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第十八話  参拝! 公爵の神殿訪問!

 シガラ公爵領は広大である。カンバー王国において、三大諸侯に名を連ねるだけあって、膨大な人口を抱えているからだ。

 公爵領は総人口二十万、分家筋や与力の小領主を含めれば五十万に届くのではと言われている。

 豊かな山林に加え、そこから流れ落ちる河が走り、水路が張り巡らされ、大地を潤していた。また、山間部には国内最大の銀山も保有しており、公爵家の財の強さを表していた。

 広大な農地、豊かな山林、富をもたらす銀山、それらが上手く組み合わさって、シガラ公爵家の繁栄が成り立っているのだ。

 税は農村部には収穫物の物納で行われ、しっかりと調査された戸籍帳を元に算出され、村単位で収めることになっていた。

 一方の都市部では人頭税と法人税が課されており、都市戸籍の保有者は赤ん坊から老人まで同一の税を払い、さらに商店や工房では売り上げに応じて、規定量の税を納めることになっていた。

 一年の売り上げ帳簿は商工の各種組合ギルドの代表者が集まって運営される都市自治会に監査されており、不正が分かった場合は良くて罰金、悪くすれば追放や外法アウトローとなってしまう。

 そして今、シガラ公爵領最大の都市であるモンス=シガラに、ヒーサ以下シガラ公爵家の面々がやって来ていた。

 モンス=シガラはニンナ家の先祖が開拓民として小高い丘に定住地として定めたことが始まりとされ、そこから幾度の領土争いを経て大きくなっていき、今の公爵領を形作っていたとされる。

 元々はモンス=シガラの市街地に公爵家の屋敷があったのだが、領地が大きくなるにつれて屋敷が手狭になっていき、市街地から少し離れた現在の場所へと引っ越したのだ。

 馬を飛ばせば十分で辿り着ける位置にあるため、公爵家の人々も買い物にやって来たりするのだ。

 そして、今回の目的は《五星教ファイブスターズ》の神殿を訪問する事であった。

 モンス=シガラは河の側にある丘を中心に市街地が広がっており、その丘の上には旧公爵邸、現在の自治会議事堂がある。そして、川を挟んだ向こう岸にも丘があって、そこに神殿が築かれているのだ。

 神殿周りは神職の住居に加えて、富裕層の住宅地が広がっており、昔からの市街地と違って閑静な居住区画となっていた。


「そういえば、神殿に赴くのは初めてね」


 川にかかる大きな石の橋を馬車で進みながら、ティースは車窓から見える神殿を眺めた。小高い丘の上に白壁の神殿が眩しく輝き、気高き神の御座を見せ付けていた。


「だが、お前らは先に帰ってもらうぞ。神殿へは私とトウ、アスプリクの三名だけで行く」


「えぇ~!」


 ヒーサの突き放すような言葉に、ティースは不満の声を上げた。


「来てもいいけど、マークの件がバレても知らないよ~」


 アスプリクは横に座るマークの肩に手を置き、ティースを見つけた。ヒーサがあえて帰るように言ったことは理屈として正しかった。

 マークは秘匿された術士であり、教団側でそれを知っているのはアスプリクだけだ。もし、それ以外の関係者にバレた場合は、最悪異端審問にかけられての火炙りコースと相場が決まっていた。


「ほんとその辺は厳しいわよね、教団」


「技術の独占が常態化して、そこから生まれた特権意識が腐敗の温床だからな。特権の源は絶対に手放さんだろうよ」


 ヒーサが不機嫌そうに吐き捨てたが、実際その通りだと誰もが考えていたので、ティースも、マークも、“大神官”のアスプリクも頷いた。

 そもそも、教団の興りはカンバー王国建国期にまでさかのぼる。

 王国を打ち立てた建国王と、教団を組織した初代法王は兄弟であったと歴史書には記されていた。王家は世俗の管理を行い、教団は教義の保護と術士の育成に努め、共に王国の繁栄に邁進してきた。

 しかし、術士に関する権限が教団に集中しすぎたために、術士イコール教団関係者と定義付けられるようになり、教団以外のモグリを認めないという風潮が生み出された。

 結果、教団に寄らない術士への弾圧が始まり、いつしかそれは異端審問などという大層な名前まで付けられ、王国中に嵐となって吹き荒れた。

 そうして教団側は術士をほぼ独占することになり、現在に至っていた。

 技術の独占による歪な富と権威権力の集中は反感を買い、いつしかそれに反発する者が《六星派シクスス》を名乗り、じわじわと浸食を始めた。

 これが現在の王国内の宗教事情である。


「というわけで、神殿にはマークがいると入りにくいのだ。分かってくれるか?」


「まあ、そうですわね。ならば、今回は諦めるとしましょう」


 ティースとしては、ヒーサと離れる上に、アスプリクが色目を使わないかと心配ではあったが、引き下がらざるを得なった。

 当のマークは申し訳なさそうに主人ティースに首を垂れたが、気にするなと笑顔で応じた。


「それで、神殿には司祭様への挨拶ですか?」


「まあ、今後の打ち合わせってやつだよ。新事業の協力を仰いだり、《六星派シクスス》の捜索に関することも話さないといけないしな」


 そもそもの話として、来訪したアスプリクは“火の大神官”という教団の最高幹部二十一人の内の一人に含まれている。そんな大物が地方に出向くなど、異例中の異例なのだ。余程のことがない限りまず起こりようもないことだ。

 そうなると、地元の教団とはちゃんと顔繋ぎをして協力体制を築いておかねばならなかった。

 例えそれが“欺瞞”であったとしても、表面的には仲良くしておく必要があった。

 そうこうしているうちに神殿の敷地前まで到着した。

 神殿は小高い丘の上にあるのだが、麓から一直線に石の階段が伸びており、その階段には五柱の神像や神話、伝説を題材モチーフにした群像が並び、訪れた者を圧倒した。

 神殿もそうだが、これらすべてが公爵家の寄進によって作られており、ここでも公爵家の強さを伺い知ることができた。

 そして、馬車からヒーサとアスプリクが降り、御者台からもトウが飛び降りた。


「では、行ってくる」


 ヒーサは車窓から覗き込むティースに向かって軽く手を振り、心配させまいと笑顔を向けた。こういう態度をサッとできるところが、やはり貴公子なのである。


「はい、あまり遅くならないで下さいね」


 ティースも笑顔で応じると、御者台のナルが馬に鞭を打ち、馬車を走らせた。その後ろ姿が見えなくなるまで三人が見送った後、揃って視線を階段上の神殿に向けた。


「さて、それじゃあ行きますか」


 アスプリクがまず階段を上り始め、ヒーサとトウがその両脇を固める格好で上り始めた。

 目指すは丘の上にあるモンス=シガラの神殿。腐敗の巣窟か、あるいは強力な味方となりうるか、それはこれからの話し合い次第である。

 さてさてどうなるか、ヒーサの心中にはすでに無数の策が蠢いているのであった。



           ~ 第十九話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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