8代前の王の話
8代前の王の治世の頃の話である。国の北方にある、とある小さな村のはずれに、いつの間にやら棲み着いた老爺がいた。時折村の大通りに来ては、薬や野草を売ったり、子供の小さな怪我を治していた。
ある年、この地方をひどい干ばつが襲った。池は干上がり、森は枯れ、葉がこすれた熱で火事が起きるほどであった。人は蓄えた食料を食い尽くし、子供を売り、それでも飢えた顎を満たすことはできず、互いの食い物を奪おうと争いを繰り返すことになった。
このようなときにも、老爺がいつものように村の大通りにやってきた。そして言った。「お前たちはなぜそのような争いをしているのか」。村の男が答えて言った。「見よ。畑はひび割れ、池は枯れ、親は子を売り、それもできない者は互いの財産を奪い合うことでしか生き延びることができない。我々はこうすることしかできないのだ」と。
老爺はうなずいて言った。「お前たちは食い物が足りないのか。ならばこの椀を与えよう。これはお前たちの腹を満たすだけの食い物を与えるだろう」。老爺は男に椀を渡すと立ち去った。男が椀を見ると、そこには肉と葉が浮いた汁があった。不思議なことに、この汁はいくら食べても尽きることはなかった。男は村中の者に、椀の存在を知らせることになった。
数日後、老爺が再びやって来て言った。「お前たちの顎は満ちた。これ以上なにをもとめているのか」。村の中から男が出てきて言った。「見よ。畑はひび割れ、池は枯れたままだ。売った子は戻らない」。
老爺は言った「売った子を戻すことはできぬ。だがここに水を戻すことはできるかもしれぬ」。老爺が踵で地を蹴るとたちまち底も見えないほどの穴が空いた。老爺は地の底の蛙に会い、この土地に水を戻す約束をした。森には瑞気が戻り、畑には不格好ながら作物が実るようになった。
更に時が経ち、畑には作物が実り、池は満ちた、そんな折に老爺が再びやってきた。老爺が口を開く前に村の男が言った「なにをしに来た。お前は子供を返してくれなかった。この恥知らずめ」。老爺はなにも言わずに去った。
翌日、老爺は来て男に言った。「お前の娘に会わせてやろう」。老爺は泣いていた。その涙が地面に落ちるとそこに大きな穴が空いた。子供に会いたいと言った男も呑み込まれた。
老爺は立ち去り、二度と戻ることはなかった。男も二度と戻らなかった。その村は今でもあり、隣国へ向かう旅人への宿を供しているという・