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エピローグ1 上位存在

ここからエピローグになります。


エピローグは全9話。


今日中に全部更新かけますね。

 懐かしい光景が戻ってきた。

 そこは梟雄・松永久秀と女神(見習い)テアニンが最初に出会った場所、すなわち『時空の狭間』だ。

 地面はもとより、見上げる空もまた白い。そもそも空があるかすらわからない。

 どこまで見ても白かった。


「戻って来れたな。そして……」


 つい昨日のことのように覚えており、ようやく戻って来れたかと言う感覚もあった。

 横にいるテアも見慣れたメイド服姿ではなく、出会った頃の煌びやかな神衣へと変じていた。

 侍女メイドのテアから、神であるテアニンに戻っているようであり、女神も安堵のため息を吐き出していた。

 しかし、感傷にふけり、懐かしむ間などない。

 松永久秀は視線を真っ直ぐ向けた。

 そこには“四人”いた。

 溢れ出る神徳から、それは神だという事はすぐに認識できた。

 ただ違う点があるとすれば、一人は老人であり、他は若者の姿をしている事だ。


「上位存在様、お久しぶりでございます」


 テアニンも神衣に着替えているので、その実力は人間の及びもしない領域にあるのだが、その老人に対しては明らかにへりくだっていた。

 少し波打つ眺めの白髪に、ゆったりとした長衣ローブもまた純白であった。

 何より圧倒的な存在感と溢れ出る力、おまけに後光付きときた。

 上位存在、と呼ばれている高位の神というのは、久秀も知っていた。

 そもそも、先程までいた異世界『カメリア』は神々の試験場であり、テアニンのような見習いの神を鍛えたり、あるいは試験を施して実力を計るのが主目的の疑似世界である。

 そして、その管理者が上位存在だとも聞かされていて、今回の試験の監督官も務めているともすでに聞き及んでいた。

 それだけに、松永久秀は上位存在に対して怒っていた。

 ここに呼び出される事自体、明確な“規定違反”であるからに他ならない。


「おい、クソジジイ、こんなところに呼びつけておいて、何の用だ?」


 神々の中でもさらに上位の存在であるが、久秀にはそんな事など関係ない。

 露骨なほどに敵対的な態度を見せて、テアニンもそうだが、他の若い神も狼狽する姿を見せてきた。


「クソジジだと? 人間風情が粋がるな。何より、お前もまた“老人”ではないか」


「む……」


 言われるまで気が付かなかったが、久秀は日ノ本にいた頃と同じ老人の姿に戻っていた。

 

