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第十六話  兵どもが夢のあと! かくして結婚初夜は終わりを告げる!

 ティースはベッドの上で裸体を晒し、そのまま寝入ってしまっていた。全身くまなく貪りつかれ、相手の触れていない箇所など、爪先程も残ってはいないほどに、丹念に“身体検査”を施された。

 そして、体力も気力も使い果たし、深い眠りへと落ちていった。

 なお、念のために睡眠薬を飲まされて、完全に堕とされたことはばれなかったが。


「よし、終了!」


 なにやら満足げにヒサコは言い放ち、動かなくなったティースに掛布団をかけてやり、それから寝台より起き上がっった。

 歩きながら来ていた服を次々と脱ぎ捨て、ヒーサの横になっているソファーの前に辿り着くころには、完全に素っ裸になっていた。


「消えよ」


 パチンと指を鳴らすと、横になっていたヒーサが跡形もなく消え去ってしまった。

 そう、横になっていたヒーサの方が“分身体”で、先程までティースを貪っていたヒサコの方が“本体”であったのだ。

 分身体の消えたソファーに腰かけると、今度は《性転換》を使って、ヒサコの姿からヒーサの姿へと変じた。これで“ティースのプライド”以外は元通りとなった。


「お~い、女神、終わったぞ」


 ヒーサは“ソファーの裏”にいるテアに話しかけた。テアは分身体を作り出すための魔力源であり、必ず本体か分身体の側近くにいなくてはならなかった。

 そのため、今回は分身体を寝かせているソファーの裏手に潜み、魔力を供給していたのだ。入口から見た場合、ソファーの裏手は確実に死角になるため、ティースにテアがいることを悟られることもなかった。

 あるいは、普段のティースであれば気配でソファーの裏に誰かがいることを察することができたかもしれないが、ヒサコという最大の障壁が壁となり、それを阻害していたのだ。


「お~い、聞いてるか?」


 反応がないので、ヒーサは再び呼びかけたが、これまた反応がなかった。

 なんだと思ってソファーから身を乗り出し、裏を除いてみると、そこにはテアが身を屈めて震えているのが見えた。しかも、どうやら盛大に鼻血を噴き出したようで、手でそれを抑えるのに必死なようであった。


「なんだ、あの程度の艶事で興奮したか」


「あの程度!?」


 少なくとも、媚薬を二重掛けにして心身ともに自由を奪い、ねっとり賞味することが“あの程度”だと言い放つ、目の前の男の基準がぶっ飛び過ぎていた。


「もう少しなんか、やりようはなかったの!? てかさぁ、ティースが公爵家に嫁ぐ際の試験で合格したら、令夫人の礼を以て丁重に扱うとか言ってなかった!?」


「言った記憶はあるな」


「それで“コレ”なの!?」


 テアの視線の先には、“義妹の姿をした夫(しかも中身は七十爺)”に弄られた哀れな女伯爵が寝入っていた。同情を通り越して、神として救いの手を差し伸べたくなるほどに哀れであった。


「いやほら、“身体検査”だって言っただろ。これが終わったから、丁重に扱うよ、うん」


「手遅れでは!? 目が覚めたら、確実にトラウマものの衝撃受けて、発狂するかもよ」


「虎と馬がなんだって?」


「うっさい、黙れ!」


 ニヤつくヒーサに説教でもしてやりたいところであるが、どうあがこうとも軌道修正はできそうにないので、結局は目の前の男のなすがままに突き進むしかないのだ。


「まったく……、あなたの無茶ぶり今回もひどいってレベルじゃなかったわね」


「戦国ゆえ、致し方なし」


「戦国関係ないじゃん!」


「そうでもないぞ。“身体検査”は重要なのだ。京で世話になった油屋の斎藤道三てんちょうがな、娘を信長うつけに嫁がせるときに、嫁入り道具として短刀を差し出し、『隙あらば刺せ』と行って送り出したそうだ。嫁に刺されるとか怖いし、しっかり調べておかないとな!」


「ええい、戦国男児どもめ……、いい加減にしろよ~」


 やっぱり感覚がおかしいと、テアは嘆かざるを得なかった。目の前の男の言では、自分が戦国の“標準”だそうだが、どいつもこいつも狂っているのかと思うと、恐怖しか湧いてこなかった。


