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第五十六話  決闘! 英雄と魔王の一騎打ち!(後編)

 雌雄を決するべく、対峙する英雄ヒーサ魔王ヒサコ

 互いの得物は、光り輝く刃と、燃え盛る炎の刃だ。

 両者の距離は二十歩以上空いているが、光と炎はすでにぶつかっており、軽くこすれ合う度に周囲の空気が張り詰めていき、肌に刺激や熱を感じるほどだ。

 しかし、この緊張の一幕であるが、なんとなしに“抜けて”いた。

 理由は明白。

 ヒーサの出で立ちだ。


「やっぱ、ないわ~。魔王との決戦に挑む英雄って絵面にならなきゃいけないのに、完全に外してるよ」


「う~ん」


 難色を示すアスプリクとティースの視線の先は同じだった。

 そう、ヒーサの“被っている”、無駄に輝く鍋であった。


「なんかこう、間抜けすぎるって言うのかな? 後々まで伝説として語られるような場面のはずなのに、あの珍妙不可思議な兜のせいで、何もかもが台無しになっている気がするんだけど!?」


「それには同意。いや、性能的には分かるわよ。でも、見栄えがね~」


 折角の英雄と魔王の対決が、“頭装備が鍋”で雰囲気ぶち壊しになっていた。

 いくら破格の性能とは言え、これでは本当に“喜劇コメディ”なのである。

 『不捨礼子すてんれいす』があるからこそ、本来戦闘向きでないヒーサの能力でも魔王と戦えるのだが、やはり“伝説の一幕”の目撃者としては物申したい気分になると言うものだ。


「ヒーサもさっき言ってたけど、本当にヒーサにとったら“喜劇”なんだろうね」


「人生楽しんでいるってのは間違いない。巻き込まれるこっちは迷惑だけど」


 暗殺、毒殺、なんでもござれな性格なのに、どこか“外して”笑いを取りに来るのは、数奇者としての救い難い性質サガとも言えた。


「ときにアスプリク、今の状態でヒサコに勝ち目はあるの?」


「どんな手段かは分からないけど、あるとは思うよ。いくら毒が回っているからと言って、今の行動は明らかに“無駄”が多すぎる。こういう場面だと、あれは“囮”だよ」


 アスプリクが注目しているのは、ヒサコを渦巻く炎だ。


「ヒーサの被っている『不捨礼子すてんれいす』は火属性に耐性がある。つまり、ヒサコのあの攻撃は通用しない。それは何度もやられている事だから、ここで『松明丸ティソーナ』を使ってくるのは明らかにおかしい」


「あの炎を煙幕代わりにして、視界を遮った上で斬りかかるっていうのは? 私はそれで皇帝ヨシテルを倒したわよ」


「おそらくはそれだろうね。でも、伏せてある札は分からない。あるとすれば……」


 チラリと二人はヒーサから視線を外すと、その先にはテアもなんとも表現しがたい複雑な表情を浮かべていた。

 いよいよ終幕フィナーレだというのに、どこまでも常識とは無縁な奴をここまで導いてきたもんだと考えてはいるものの、それでも最後くらいはビシッと決めて欲しい。

 そういう思いが顔に浮かび上がっていた。


(そうよね。もし逆転の一手があるとすれば、テアを再奪取しないといけないものね)


 ティースが考えるまでもなく、その点はこの場の全員が承知している事であった。

 それを理解しているので、テアにはマークとルルが張り付いていた。

 ヒサコがテアに対して仕掛けて来た際、それを妨げるのが二人の役目だ。


(あの二人が護っている以上、簡単にテアを奪い返すのは不可能。でも、ヒサコは諦めたようにも見えない“何か”を感じる。つまり、私が把握していない穴があって、それを狙っているとすれば?)


 それこそティースの気掛かりな点であった。

 ヒサコは諦めが悪い事を知っている。

 華々しく散るとは、到底考えられないのだ。

 ここで敢えて“逃げ”を選択しない以上、逆転の目がまだ潰されていない事の証左であり、ティースにはそれが思い浮かばなかった。

 チラッと横のアスプリクを見ると、何やら小声で詠唱をしているようで、視線と意識をヒーサに向けていた。

 左手で右手首をしっかりと押さえ、右手の中指と人差し指をヒーサ、と言うよりヒーサの剣に向け、それを強化しているようであった。


(生成系の術式で生み出した道具って、大抵は術者の手元から離れると、魔力供給が断たれて霧散する場合が多いって聞いてるし、それかな。テアの魔力を流し込んでも、生み出した術士はアスプリクなんだし、遠隔での安定化は難しいか)