「ほう、この姿に戻すか。ヒーサの姿も結構気に入っていたのだが、やはりこちらの方がしっくりくるな。感謝するぞ、上位存在」


「ちょっと! 口の利き方には気を付けなさいよ! 私まで睨まれたらどうするのよ!」


 テアニンの怯え具合から、どれほど格が違うかも理解できると言うものであった。

 実際、溢れる神徳はテアニンを軽く凌駕しており、意志の弱い者であれば、見ているだけで気絶しそうなほどに眩かった。

 もちろん、久秀からすれば、単に“鬱陶しい”程度で済む話ではあるが。


「テアニンよ、色々とやらかしてくれたようだな」


「ひぃ、も、申し訳ございません」


 テアの動きは早かった。

 パッと一瞬で土下座である。

 久秀にも捉えられぬほどの速さであり、それだけに上位存在の圧倒的な力を感じさせた。

 どう足掻こうとも勝ち目のない存在である、と。

 だが、久秀にはそんなことなど関係なかった。


「女神よ、気にすることは無い。すべてはあのバカの失態から端を発しているのだからな、今回の一件は。お前が侘びる事など、何一つない」


 あまりにも堂々とした態度に、テアも他の神もただただ驚愕するだけであった。


「ちょ、ちょっとヒサヒデ、色々とマズいって!」


「いいから黙っていろ。先程も言ったが、これは“合戦”だ」


 久秀の雰囲気は間違いなく戦場に立つそれであり、テアも本気である事は理解できた。

 ただ、今回ばかりは相手が悪すぎると思えばこそ、止めようとしたのだが、久秀は構わずにグイグイ前へと押し進んだ。


「名前は良く分からんから、上位存在と呼ぼうか? それともクソジジイでいいか?」


「抜かしおるな、矮小な人間風情が。その気になれば存在そのものを消し去ることもできるのだぞ?」


「その手の脅しは効かんぞ。下らん腹の探り合いなんぞ抜きにして、お前の罪を質したいのだが?」


「罪だと? この私の? ますます気に入らんな」


「気に入る、気に入らないの問題ではない。神々のやり様に関する根本的な疑義だ」


「ほほう。それはそれで気になる内容ではあるが、人が神に何を言うのか?」


「決まっている。明確な規定ルール違反だ」


 久秀がこの言葉を発した瞬間、眉がピクッと動いた。

 やはりな、とほくそ笑む久秀はまだひれ伏していたテアニンを引っ張り起こした。


「女神よ、確認しておきたいのだが、あの世界は神々の試験会場、そういう認識でいいな?」


「ええ、そうよ。私みたいな見習いが、『カメリア』みたいな疑似世界に送り出されて、その能力を上役が見極めるのよ。訓練場、試験場、そういう世界がいくつかある」


 テアニンも何度も経験した事だ。

 訓練や座学に励み、必要な知識や技術を得る。

 しかる後に『カメリア』のような疑似世界に赴くのだ。


「疑似世界に赴いて、英雄と共に歩んでいき、神に相応しい振る舞いを身に付ける。そんな感じね」


「神に相応しい振る舞い!? あれがか!?」


「あ〜、はいはい、すみませんでした。神様っぽくなくて!」


「出会って三分と保たなかったからな。神徳と威厳がものの見事に全滅しおった」


「あなたがいきなり“ナンパ”してくるからでしょうが!」


「戦国男児の嗜みだ」


 かつての事を思い出し、テアニンは顔を真っ赤にした抗議の声を上げたが、久秀は笑い飛ばすだけであった。


「で、基本的には英雄と行動を共にし、目的を達成する。これでいいな?」


「そうよ。ヒサヒデとは“魔王の捜索・討伐”だったけど、探検の手助けだったり、内政系中心のミッションもあるわよ」


「なるほど、な。では、やはり規定ルール違反になるな。お前のやらかしだ」


 テアニンからの情報で確証を得て、久秀は再び上位存在を睨み付けた。

 テアニンは慌てて久秀の腕を引き、無礼な態度は慎めと無言で促したが、久秀はもちろん無視した。


「敢えて聞こう。なぜ試験を途中で止めた!?」


 久秀の問いかけに上位存在は、また眉を吊り上げた。


「テアニンよ、我らの仕事は“魔王の捜索・討伐”だ。だが、それの満たしているか?」


「満たしてない……、わね」


 何しろ、魔王と化したアスプリクと、仲良く“初宮詣”までやっていたのだ。

 とても“討伐した”とは言い難い状況であった。


「さらに女神に問う。ここ『時空の狭間』に呼び戻される事案としては、如何なるものがある?」


「ん~と、英雄ないし魔王が倒された。もしくは、何かしらの事情で擬似世界に危機的状況が発生し、強制退去せざるを得なくなったとかかな」


「で、ヒサコが世界崩壊まであと一歩まで計画を進めた時に、上位存在から何かしら一報はあったか?」


「ないわね」


「つまり、世界崩壊という危機的状況になりながらも、退避を選択しなかった。だが、“八百長”が始まった途端にいきなりコレだ」


「あ、そっか。本来ならもっと早めに退避をさせるか、今も素知らぬ顔で流すかしないと筋が通らない」


 テアニンも久秀が何に腹を立てているのか、遅ればせながら理解した。

 それは規定にない行動を取り、“八百長”という久秀の求めた状態を取り消してしまった事だ。

 これは久秀にとって、あの世界で散々苦労して作り上げた理想的状態を、規定にないにもかかわらず、握り潰された等しい。


「これは確かに、説明の必要がありそうですね」


 テアニンも不信感をあらわにし、上位存在を凝視した。

 あの世界でヒサコに捕らわれ、危うくそのまま世界の崩壊に巻き込まれかけたのだ。

 強制退避のタイミングとしては、あそこしかない。

 だが、上位存在は動かなかった。

 見ていなかった、ということはない。

 こうして呼び出された以上、観測していたのは明白である。


「沈黙は回答と見なさんぞ。さっさと答えろ、クソジジイ!」


 久秀の怒りは止まらない。

 その怒気は更に高まっていった。



         〜 エピローグ2に続く 〜

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