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48:おかえり(2)

「指輪はここなんだぞ!」


 扉の向こうには小さなもふもふ竜の姿があった。白いシャツに黒いベスト、それに小さな胸飾りをつけた可愛らしい正装姿のヴァルターは、指輪の入ったリングピローを大事そうに抱えてとてとてと歩いてくる。

 レースや花で飾りつけられたリングピローを、ヴァルターはランドルフに差し出した。ランドルフはそれを受け取ると、くしゃくしゃとヴァルターの頭を撫でる。


「ありがとな、ヴァルター」

「くふふ! ランドルフとクローディア、結婚おめでとうなんだぞ!」


 ヴァルターの持ってきてくれた指輪をお互いの指にはめ合うと、また自然と笑みが零れた。指輪の交換を見届けた神官が厳かに言う。


「では、誓いのキスを」


 神官の言葉に導かれ、ランドルフの指がクローディアのヴェールを持ち上げる。クローディアを見つめる彼の瞳はとろけそうなくらい甘い。

 クローディアがドキドキしながらそっと目を閉じると、ふわりと夜の森のような優しい香りがして、唇に柔らかな熱が触れた。


 両想いになってから、何度もキスしてもらっているけれど。

 今日のキスは、震えるくらい温かくて心地よい。


 唇が離れると、クローディアは目を開けてランドルフの顔を見上げた。そして、にこりと笑ってランドルフに抱き着く。


「ランドルフ、大好き!」


 クローディアの大好きな旦那様はくすくすと笑いながら、飛びついてきたクローディアをぎゅっと抱き締めてくれる。


「俺も、お前のことが大好きだ」


 抱き締め合う二人を祝福するように、キラキラとした日の光が降り注いだ。白い衣装がその光を受けて眩しくきらめく。

 まるで新郎新婦の明るい未来を照らしているかのようなその光景に、どこからか感嘆の息が漏れた。


 ぽつぽつと拍手の音がする。その音はどんどん広がって、歓声も混ざり始めた。

 次々とかけられる祝福の声。ランドルフとクローディアはその声に幸せいっぱいの笑顔で応えた。




 小さな結婚式が終わり、引き続き食堂ではお祝いパーティーが行われた。

 シンシアたちが作ってくれた華やかなパーティー料理を食べながら談笑する。


 ランドルフとクローディアは、たくさんの花やリボンで飾りつけられた華やかな席に仲良く寄り添うように座って、祝福してくれているみんなの様子を眺めた。

 みんな、明るい表情でパーティー料理を楽しんでいるようだ。食堂の席が全て埋まるほどの人がいるというのに、暗い顔をしている人は一人もいない。


 みんなの笑顔を見ていると、クローディアはなんだか胸がいっぱいになってきて、気付いたら涙が零れ落ちていた。


「なんで泣いてるんだよ、お前」


 ランドルフが慌てたようにクローディアの頬に手を添え、指でその涙を拭う。まるで壊れ物でも扱っているかのような優しい触れ方をされ、クローディアはくすぐったくて笑ってしまう。


「ふふ、この涙は嬉しくて幸せだから出た涙なの。……ありがとう、ランドルフ」

「なんだ、心配させるなよ。この泣き虫」


 ランドルフはほっとした顔をすると、クローディアをそっと抱き寄せてくれた。

 心地よい彼の体温。甘えるように彼にすり寄ると、耳に軽くキスをされる。そのままランドルフの唇はクローディアの首へと滑っていき、首筋にもキスをひとつ落とされた。

 今まで感じたことのないような甘い痺れが全身を駆け巡る。クローディアの口から堪えきれずに声が漏れた。


「ひゃあ! ちょ、ちょっと待ってランドルフ! 変なことしないで……」

「安心しろ。さすがに、ここで狼にはならねえよ」


 首筋に触れるランドルフの吐息がくすぐったい。クローディアは身をよじりながら、「狼に食べられる」という言葉を思い出す。そして、はっと目を見開く。


 なんてこと。

 あの危機はまだ去っていなかった!


(え、え、もしかしてさっきの首筋へのキスも、実は味見……?)


 クローディアは震える声でランドルフに尋ねる。


「えっと、ランドルフ? もしかして、まだ私をぺろりと食べるつもりなの?」

「ん? それはまあ、結婚したわけだし……当然」

「ええっ? なんで結婚したら食べるの? シフォンケーキだけじゃやっぱり足りないの?」

「……お前、まだ分かってなかったんだな!」


 ランドルフががくっと肩を落とし、額に手を当てて唸る。クローディアはわけが分からなくて、おろおろと視線を彷徨(さまよ)わせた。


「あの、ランドルフ……?」

「いや、いい。それでこそクローディアだよな。ああ、心配するな。俺がこれからいろいろと、少しずつ、丁寧に教えてやるからな」

「うん、ありがとう?」


 こてんと首を傾げつつお礼を言うと、ランドルフはふっと表情を和らげた。


「まあ、せっかくだし、ここで狼という生き物についてひとつ教えておいてやる」

「うん」

「狼はな、一生同じ相手とつがうんだ」


 ランドルフはクローディアをまっすぐ見つめながら、告げる。


「だから、俺も一生クローディアを離さない」


 クローディアははっと目を見開き、ランドルフを見つめ返した。彼は少し照れ臭そうに頬を掻きつつ、優しい声で言う。


「城じゃなくて、ここに帰ってきてくれてありがとな。これからはずっと一緒だ。……おかえり、クローディア」


(あ……)


 ランドルフの「おかえり」という言葉に、胸がじわじわと熱くなる。


(私がずっと聞きたかった「おかえり」は、ここにあったんだ……)


 城で父から言われた「おかえり」とは全然違う。それはきっと、城ではなくここが、クローディアにとって本当に帰りたい場所になったからだ。


 あの雨の日。捨てられたクローディアを拾ってくれたのがランドルフでよかった。いろいろあったけど、彼を好きになって本当によかった。


 クローディアは彼と一緒に過ごす中で、少しずつ自分の力でできることが増えた。

 自信もついた。

 もう「役立たず」なんかじゃない。


 これからは大好きなランドルフと、ずっとずっと一緒に生きていける――。


「おかえりなさい」

「おかえり、クローディア姫」

「おかえりなさいっす!」

「おかえりなんだぞ、クローディア!」


 ジルフレード、シンシア、新人三人組、それにヴァルター。他の騎士たちの「おかえり」もたくさん聞こえてくる。周りにいるみんなが、クローディアに笑顔で声をかけてくれている。


 嬉しくてまた泣きそうになるクローディアを、隣にいるランドルフが抱き締めて背中をぽんぽんと叩いてくれた。体を包み込む優しい温もりに、ほっと息を吐く。


(やっと見つけた。私が帰る場所。私がいるべき場所)


 クローディアは涙を引っ込め、その代わりに幸せいっぱいの微笑みを浮かべる。

 そして、明るく弾むような声で、みんなに答えた。


「ただいま!」




このお話はこれで完結です。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました!


ブックマーク、お星さま、いいね、感想、レビューなどの温かい応援、とっても嬉しいです。

温かな応援をいただくたびに、嬉しくて嬉しくて小躍りしちゃってます。

毎回すごくすごく幸せな気持ちになってます。ありがとうございます!


二人の恋を最後まで温かく見守ってくださって、本当にありがとうございました。

応援をしてくださったみなさまにも、これから幸せがいっぱい訪れますように♪

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