 余計な手間だなと思いつつも、鞘に納めた自分の刀は貸すつもりのないティースであった。

 『鬼丸国綱おにまるくにつな』に宿る中の人ヨシテルの意思が、松永久秀ヒーサに使われるのをよしとしないからだ。

 ティースとしても、現在の使用者ではあるが力を借り受けている部分もあるので、この刀の意志を尊重していた。

 よくよく見渡してみると、近接武器を所持しているのは、自分だけであることにティースは気付いた。

 周囲全員が術士であり、遠距離戦を主体とする戦い方なのだ。

 それを埋める意味で、アスプリクは光刃ライトエッジを生成して戦っていたのだ。

 あとは、ヒーサの持つ“鍋”くらいであり、その辺りもヒーサが刀を貸してくれと提案してきたのだろうと、冷静な今だからこそ分かるのだ。


「では、準備もよろしいようですし、全力でいきますよ!」


 ヒサコはさらに魔力を上げ、それに呼応するかのように、炎の渦も勢いを増した。

 炎の竜が渦を成し、陽炎でヒサコの姿がぼやけるほどだ。

 一方のヒーサも輝く剣を構え、斬りかかれるように身構えた。

 その手に持つ剣はテアの魔力を得て更に巨大化し、斬馬刀もかくやという程の大きさにまで形作られた。

 炎をまといし魔王に、光り輝く剣を突き立てんとする英雄。絵画の題材モチーフとしては、これ以上に無い場面であるが、やはりそこは鍋のせいでどことなくズレていた。

 そんな英雄の武器である光刃ライトエッジであるが、それをちゃんとした形を維持するのにも苦労するのか、アスプリクも汗を垂らしながら術に集中していた。

 準備はすべて整った。

 場は、決着をつけるに相応しい舞台となった。

 ヒーサは深く呼吸をして、そして、決めにいった。


「いざ!」


 ヒーサは払い抜けを狙い、横に構えたままヒサコに突っ込んだ。

 それと同時に、ヒサコは炎を拡散させ、飛び散る炎をヒーサに浴びせた。

 しかし、ヒーサは一切怯むことなく炎に飛び込んだ。

 鍋のスキル〈焦げ付き防止〉により、火属性への耐性を得ているため、炎の渦も無意味であった。

 しかし、炎そのものや陽炎がヒサコの姿をぼやけさせ、距離や位置を掴めなくしていた。


「全解放!」


 ヒーサも当然、炎による攻撃を受け付けないにも拘らず、敢えて炎を出してきたヒサコの行動を読んでいた。

 光刃ライドエッジに注ぎ込まれた魔力を解放し、収束していた魔力を敢えてばらけさせた。

 剣としての形は失うも、強烈な魔力の奔流はそのまま残り、それを踏み込みながら横一閃に薙ぎ払った。

 斬撃と言うよりかは、巨大な丸太で殴り付けているようなものだ。


「我が双脚は時空を超える……」


 ヒーサの一撃が炎を吹き飛ばしながら迫る中にあって、ヒサコは冷静に術の詠唱をしていた。

 そして、魔力の揺らぎから、決闘を見ていたテアは気付いた。


「〈瞬間移動テレポーテーション〉を使うつもりよ!」


 テアの警告が発せられるとほぼ同時に、ヒサコの体が消えた。

 その一瞬後に、ヒーサの一撃がいなくなった空間を引き裂いた。

 ヒサコの〈瞬間移動テレポーテーション〉の方が僅かに早く、ヒーサの攻撃は空振りに終わったが、すぐに次の動作に移っていた。

 振り回した勢いそのままに、豪快に自分の後背に向けて回転撃を加えた。

 陽炎で視界をぼやけさせ、ギリギリまで引き付けてからの〈瞬間移動テレポーテーション〉で背後からの一撃。そう読んだのだ。

 だが、これも空振り。ヒーサの一撃は虚しく誰もいない空間を通り抜けるだけに終わった。

 ヒサコの飛んだ先は“そこ”ではなかったのだ。


「残念。狙いは最初からこっちだったのよ」


 ヒサコの飛んだ先、それは“アスプリクの背後”だった。

 術に集中していたアスプリクはかわす事も出来ず、背中からヒサコの突き出した剣によって貫かれた。



           ~ 第五十七話に続く ~

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