エピローグ9 そして、喜劇はまた始まる
そこは久秀とテアニンがいた空間とは別の場所。
数多の世界と天上を繋ぐ『次元の狭間』だ。
今日もまた、一人の英雄が神(見習い)に召喚され、異世界に旅立とうとしていた。
「見てろよ~、テアニン。お前の世界、今回こそ攻略してやるからな~」
一人の神(見習い)が呼び出した英雄を前に、やる気を滾らせていた。
なお、この神はテアニンと一緒に『カメリア』の攻略を目指した三柱の一柱であり、自らの実力を試す間もなくバグで世界から撤収させられた神である。
あれ以降、ことある毎にテアニンと久秀の世界に殴り込みをかけ、その攻略に勤しんでいるのだが、まだクリアできていなかった。
「随分と熱を入れているようだが、時には“離”が必要でもあるのだぞ」
呼ばれた英雄はブツブツぼやいている神と呼ばれる存在を、大上段から窘めた。
奇跡の数々を見せたというのに、神と神とも思わぬ傲岸ぶりに見習い神も少々苛立っていたが、これからともに攻略を目指す者でもある。
無用な対立は避けるべきであるとして我慢した。
「だって、あのバカ野郎、とんでもない罠ばっかり仕掛けてんだぞ!?」
「いかなる所業か?」
「黒い仔犬が尻尾振りながら近付いてきたから、頭を撫でてやったら、丸飲みにされるし」
「迂闊よな」
「純白のエルフが『お茶しない?』って誘ってきた思ったら、飲んでた茶が爆発するし」
「美人局にしか聞こえぬ」
「女剣士が喧嘩売って来たかと思ったら、大上段からの一撃で木っ端微塵になるし」
「彼我の戦力差を読み違えておる」
「温泉に浸かっているところを襲撃されるし」
「武器を手放すとは愚かな。源義朝や太田道灌の末路を知らぬのか」
「酷いと思わないか!?」
「戦国ゆえ、致し方なし」
ばっさりと切り捨て、取り付く島もない返答であった。
神もイライラしながら髪をかきむしり、そして、再び英雄を見つめた。
「とにかくだ! あの高慢ちきな女神の鼻っ柱を追ってやらない事には、俺様の気が済まねえんだよ!」
「呼ばれた理由は分かった。その女神とやらの後ろで蠢く“影”の部分もな」
英雄はニヤリと笑い、久しく忘れていた高揚感が全身を駆け巡っていくのを感じていた。
「ククク……、松永め、信貴山で遺体が見つからぬと思っていたら、こんなところで“遊んで”おるとは」
「いや、あんたも“本能寺”で遺体が見つかっていないぞ」
「で、あるか……」
桔梗紋の旗印に寺を取り囲まれ、炎に包まれた記憶は新しい。
つい先程の事のように覚えているが、身体には傷一つない。
新たな生を得たと割り切り、今に至る。
「十万からの軍勢を率いていた我が、今やただの一人。されど、臆する事なし。相手があの“うつけ”であれば、なおの事よ。待っておれ、松永ぁ~」
「やる気があって結構な事だ」
「松永、貴様の点前を見せてもらおうか。もし、我を楽しませるほどのものであれば、在りし日に受け取った『九十九髪茄子茶入』を返してやろうぞ」
「いや、あんた、今マッパで何も持っとらんぞ」
「で、あるか」
そう言えばそうだったと、英雄は大笑いした。
「んじゃ、旅立つ前にスキルカードを渡しておかねばならんな」
「ふむ、“すきるかあど”とはなんだ?」
かくして、再び“喜劇”が始まる。
天下の大うつけ同士の戦いがどうなるのかは、ただ神のみぞ知る。
~ 完 ~
『悪役令嬢・松永久子』これに完結です!
連載開始して一年と五カ月。
よもやここまでの長大な作品になるとは思わず、しかも書き切れるとは思ってもいなかったので、感無量と言ったところです。
当初は思い付きで始めた作品で、ろくな構想もなく、書きながら展開を考えるというかなり無茶ぶりをしていました。
そのため、反響がなければすぐに打ち切ろうかとも考えていましたが、意外とPVの伸びが良かったので続行を決定。
プロットなし!
