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17 王弟ベンジャミン


 俺にパウロの事情を語り、そしてその上でパウロに今回裏切られたとガクリと肩を落とした様子の国王。


 隙を突かれやってもいないハニートラップにかかってしまったという父。人々から呆れられ妊娠中の王妃である母からも愛想を尽かされた。今も2人の関係性は良くはない。

 俺には当時の事は分からないが、しかし少なくともそれはパウロには全くなんの非は無い。


 子に罪はないと庇ったパウロから恩知らずな手痛いしっぺ返しを受けてしまった。……そんな風に嘆く国王にしかし俺は反対にパウロが哀れでならなかった。


 ……父上の言う事が本当なら国王としては側妃にもパウロにも、そして実家の子爵家にも対処が甘かったんだろうけど……。



「……父上。しかし私は今回パウロはただキャロラインを愛していたからではなのではないかと、そう思うのです。パウロのした事は許される事ではありませんが……」



 俺は父を疑う心を一旦振り払い、父のパウロへの悪印象を少しでも軽くする為に、キャロラインの前では決して話すつもりの無いこの話をした。……コレは、ある意味ねーちゃんの本で知り得た事からの推察でもあるんだけどな。



 そしてキャロラインがパウロの気持ちを知って心変わりをするとは思わない……思いたくはないが、本の中では俺との婚約破棄後にパウロと結婚して仲睦まじい夫婦となっていた。……うん、やっぱりパウロの気持ちは彼女には教えたくない。



「なんと。パウロがステファンの婚約者であるキャロラインの事を?」



 国王は驚いて俺に問いかけた。



「……はい。パウロは聖女サーシャに俺を誘惑させる事で私に婚約破棄をさせ、その後傷心のキャロラインを慰め一緒になりたかったようです。……その為にパウロは教会の甘言に乗ったのでしょう」



「…………そうか。パウロは学園卒業後は平民になる身だと伝えてある。婚約者も敢えて作らないと伝えても全く気にする風でもなかったのはそういう事であったのか。しかし愛する女性を神のお告げで王妃に相応しくないと貶めて冤罪をかけてからの結婚を目指すとは……」



 ふーと、国王は静かにため息を吐いた。


 ……イヤ、ねーちゃんの本の通りになるのならキャロラインとの婚約破棄をした俺が失脚、そしてその後パウロは王太子となり傷心のキャロラインを慰め結婚するというある意味パウロの望み通りの展開のハズだった訳だが。


 うん? でも国王の言っているのが本当だとするならパウロは王家の血を引いていないんだよな? 危ねー、王家の血が絶えるところだったじゃんか。



 父は恋破れたパウロに同情しつつ、国王としての立場で宣言した。



「……残念だが、当初の予定よりも早いが今回の件をもってパウロの王子としての権利を剥奪し、平民として辺境伯家預かりとする。ベンジャミンよ。無理を言って済まぬが頼まれてくれるか」



 パウロは裏から手を回し王太子である俺に聖女に誘惑させるという罠を仕掛けた。王家と敵対する教会とも手を組みある意味王位を狙った形ともなり、致し方ないとはいえ厳しい処罰が下されることとなった。


 ……だけど、先ほどの話からすると国王(ちちうえ)はいずれはパウロの身分を剥奪するつもりだった。今回の事は、パウロは国王の掌の上でいいように踊らされてしまった結果と言えるのかもしれない。


 ……俺にはそう思えて後味が悪かった。



「……無論です、兄上。私共も元よりそのつもりでございます」



 辺境を統べる叔父は国王にそう言って臣下の礼をとった。そして妻である聖女オリビアに目をやる。



「勿論、私もそのつもりでございます。……ついで、と言ってはなんですが、例の聖女サーシャもこれから私がしっかりと再教育させていただきますわ」



 そう言って聖女オリビアはにっこりと、それは良い笑顔で言った。


 俺は聖女オリビアのその様子を見て、心の中で少しサーシャを気の毒に思った。こりゃサーシャはこれからとんでもなく苦労する事になるぞ、と。



 何故なら聖女オリビアは……、『ねーちゃん』は体育会系の熱いタイプ。やると決めたらとことん、周りも大いに巻き込みつつやり切るのだ。


 ……『ソウタ』も小さな頃からどれだけ何度も巻き込まれ鍛え上げられてきたことか! 早朝と夜のジョギング、柔道や少林寺拳法の習い事等にも付き合わされた。小さな頃の3歳の年齢差で同じようなメニューを課された俺はかなり泣かされたものだ。

 ……まあそのお陰で小さい頃ひ弱だったソウタは中学上がる頃にはしっかり筋肉のついたスポーツ系男子になれていた訳だが。



 そして国王との話は終わり、叔父夫妻と俺は退室した。



「ステファン。……私達の部屋で、少し話をしないか」



 …………来た……!


 俺は叔父ベンジャミンにそう話しかけられ、ドキリとしながらも平静を装いながら振り返って2人を見た。


 聖女オリビアも俺をじっと見つめていた――。




 ◇ ◇ ◇



「立派になったな、ステファン。……そしてお前も、オリビアと同じ世界にいた前世を思い出したと、そう考えて良いのか?」



 叔父夫妻の部屋の応接間のソファセットに腰掛け彼らと向かい合った俺は、叔父からいきなりド直球の先制攻撃を受けた。……まさか、叔父上もあの本の事を知っているのか?



「……は? 叔父上、いったい何を……?」



 少し戸惑い、どう答えたものかと俺が考えていると、前世からとても聞き覚えのある、急かすような口調の言葉が掛かった。



「答えは、イエスかノー。……思い出したんでしょう? だからずっと私に助けを求め続けていた。

……『ソウタ』」





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