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10:狂狼は恐くない(4)

 翌日。

 騎士団の団長室の前で、クローディアはむむむと口を尖らせていた。その腕に抱っこされているもふもふ竜のヴァルターも、同じようにむむむと口を尖らせている。


「そんな顔をしてもダメだ。大人しく寮の部屋で遊んでろ」


 ランドルフは生真面目な顔で言うと、ぱたんと団長室の扉を閉めた。


(ランドルフの意地悪! せっかくお手伝いしようと思ったのに!)


 昨晩、ランドルフはクローディアに「捨てたりなんかしない」と言ってくれた。

 それがとても嬉しかったので、今日はお礼にランドルフの仕事のお手伝いをしようと思ったのだ。


 なのに、「邪魔だ」とすげなく断られ、団長室に入る前に追い返された。一緒にお手伝いする気満々だったヴァルターもこれには立腹したようだった。


「おれさま、ぷんぷんなんだぞ! お手伝いくらいできるのに!」

「そうだよね! 子ども扱いするの、ひどいよね!」


 揃って膨れっ面になり、ぷんぷんしながら団長室の前で文句を言っていると、そこに金髪眼鏡の副団長ジルフレードがやってきた。


「クローディア姫にヴァルターくん、こんなところで何をやっているんですか?」

「あ、ジルさん!」


 クローディアはジルフレードに駆け寄り、一生懸命訴える。


「あのね、ランドルフのお手伝いをしようと思ったのに、断られたの! 私、もう大人なんだよ? いろいろできるんだよ? それなのに、邪魔って追い出された!」

「なるほど、それで二人ともそんな膨れっ面をなさっているのですか」


 ジルフレードは口元に手を当てて少し考えこんだ後、キラリと眼鏡を光らせた。


「それでは、私からクローディア姫とヴァルターくんに、お手伝いをお願いしてもよろしいですか?」

「えっ、お手伝いさせてくれるの?」

「はい。お二人にぜひ、やっていただきたいことがあります」


 そうしてジルフレードに連れてこられたのは、騎士たちの訓練場だった。

 青空の下、平らにならした地面が広がる訓練場。そこでは十人ほどの騎士たちが剣の素振りなどを行っている。


 ジルフレードが、訓練をしている騎士たちの中でも比較的若いと思われる三人組を指し示した。クローディアと同じくらいの年齢だろうか、十代後半くらいの青年たちだ。


「あの三人、覚えてますか? 先日、ランドルフと共に魔物討伐をしていた新人騎士なんですが」


 こくりとクローディアは頷く。なんとなく見覚えがあった。


「あの新人騎士たち、実力はまあまああるのですが訓練嫌いなんです。ランドルフが一緒に訓練している時はまだましなんですが、いない時は……今みたいにサボってばかりいるのです」


 ジルフレードの指摘通り、新人三人組はやる気のない顔をして適当に剣を振っていた。ジルフレードは眼鏡をくいっと上げ、クローディアに期待の眼差しを向ける。


「クローディア姫とヴァルターくんには、あの訓練嫌いの三人の応援をしていただきたいのです。お二人に『頑張って』と声援を送っていただければ、あの三人の士気も上がるでしょう」