勢いと“松永久秀への愛”のみで書き続けました。
気が付けば話がどんどん膨らんでいき、一年半近くも続いてしまいました。
その間、皆様にご愛読いただいて恐縮でございます。
ラストのシーンはもうお気付きでしょうが、久秀が築いた世界に織田信長がやって来たというわけです。
まあ、続編を書くつもりは今のところありません。
と言うか、長期連載すぎて、書きたいネタが溜まっている状態なので、そっちを書きたい。
ですが、気が変わっても書けるようにと余韻と想像を掻き立てるようにして〆させていただきました。
久秀「喰らえ! 八宝大華輪!」
信長「甘いわ! 国崩し砲!」
うん、ギャグにしかならんな(汗)
さて、本作のコンセプトですが、まあ、言ってしまえば、大好きな戦国武将である松永久秀に、異世界で好き放題暴れてもらうお話です。
そもそもの発端はアニメ『パリ●孔明』を見ていたときですね。
自分も歴史上の人物を飛ばしてみようかと思い立ち、誰を転生させようかとあれこれ悩んで、最後に残ったのが松永久秀だったというわけです。
とにかくこの松永久秀、数ある戦国武将の中でも、ネタが豊富過ぎて拾いきれないほどに魅力的な人物です。
ざっと思いつくだけでも、以下の通りです。
・商人出身の成り上がりで、下剋上の申し子。
・茶人であり、千利休とは同門で、武野紹鴎の下で学んだ兄弟弟子。
・天下の名器、『古天明平蜘蛛茶釜』や『九十九髪茄子茶入』などを所有する。
・築城の名手であり、多聞山城、信貴山城など多くを手掛ける。
・『多聞櫓』や『天守』を考案し、後の城造りのスタンダードになる。
・自作のエロ同人を配布する。SEXの手引書。
・江戸時代には武家の正装となる『裃袴』を考案する。
・将軍・足利義輝を弑逆する。なお、実際に御所を襲撃したのは息子の久通。
・東大寺を焼く。わざとじゃないぞ!
・主家である三好家を乗っ取り、実権を握る。周囲が立て続けに死んだだけ!
・信長に『九十九髪茄子茶入』を差し出してあっさり降伏。でも、あとで謀反しちゃう。
・最後は『古天明平蜘蛛茶釜』に火薬を詰めて自爆する。
こんな感じですね。
まあ、最近の研究で否定されているものも含まれていますが、これだけのネタの宝庫です。
書かざるを得ない!
そもそも、久秀は裏切り者呼ばわりされますが、それは“織田家”の視点で見た場合です。
“三好家”視点で見た場合、時系列を追うと実はかなりの忠臣であるのがわかります。
織田家には愛着は無くても、三好家には恩義があるわけですね。
そんな松永久秀ですが、血脈は残っています。
信長に人質に出していた孫とは別の孫がおり、こちらは“一丸”と言う名前です。
一丸はどうにか北九州まで落ち延び、最終的には佐賀藩鍋島家に仕え、藩士として幕末まで松永家を存続させます。
そして、第二次世界大戦で活躍する松永貞市提督に繋がります。
松永提督は1941年12月の『マレー沖海戦』で航空隊を指揮し、英海軍の戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』と『レパルス』を撃沈しています。
これが世界初となる“完全稼働状態の戦艦を航空戦力で沈める”という例になります。
これ以降、大艦巨砲主義が斜陽を迎え、航空戦力こそ戦場の主力となる契機となります。
なお、彼の孫娘にあたるのが松永真理氏であり、こちらは『ⅰモード』の生みの親として有名ですね。
時を超えてなお、松永の血脈は時代の変革者と言えるでしょう。
あと、こちらは確定事項ではないですが、最近注目されているのが“千少庵=松永久秀の息子説”です。
千利休の婿養子である千少庵ですが、その実父が松永久秀ではないかと言う話です。
久秀と利休は兄弟弟子であり、色々と深い関係にありました。
それに、信貴山と堺は距離的にも近いですしね。
なので、久秀の血筋の者を密かに匿っていたとしても不思議ではありません。
もしこの説が正しかった場合、少庵の息子・宗旦が現在まで続く三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)を開くことになりますので、ここもまた久秀の血脈となります。
松永久秀と千利休、商人にして茶人、そして、“豊臣秀吉に殺された”という共通点があります。
秀吉は一代の夢として露と消えましたが、久秀と利休の血脈と精神は現代においてもなおも“数奇の世界”で天下を取っている状態です。
これもまた、歴史のロマンを感じる部分ですね。
そんな魅力あふれる戦国一のネタの宝庫・松永久秀に興味を持ってくだされば幸いです。
拙い文章で長々と自分好みに仕上げてみましたが、いかがだったでしょうか?
どうにかこうにかネタを拾って、異世界風にアレンジしつつ書き連ねましたが、まだまだ文章構成に磨きをかけていきたいと考えています。
重ねて、本作をお読みくださり、ありがとうございました!
次回作にご期待ください!




