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9 ねーちゃん効果




 あの学園のオリエンテーション、『王子とのドキドキイベント⭐︎』から半年が経った。


 俺達が生徒会として取り仕切ったオリエンテーションは、あれ以上は大した混乱も無くほぼ成功で終えることが出来た。

 そしてあれからねーちゃんの本に書かれていたヒロインサーシャとのイベントもほぼ無事やり過ごす事が出来ている。


 あれ以来ヒロインとの小さなイベントも、『ねーちゃん!』と心の中で唱える事でなんとか自分の意思を貫く事が出来ているのだ。


 ――恐るべし、『ねーちゃん』効果。



 思うんだが、前世ソウタのねーちゃんはやはり最強なのではないか? などとねーちゃんを心の中で密かに崇めつつ、今のところは平和な毎日を過ごす事が出来ている。


 キャロラインとの仲もどんどん良くなっていると思う。というかキャロラインが可愛くて仕方ない! 

 周囲からも2人は学園内公認カップルとして皆から憧れや嫉妬、そして生暖かい目で見守られつつある。



 そしてやはりその『嫉妬』の目で見てくる最たる者は、ヒロイン『聖女サーシャ』。

 いや、サーシャと俺は付き合っている訳でもないのになんでなんだ?

 

 サーシャは陰でかなりキャロラインの事を貶めるような事を言っているらしい。……しかしそれを言う相手は全部自分の取り巻きの男子生徒たち。女生徒達は礼儀作法やマナーのなっていない、しかも高位貴族の男子生徒にだけ媚びへつらうサーシャを良くは思っていない。要するにサーシャには女性の友人は居ないから悪口を広めたくてもそれ程広まらないのだ。


 そして男子生徒たちにしても、この王国の公爵令嬢でしかも将来王妃となるキャロラインの事を根拠なく悪く言うサーシャを見て離れていく者が増えてきた。



 ……というか、自分以外のあちこちの男子生徒に声をかけていく女性を好きでい続ける気持ちは俺には良く分からないな。

 物語の中では所謂『逆ハー状態』というものもあるのかもしれないが、現実ではあり得ないだろう。


 

 そんな訳で、あの本の通りならば今頃はステファン王子とヒロインサーシャは既に恋に落ち王子の婚約者キャロラインが嫉妬で意地悪をしているハズの時期なのだが、それは当然ながら起こっていない。


 そして最初快調に周りの高位貴族の子弟を堕としていったサーシャだったが、だんだんその信奉者も少なくなってきた。そして本ではサーシャの取り巻きとなっていた生徒会の別のメンバーも今のところ無事だ。


 このまま無事に学園を卒業する事が出来れば良いのだが……。

 今までのねーちゃんの本の強制力を思うとまだまだ卒業するまで油断は出来ないと、俺は毎日気を引き締めて過ごしていた。



 ◇



「ステファン王子様ッ!」


 ……廊下で不意に呼び止められ振り向くと、そこにはヒロインサーシャが立っていた。


 ……彼女は未だに俺を『ステファン王子様』と呼ぶ。周囲から何度も『殿下』と呼ぶようにと言われても全く覚える気はないようだ。……まぁ、ねーちゃんの本では今頃『ステファン』と呼び捨てになってたよな……。


 なんて考えつつ、何の用だろうと思いサーシャを見た。あの本には学園での全ての出来事が書かれている訳ではなかったが、少なくともヒロインと王子のイベント的なものは今はなかったはずだ。


「……なんだい? 私はこれから生徒会に行くのだが……」


 ……おっと。サーシャに関わりたくないあまりについ、『君とは話をしたくない』と言っているかのような態度をとってしまった。まあ期待させてもいけないのでこれでいいのか?


