表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

569/570

エピローグ8  二人のピロートーク

 残ったのはすべての始まりとなった、いつもの二人だ。


「さて、今回は“Sランク”か。調整、ご苦労だったな」


「注文が細かすぎるのよ。神様も楽じゃないわ」


「城造りは大の得意でな。図面を引くくらいお手のものよ」


「んで、図面引くだけ引いて、人足にんそくや左官、大工を私一人に押し付けるし」


「そこは“神様ぱわ~”で頑張ってくれ。ワシが考え、おぬしが作る。見事なコンビではないか」


「楽に言ってくれるわね。まあ、内容の出来はハイレベルだから、文句は言えないけどね」


 仕上げていていつも思うのだが、ヒーサの作品は本当に“面白い”のだ。

 凶悪な罠やイベントもふんだんに用意されているのだが、同時に笑いを取りに来る場面も多々ある。

 緩急をつけ、“楽しませる”事に余念がないと言えよう。

 だからこそ、リピーターが多いのだ。

 もう一度やろう、という気を起こさせる。


「まあ、次に挑戦した時は別のギミックに差し変わっていて、前の知識が役立たない場面が多いけどね」


「そうだぞ。絶えず進化、変化を求めるのが私のやり方だ。成長を怠れば衰退に転じるのは自明の理。神と言えども例外ではない」


「はいはい、身に染みておりますよ」


 テアが松永久秀と出会って学んだ事、その最たるものは学び続ける姿勢と、諦めの悪さである。

 常に学び、応用する事を忘れない。

 僅かでも勝機があればそれに賭ける。

 そのしぶとさこそ、目の前の相方の最大の武器だ。


「まあ、もう百回も世界をリセットして作り変えてきたし、段々と慣れてきたわよ」


「なれば結構。んで、いつになったら私はお前の寝所に呼ばれるのだろうか?」


「百年先にも有り得ない話だから」


「やれやれ。女神を口説き落とすのも、容易ではないな。まあ、それはそれで目標があって良い事ではあるがな」


「ほんと前向きね~」


「前を向かねば、前に進めぬからな。何より、前に立っている女神を眺めるには、前を向くより他にないからな」


 当たり前のことを当たり前に話す。ただそれだけなのに、ヒーサにとっては楽しかった。

 戦国乱世では味わえなかった気安さと娯楽、それがここにはある。

 その点では、女神に拾ってもらったのは幸運と言えた。

 もちろん、この状況を作り出すのに苦労はしたが、それも許容範囲の内だ。

 苦労したからこそ、享楽もまた一入ひとしおなのだ。


「さて、こちらも準備をするかな。出でよ、わが体よ」


 ヒーサの目の前にモクモクと煙が巻き起こると、そこから老人の体が現れた。

 戦国日本にいた頃の姿であり、本来の松永久秀でもある。


「では、若者の体は分身体として、本体の方はこっちでっと」


 老人の体に乗り移り、ちゃんと体が動くかどうかの“動作確認”を行った。

 状態は極めて良好。すでに百回も繰り返してきたが、日々のチェックは欠かす事はない。

 最高の状態で戦場に臨むのは当然と言えた。

 そして、若者の体の方はと言うと、老人に向かって頭を下げって来た。


「“大魔王”松永久秀様、此度もよろしくお願いします」


「うむ。よろしくたのむぞ、ヒーサ」


 自分で自分に挨拶するのは何とも不思議な気分であったが、ヒサコ相手に散々やった一人芝居かと思えば、それほど違和感を感じなかった。

 目の前の若者ヒーサは人が良いだけの優柔不断な王様であり、側仕えの老人ひさひでこそ諸悪の根源にしてすべての黒幕。

 そういう設定にしているので、こういう芝居をせねばならなかった。


「自分より有能な奴を演じるのはボロが出るが、無能を演じるのもそれはそれで一苦労だな」


「隠しボス隠匿のためでしょ。頑張りなさいよ。自分で設定したんだから」


 テアニンのつっこみに、まさにその通りだと松永久秀は笑った。

 上位存在にも言ったように、規定ルールを作る側がそれを破るのは、秩序の崩壊を意味する。

 上が順法精神を蔑ろにして、下々が付いてくるわけがないんのだ。

 今や松永久秀は“世界”と呼ばれる巨大な城の主である。

 国盗りの規模も大きくなったものだとにやけつつ、皆が飛び込んでいった穴の前に立った。


「女神よ、感謝しているぞ」


「何よ、改まって今更」


「命とは吹けば飛ぶようなもの。人が生きている限り、死は常に隣り合わせ。昨日笑顔で顔を合わせていた者が、今日には骸として転がっている。その言う自分も、明日にはそうなっているかもしれん。そういう世界で生きてきた」


