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19 叔父とねーちゃん



「……どういう話の展開になっているのか、心配だったからよ? だけど少しずつ、でも確実にあの『本』の話の流れは変わっていたから安心したわ。貴方もキャロラインへの愛に気付いていったようだし」



 しれっと言い訳するねーちゃんだが、話の展開を見ていてだんだん俺がキャロラインを愛するようになるところまでを全て見て分かっているようだった。


 ……そんなところまで見てたのかよ。


 一瞬ねーちゃんを睨みかけたが、叔父上の言う通り俺の事を心配しての事なんだろうと思い直した。そして俺がキャロラインにベタ惚れなのがバレている事の照れ隠しに違う話をした。



「……でも、あの本の通りになってたらこの国の王家の血筋は途絶えてたんだな。父上がハニートラップに嵌ってて側妃も死罪になってたとは知らなかったけど」



 俺がため息混じりにそう言うと、叔父とねーちゃんは少し困った顔をして目を見合わせた。



「……ステファンは、いずれこの国の王となる。コレは私の責任で彼に話をさせてもらうよ」



 叔父がそう言うとねーちゃんも困った顔のまま頷いた。

 ……ん? どういう事だ?



「ステファン。まず言っておくと、パウロは正真正銘兄王の子だ。そして側妃は病死されたのだ」



 先程とは打って変わった真剣な顔で叔父は俺に言った。



「……え? いやでも、さっき父上は……」


 俺はその話に大いに戸惑った。


「……兄王はね。お前が生まれた時の浮気騒ぎで周囲の信頼を大いに失った。そして当時王家には私という第二王子(スペア)がいた。これの意味が分かるかい?」


 俺は叔父に頷いた。


 失態を犯し信頼を失った王太子。しかしそこに代わりになる第二王子がいたのなら、周囲の期待は当然そちらに向く。



「……当時兄上の妻である王太子妃の実家、隣国王家は相当お怒りでね。ご本人も実家に帰ろうとされていた。国民からもこんな王太子では次の国王として相応しくないと大変な騒ぎでね……。一時兄上の立場はかなり揺らいだのだよ」



 しかし母からは俺を産んで俺の為に実家に帰るのをやめた、と聞いていた。だから父上の王太子としての立場がそこまで悪くなっていたとは俺は思っていなかった。

 ……そしてここに来て今更、父が自分の子であるパウロを自分の子ではないと誤魔化そうとしていたとは。



「いやでも……。勿論よくない事だけど王族や貴族で愛人とかは結構いるもんだろ? なんで当時そこまで父上は追い込まれたんだ?」



 現状多くの貴族は愛人がいたりする。人々から叔父と聖女オリビアの純愛が尊ばれる所以だ。



「まあね。多分時期も悪かったんだろう。

王妃の出産の一月前。王国全体がお祝いムードだったあの時期、王太子妃の実家の隣国の関係者も大勢我が国の王宮に来ていた。そんな時兄の浮気とその相手の妊娠が発覚し、非常に険悪になり大きな国際問題になった。そしてその噂は国民にまで広がり、特に女性達の支持を失いまだ王太子だった兄の進退問題にまでなったんだ。

……そんな時期だった。僕がオリビアと出会ったのは」



 ねーちゃんが少し辛そうに叔父を見た。当時相当反対された、という事か。



「当時からほぼ敵対していた王家と教会。僕達の結婚は最初は随分反対された。しかしそこで、兄上が僕達の味方になったんだ。……僕と聖女オリビアの結婚を認めよう、その代わりに僕達を辺境伯として辺境の地へ送る事にしようとね。そうすれば教会の影響は受けにくくなる。

……まあ結果的に僕というスペアを遠くにやる事で兄の王太子としての立場はある程度安泰となった、という事なんだ。僕としては王位に興味は無いし、オリビアとの結婚が許されるのなら辺境だろろうと構わないから好都合だったのだけど。いわば利害の一致、というヤツだね」



 叔父はそう言ってニコリと笑った。



「……その件については、貴方には本当に申し訳ない事を……」


 ねーちゃんが苦しげに謝罪すると、叔父はすぐさま反論した。


「……ストップ。今のは僕の意思でオリビアと一緒になったという話だよ。そこには兄上の思惑はあったけれど、それはこちらは全て分かっていての話だし。むしろその条件でオリビアとの結婚が許されたのだから僕としたら本当にラッキーだったんだよ」


「ベンジャミン様……」


 叔父夫婦は見つめ合った。


 ……俺はねーちゃんが随分としおらしくて驚いた。けど、2人が幸せそうで安心した。……ねーちゃんも、叔父上の事を愛しているんだな。



 俺がじっと2人を見ていると、暫くして俺の存在を思い出した2人がこちらを向き、恥ずかしげにしてから叔父は一つ咳払いをした。



「……そして僕はパウロの母である側妃が実家の子爵家の人間に、『せっかく国王を落としてその子を産んだのに今は王に見向きもされない……』と嘆いていたのを聞いたんだ。それにパウロはお前たちの祖父である前国王とよく似ている。側妃が病死したので兄王はこの事自体をなかったことにしようと考えたのだろう。そしてまだ幼かったパウロにそう言い聞かせた。流石にそれは公表はしてないけど、王妃にはそう言い訳しているみたいだし」



 ……そんな事の為に、国王は本当は我が子であるパウロを自分の子でないだなんて言って蔑ろにしていたのか。



「……それは……、なんというか余りにも身勝手過ぎて父上を見る目が変わりそうだ」



 俺は思わずそう呟いて大きく息を吐き頭を抱えた。

 叔父とねーちゃんは心配そうに俺を見ていた。



「……ステファン。兄はあれでも一国の国王。本来甘い人ではないし、国王としての地位に執着……誇りに思っている方だ。……お前はこれからそんな父親の裏までを見抜き、そして惑わされずに立派な国王になってくれ。勿論私達夫婦もお前への協力を惜しまない」



「ソウタ……。貴方の姉でいられて、私は本当に幸せだったわ。今回きちんと話をすることが出来て本当に良かった……。これからの貴方の未来が明るい事を心より祈っています。

そして貴方を『ソウタ』と呼ぶのはこれで最後。

これからは貴方はこの国の第一王子ステファン殿下。私は叔母としてこの国の聖女として貴方を支え続けます」

 


「ねーちゃん……」



 俺はそう呼んでから、目を閉じた。そして、一つ息を吐いてから目を開けねーちゃん……、聖女オリビアを見る。



「……はい。ありがとうございます。叔父上、……聖女オリビア様」



 ……寂しい気もするけれど、俺たちはこれ以上前世やあの本に囚われていてはいけない。



 2人は俺を見て優しく微笑み、俺も彼らに微笑み返した。





 


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