「……ッ! ……『殿下』。今まで失礼な態度で……すみませんでした。私……元は平民の『聖女』なので、貴族や王族の皆様との接し方が、よく分かっていなくって……。……うぅっ……」


 サーシャはそう言って俯いてハンカチで目を押さえた。


 …………俺の心が濁っているのか? どうしてもサーシャの涙が演技に見えてしょうがない。

 

 俺が何も反応出来ずにいると、サーシャは更に言い募った。


「私……、何故か、貴族の方々にすごく……嫌われているようで……。うぅ……、サーシャ、とても悲しくて……」


 ……それは可哀想とは思うけど、君も嫌われて当然の態度を取ってたよね? 女子生徒や低い身分の男子生徒には失礼とも思える態度を取り、高位貴族の男子生徒には擦り寄ってたし。しかも婚約者のいる男性と分かってて擦り寄って、その婚約者には『私は魅力的だから~』とか言ってたよね!? それで『何故か嫌われて』ってよく言えたね!?


 俺はしらっとした目でサーシャを眺めた。


「おう……で……『殿下』! お願いです! 私を……貴族の方と仲良く出来るように間に入ってくださいませんか!? お……『殿下』が! 私と貴族の方々の橋渡しをしてくだされば、きっと上手くいくと思うんです!」



 ……いや、俺が間に入った場合それは本当の仲直りでなくて俺の『王子』という身分に皆を従わせるって事だよね? 


 そもそも本当に皆と仲良くなりたいと思ったのなら、まずは皆に自分の今までの非礼を謝る所からでしょ。信用を重ねて初めてスタート時点に立てるんだろ?


 それを上の身分の人間に自分の味方についてもらって有利に話を進めようって魂胆がダメなんじゃない?


 ……まあそもそも今回のこのヒロインの行動の真意は、そうやって『王子』である俺に近付いて攻略する為、だと思う。


 

 俺は、はーっと分かりやすくため息をついた。


 ……それに君、何度『王子』って言いかけて間違えてるの? 

 明らかに言い慣れない様子の敬語や物言い……。……『誰か』が、サーシャに助言か指示をしている?



 俺はハッとして周囲を見渡した。


 ……一瞬、視線を感じたような気がしたんだが……気のせいか?


「あの、お……『殿下』? お願い、出来ますか?」



 サーシャが上目遣いで俺を見て来た。あぁコレは前世でいう『あざとい』だな。



「サーシャ嬢。……本当に皆と仲良くなりたいと思うのならば、君がまずしなければいけないのは皆に今までの失礼を謝罪する事だ。そこから全ては始まる。……それで上手くいかないのならば、先生方に相談する事を勧めるよ。私の立場から生徒の1人を特別扱いする事は出来ない」



 これは、相手がサーシャでなくとも同じ事がいえる。


 俺の言葉を聞いて、サーシャは顔色を変えた。



「なッ……! なによっ! ちゃんとお願いしてるのに、ひどいっ! みんな、意地悪なのよっ! きっと王子の婚約者が私に意地悪するように言ってるんだわっ! ……許さないんだから……! 私は『聖女』なのよっ!」



 サーシャはそう言い放って走り去って行った。


 ……本性が出たな。やっぱり『王子』呼びか。

 それに、なんでそこに俺の婚約者が出て来るんだ? 俺とサーシャは何の関係もないんだからここでキャロラインがサーシャに何かをする理由がないだろう?


 コレも本の強制力、という事なのか?

 

 何故かヒロインに意地悪をするのは『王子の婚約者』。そういう事になってしまうのか?


 そもそも今回のサーシャの俺に対する行動も、本の内容からかなりズレて来ている現実に近付けようとする『何か』かあるんだろうか……?

 ……今のこの時期は本の通りなら王子とヒロインは既に恋人同士。2人が今関わりがないのが本のストーリー的にはおかしな事の訳で……。

 そしてさっき感じたサーシャが誰かの指示を受けたようなあの言動と違和感……。



 ……アカン。なんだか頭がこんがらがってきた。


 こんな時には、キャロラインが淹れてくれるあのハーブティーを飲むに限る。



 ハーブティーの香りとキャロラインの笑顔に癒されるべく、俺はキャロラインの待つ生徒会室に向かった。



 

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