「そうなの?」

「はい。あの三人が訓練を真面目にするようになれば、ランドルフも助かるはずです。彼らのことは特に気にかけていますから」

「じゃあ、頑張る! 応援、いっぱいする!」


 クローディアが元気よく答えると、ヴァルターも「おれさまも!」ともふもふの手を上げる。ジルフレードはそれを見て「期待していますよ」と言って、仕事に戻っていった。


 さて、そうと決まればぐずぐずなんてしていられない。クローディアとヴァルターは新人三人組のすぐ傍まで駆けていった。


「こんにちは、新人さん! 訓練、頑張って!」

「おれさまも応援するんだぞ! がんばれ、がんばれー!」


 新人三人組は、突然現れた応援団にぎょっとした顔を向ける。けれど、応援されるのは気分がよかったらしく、三人とも少し得意気な表情に変わった。


「……よし!」

「あ、一人だけ良いところを見せようとするなよ」

「そうだぞ、オレも可愛い応援団にもっと応援されたい!」


 クローディアとヴァルターの声援で、三人組の動きがガラリと変わった。

 単純だ。単純すぎる。

 けれど、目に見えて動きが良くなった三人を見ると、クローディアも素直に嬉しくなった。だから、ヴァルターと一緒にはりきって応援の声をかける。


「新人さん、すごいすごい! もっともっと頑張って!」




 空が夕日色に染まる頃、訓練場にランドルフがやってきた。

 ランドルフは地面に転がる新人三人組を見て、怪訝な顔になる。新人三人組は力の限り訓練をやり通し、並んで仰向けになっていた。


「お前ら、一体何をどうしたらこんなことになるんだ」

「あ、ランドルフ!」


 転がっている新人騎士たちの傍に座っていたクローディアは、ランドルフに気付くと、ぱあっと顔を輝かせた。


「あのね、私、お手伝いしてたの! ランドルフのために!」

「俺のため? というか、お前はここで何してるんだ」

「新人さんの応援をしてたの。ランドルフに褒めてもらいたくて、みんな頑張ったんだよ!」


 笑顔で立ち上がって、ランドルフに駆け寄ろうとするクローディア。けれど、一生懸命応援した疲れからか、ふらふらと足がよろめく。地面に転がる新人騎士たちの上に倒れそうになったのを見て、ランドルフが慌ててこちらに駆け寄ってきた。


 ぽすんと彼に抱き留められて、クローディアはふにゃりと笑う。甘えるようにしがみつくと、ランドルフは「しかたねえな」と文句を零しながら、クローディアの身体を抱き上げてくれる。


 それを見た新人三人組が「えええー!」と残念そうに叫んだ。


「その可愛い女の子、団長のだったんすか」

「え、じゃあその子がクローディア姫?」

「ずるいっすよ、団長。オレもお姫様に甘えられたい」


 ランドルフはぎゃあぎゃあ騒ぐ三人組を呆れたように見下ろした。そこにヴァルターが小さな羽でぱたぱた飛んできて、ランドルフの肩にしがみつく。


「ああっ、もふもふも団長に甘えてる!」

「いいなあ、可愛い女の子と可愛いもふもふに懐かれて」

「オレも、もふもふを心ゆくまでもふりたい」


 地面に転がったまま騒ぎ続ける三人組。

 ランドルフは赤く染まる夕暮れの空を仰ぎ、遠い目をして呟いた。


「なんで俺の周りには、こう、子どもっぽい奴ばかり集まるんだろうな……」




 その日の夜。もうみんなが眠りにつこうとする時間。

 クローディアはヴァルターを抱っこして、ランドルフの寝室の前に立っていた。


 今日は自分でも頑張った一日だと思う。

 だから、ごほうびをもらってもいいと思う。


 そう、今夜こそ、ランドルフと一緒に寝るのだ。


 クローディアはぎゅうとヴァルターを抱き締めた後、ランドルフの寝室の扉を開けた。

誤字報告ありがとうございます!

助かりました♪

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[良い点] ご褒美になる人とならない人がいると思います(笑) クローディアのちょっと周りを見れてない感じがお姫さまとして、大事に育てられてきた感じがしますね。 少しずつ、成長しそうなところも楽しみです…
[良い点] >キラリと眼鏡を光らせた。 >眼鏡をくいっと上げ ジルフレード!眼鏡男子、カッコイイ~! 頭脳戦なら任せなさい!適材適所!使えるものはなんだって利用する……みたいな采配が、さらに団長の…
[一言] どっちにしろ、これで女性による応援に効果がある事が実証された。 ならばクローディア姫を筆頭とした女性限定の応援団を立ち上げれば辺境騎士団は王都以上に強くなること間違いなし(くわっ
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