「あなたの言葉を借りるなら、戦国ゆえ仕方なし、じゃないの?」


「ククク……、まさにな。だからこそ、今を精一杯に生き、“楽”という一点で天下を制したいものだ」


「数奇者として?」


「然り。笑って暮らせる世を作る。少なくとも、自分の手の届く範囲くらいは、な」


 かつての事を思えば、今は実に平和だ。

 ぬるま湯と言っても障りない生活であり、同時に適度に刺激も入れられる、実に理想的な生活と言える。

 戦国乱世の先は見る事が叶わなかったが、それでも今を満足している。

 楽しいと感じれる感性を残していた事を、今ほど感謝していることは無かった。

 数多の屍山血河を見て、自らも炎で焼き、行きついた果てがここだ。

 鼻持ちならない神とやらを、引っかけて遊べるなど、これ以上に無い遊戯だ。

 すべては偶然から始まった。

 女神の気紛れで拾われ、そして、今に至る。

 やり甲斐のある素晴らしい仕事を得る事が出来たのも、目の前の女神の導きあっての話だ。

 神とは英雄を導く。まさにそれだなと、ついつい感じ入る松永久秀であった。


「さて、では行こうか、女神よ。また楽しくくつわを並べてな」


「はいはい、分かってますよっと」


「さてさて、次はどんな奴が顔を出すか、今から楽しみではある。まあ、どんな相手であろうとも、我が点前にて、“おもてなし”をするだけであるがな」


「随分物騒なもてなしだけどね」


「なぁ~、所詮英雄などと言うものは、自己顕示欲、自己陶酔の塊みたいなものよ。壁があればそれを乗り越え、時に破壊して前に進み、自分に酔う。そういう生き物であり、端から見れば度し難いからこそ、魅力を感じる」


「あなたもそうなの?」


「さてな。今のワシは“壁役”なのでな。その英雄とやらに嫌がらせをするのがお仕事よ」


「なら、壁として、破壊されないようにね」


「死のうは一定いちじょう。はてさて、誰の言葉であったかな」


 久秀はその言葉を誰が言ったのかを覚えている。

 自分が一番嫌っている相手であり、同時に最も魅力的に感じる者の言葉だ。

 世界は狭すぎるゆえに、互いの野心がぶつかり合い、そして、自分が破れた。

 だが、それとてもはやどうでもいい事であった。

 なぜなら、“今”が楽しいからだ。


「愛は渇く。ゆえに九十九つくも


「満たされることなきいつを求めて、ね」


「あ、女神を我が物すれば、案外満たされるかも」


「ウダウダ言ってないで、さっさと行けぇ!」


 女神の蹴りが久秀の尻に炸裂し、なぜか笑いながら穴に落ちていった。

 同時に分身体ヒーサも穴へと飛び込んでいった。


「……おっと、忘れものよ~!」


 女神が被り、神力が溜まった鍋を穴に放り投げた。

 『不捨礼子すてんれいす』はベストクリアを目指す際のキーアイテムであり、これがなくてはフラグが立たないようになっていた。

 ちゃんと久秀の手元に届いたのを確認すると、女神は穴を閉じ、世界を起動させた。

 そして、百一回目となる演劇が始まる。

 今回はどんな奴がやって来て、どんな舞台となるかは役者次第だ。


「さて、茶でも飲みながら、見学させてもらいましょうかね。えっと、茶菓子は何にしようかな~♪」


 女神もまた、久秀との関係を楽しんでいた。

 いつか欠けたる一が満たされる事を、女神として導いてやれると考えながら。

 今日は少し濃いめの熱い茶を喉に通す。



          ~ エピローグ9に続く ~

気に入っていただけたなら、↓にありますいいねボタンをポチっとしていただくか、☆の評価を押していってください。


感想等も大歓迎でございます。


ヾ(*´∀`*)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