「それで、一人の女性にトラウマレベルの攻撃を加えたこの一連の茶番劇、どんな意味があるのか教えてくれるかしら?」


 実のところ、テアは今回の作戦の詳細は聞かされていなかった。ただ、分身体の魔力源として、ヒーサの寝室のどこかに潜んでいて欲しい、ということだけ要請されたのだ。

 なお、部屋に充満する淫靡なお香は、女神の力で無効化しており、自分への影響はなかった。


「これでティースはヒサコに逆らえないほどの醜態を晒した。あんな姿を強いられたのだ。到底、恥ずかしくて人前には出てこれまいて」


「うん、すんごくそれには同意だわ」


「で、ここでヒーサがティースに手を差し伸べる。これでヒサコへの殺意と引き換えに、ヒーサへの絶対的な信頼感を醸成させるのだ」


「今までない、最悪のマッチポンプだわ。妹の姿を借りて嫁に対してトラウマレベルの仕打ちをして、それから優しく抱き寄せてハッピーエンドってか!?」


「凄いだろ?」


「それを平然と実行できる、あなたの神経が凄いわよ!」


 悪人などという生易しいものではない。目の前の男はそれすら超越して、純粋に“利害”や“効率”だけで、物事を見ているようであった。

 必要とあれば、善行を繰り広げ、あるいは悪事を成す。すべては自分の悦楽や栄達のためだけである。その徹底したやり方には、慣れてきたとはいえ、テアも色んな意味で感嘆を禁じ得なかった。


「それで、ダメ押し的な措置として、ヒサコを追放処分にする」


「自分で自分を追放するの!?」


「ああ。ヒサコがすぐ側にいては、ティースが枕を叩くして眠れないからな。だから、“エルフの里”までお使いに行ってもらう」


「そうか、茶の木を手に入れたいって言ってたものね」


「そう、しばらく私は公爵領を離れ、追放されたヒサコとして旅に出る。あれだけのことをしたのであるし、ごく自然な形でヒサコを一時的に消せる」


「ごく自然な形とは、一体・・・。まあ、追放処分自体は悪くはないと思うけど」


 ヒーサの説明を聞き、テアはようやくすべてを把握した。

 ヒサコを使って徹底的にティースをいじめ、殺意を抱かせるレベルにまで追い込む。そこへヒーサがティースに対して優しく接し、ヒサコへの殺意を反転させて、好感度を稼ぐ。その担保として、ヒサコを追放処分とし、その追放されたヒサコとなって、エルフの里を目指す。

 これが梟雄が仕組んだヒーサとティースの結婚初夜の真相だ。


「とはいえ、魔力供給の件もあるし、おぬしには旅に同行してもらうぞ」


「でしょうね。で、具体的にはいつごろ動くの?」


「火の大神官が近いうちに、公爵領に移ってくる。彼女なら、分身体の魔力供給くらいはできるかと思ってな。なにしろ、本体と分身体が大きく離れるからな。いくら《手懐ける者テイマー》で繋がっているとはいえ、何かの拍子に繋がっている線がきれるかもしれん。そのためには、分身体の方にも、魔力持ちがいた方が安心できる」


「なるほど。あの魔力量なら、私の代わりは務まると思うわ。なにしろ、魔王候補なんだし」


 テアは現在、数々の術式に使用制限がかけられ、大半が使えなくなっているが、魔力量自体は女神ということもあって膨大である。それの代理を務めるとなると、それ相応の術士が必要なのだ。

 国内でも一、二の使い手であるアスプリクならば、予備電源としては任せても問題がなかった。


「ククク……、ようやく手駒が揃ってきたし、念願の茶の木を手にする機会が巡ってきた」


「まあ、それはすごいと思うんだけどさ。全裸で凄まれてもあれだから、さっさと服着て」


「おっといんいかん。つい熱が入って、忘れていた」


 ヒーサは用意していた服にササッと着替え、ソファーに横になった。ちなみに、情報に齟齬がないよう、着替えた服は先程分身体に着せていたものと同じものだ。


「これで目が覚めたティースが目撃するのは、ヒサコがいなくなった部屋だ。それ以外はそのままに映るだろう」


「あなたは寝たふりを続け、ティースが朝に部屋を出ていくまで、このまま寝ておく、と」


「おそらくは、朝食の前後でナルとやり合うことになるだろうし、そこさえ乗り切れば、結婚初夜は完遂したと言ってもいいだろう」


「おっかしいな~。私の知ってる結婚初夜って、こんな殺伐としてないのに」


 何か言い表せない疑問を抱きつつ、“ヒーサ視点では”平穏無事に結婚初夜が終わりを告げるのであった。

 はたして、思惑通りに事が進むのか、それは翌朝の対処次第である。



          ~ 第十七話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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