなかった。そして出発の声が掛かり2人は固く握手を交わし……、パウロは去って行った。



 俺は、そんなパウロの後ろ姿を見つめていた。



「……別れは済んだかい? 彼の事は決して悪いようにはしないから安心して。私も時々は王都に戻るから困ったことがあれば言ってくれ。……オリビアの事も勿論心配要らない。彼女を幸せにする栄誉は私のものだからね」



 後ろからヒョイと叔父ベンジャミンが現れ、そう言った。


「叔父上。色々とありがとうございました。……そしてオリビア聖女様を……ねーちゃんを、宜しくお願いいたします」


 そう言って俺が頭を下げると、叔父は俺の肩を叩いた。……結構強めに。


「ッ!? ちょっ……叔父上ッ!?」


 俺は驚いて叔父を見る。叔父はニヤリと笑った。


「……もう、『ねーちゃん』とは呼ばないのだろう? ふふん、心配せずともオリビアと私は誰よりも深い絆で結ばれ愛し合っている。もし何かの『強制力』というものがあったとしても、それを跳ね除けられる程の強い愛で結ばれているのだ」



 そう言ってもう一度俺の肩を叩こうとしたので俺は素早く避ける。



「……それは、安心いたしました。

……叔父上と聖女オリビア様の輝かしい愛にあやかり、私も愛するキャロラインを幸せにすると誓います」



 俺が神妙な顔でそう告げると叔父は嬉しそうに笑った。



「……ステファン殿下」



 その時後ろから声がかかる。もう、誰かは分かっている。



「……オリビア聖女様。……くれぐれも、お身体に気を付けて。私は、貴女との約束を守りこの国の王太子として人々を導き、愛するキャロラインと共に力を合わせ生きていくと誓います」



 俺は聖女オリビア、……『ねーちゃん』に改めて感謝と約束を守る事を誓う。



「……ふふ。ようございました。……これからはステファン殿下、貴方ご自身が試されていくのです。ゆめゆめご油断なされてはなりません」



 ん? 何に対して『油断するな』なんだ?



「ねーちゃ……聖女オリビア。それはいったいどういう事で……?」



「……これからは本当の貴方自身の価値が問われていくのだという事ですわ。誠実に、丁寧に生きること。

愚かな事をすれば、必ずそれは自身の身に返ってきます。今の貴方は仮にそれを許された状態。……いわば、『次はない』、という事です」



 あの本に書かれていた卒業パーティーでの『ステファン王子のザマァ』は回避された。けど、これから俺自身の行動次第で転落への落とし穴はまだ用意されているから気を付けろ。

 ……そういうことか。



「肝に銘じます。……聖女オリビア様。大変貴重な御忠告をありがとうございました。

  


 聖女オリビアはそれでも少し心配そうに俺を見つめていた。


 が、少しすると気を取り直し明るい? 話題を振ってきた。


 実は聖女サーシャがこれから入る辺境の教会にはねーちゃんの本に載ってた聖女の恋人が教会の騎士として配属されてるんだそうだ。



「私の次の観察対象はこの2人ね。だからこれから私は貴方だけを見守ってはいられないのよ? しゃんとなさいよね! そうでないとキャロライン様に見限られるわよ?」



 と揶揄うように言って笑った。



 と、そこでねーちゃんことオリビア聖女があの後キャロラインと2人で茶会をしていた事を思い出す。



「ねーちゃ……、コホン、聖女オリビア様。貴女は少し前にキャロラインと茶会をしてましたよね? いったいどんな話を……」



「……ふふ。女同士の話よ。教えられないわ。

殿下。これからの人生は貴方自身で切り拓くのです、彼女との関係もね。私から言えるのは一番大切なもの、守らなければいけないものの優先順位を間違わないこと」



「大切なものの、『優先順位』……」



「そうよ。私がベンジャミン様と一緒に居られるのも、互いがそれをきちんと分かっているから。それを間違えてしまうと、取り返しのつかない事になってしまうわよ。……陛下のようにね」



「? 何のように、ですか?」



 ねーちゃんの最後の一言は小さくて聞き取れなかった。



「いずれ分かるわよ。……まあ、私の想像だけれどね。貴方はよく考えて行動するように。もう『ねーちゃん』念仏は通用しないわよ。これからの人生の責任は自分でおとりなさい」



 ねーちゃん……聖女オリビアはそう言って鮮やかに笑ってから美しいカーテシーをした。

 周りから見れば王太子である俺に礼節正しく接する叔母である美しい聖女。



「叔父上も、聖女オリビアも、どうぞ道中お気を付けて。次は私の結婚式でお会い出来る事をお待ちしております」



 俺もそう言って王太子らしく礼儀正しい態度で彼らを送り出した。







 

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