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第十話  解き放て! 囚われの姫君は解放される!

 囚われのお姫様を助けに来た者、儀式を完遂させたい者、双方入り乱れての戦いが始まった。

 ライタンの使った術式〈拡声メガホーン〉による奇襲が成功し、《六星派シクスス》の動揺を誘うことに成功した。

 中には鼓膜が破れたのか、明らかに激痛を堪えている者もおり、先手を取ったという意味においては大成功であった。


「邪魔ぁ!」


 真っ先に斬り込んだのはティースであり、自慢の愛刀『鬼丸国綱おにまるくにつな』を手にして、突っ込んでいった。

 その横をアスティコスの矢が飛んでいき、身もだえしていた狂信者の頭を打ち抜いた。

 さらに随伴していた兵士らもこれに加わり、早速乱戦状態に陥った。

 互いに声を掛け合い、同士討ちを避けつつ、次々と相手を見つけては斬りかかったが、そこはやはり数の差である。

 《六星派シクスス》は倍近い数が顔を並べているので、奇襲に成功したからと言って油断はできない。

 互いに精鋭同士のぶつかり合いで、一人、また一人と倒れていった。


「いいぞ~。頑張れ~」


「あんたねぇ……」


 戦いの輪には加わらず、空洞の外周部を大きく迂回し、コソコソ動いているヒサコは、無責任な声援を飛ばしつつ、目的にものに近付いていた。

 スキル〈暗殺の極意〉を初期スキルとして保持しているので、こうした隠密行動は得意であった。

 味方に戦闘は任せて、囚われのお姫様を救出するというのがヒサコの考えであり、後ろをついてきたテアは呆れるばかりであった。


「とはいえ、儀式妨害が最優先なんだし、とにかく迅速にアスプリクを解放するのは当然の帰結かしら」


「そういう事! ほら、さっさと行くわよ!」


 上手く敵を引き付けている内に、二人は入口とは逆方向に忍び寄り、周囲を警戒した。

 敵は全員、戦闘の中に加わっており、こちらを警戒している者はいないのを確認した。

 誘引は完全に成功しており、二人は一気に魔法陣中央の祭壇に駆け寄った。

 ヒサコは特に注目しなかったが、テアは足下にある魔方陣を読み解きつつ走った。


「この魔法陣、間違いなく魔王に関するものだわ! しかも相当魔力が溜め込まれているし、いつ魔王が目を覚ましてもおかしくないわよ!」


「そりゃ大変! さっさと片付けるわよ!」


 テアに促されるまでもなく、ヒサコは全速力で駆け、そして、アスプリクの元へと到着した。


「助けに来たわよ、アスプリク!」


 全力で走ったために少し息を切らしながら、ヒサコは衰弱している少女に話しかけた。

 アスプリクは袖のない黒いドレスを着せられていた。スカートには深い切れ込みスリットのあるもので、白磁のごとき四肢は鎖で繋がれていた。

 相当魔力を搾り取られたのかぐったりと消耗しきっており、汗で銀色の髪がべったりと肌に張り付いていた。


「ヒサコ、やっと来てくれたんだね」


「いや~、随分と待たせたわね。んで、前も言ったけど、白馬の王子様じゃなくてごめんね~」


「ああ、そう言えば、白馬を贈るとか言ってたけど、まだだったね。ここから出たら、今度こそ贈らせてもらうよ」


「あら、それは楽しみね」


 軽口を叩けるだけの余裕はあるようで、少し辛そうだがアスプリクは笑顔で応じてくれた。

 そこへ少し遅れてテアが到着し、すぐに周囲を見回した。

 そして、すぐに違和感を覚えた。


(あれ? でも、ちょっと待って。魔王の覚醒云々なら、カシンの言う“第三候補”って何よ?)


 よくよく考えてみれば、魔王の魂を受け止め、絶対悪の存在を醸成する“器”が見当たらないのだ。

 設定上、この世界の誰かに魔王の魂が下ろされ、それが覚醒し、長じて魔王となる。

 しかし、この空間にはそれが欠けていた。

 なにしろ、この祭壇の上にいるのは、女神じぶんと、英雄ヒサコと、生贄アスプリクしかいないのだ。


(え? 誰が魔王になるの? あたしは違う。だって女神だもの。なら、ヒサコ? ……ううん、これも違う。だって松永久秀は以前、《魔王カウンター》で魔王の適性を調べた時に、違う事が判明しているわ。なら、やっぱりアスプリクが魔王なの? にしては、魔力を絞り出している点が解せない。むしろ、無理やり覚醒させるなら、魔力は集約させるのであって、絞り出すなんて真逆の事をやるはずがない)


 何かの情報が欠落している。

 倒したはずの黒衣の司祭カシン=コジのニヤつく顔が、不意にテアの脳裏に浮かんできた。

 なにかしらの置き土産があるはず。そう考え、さらに見回す範囲を広げた。

 そして、すぐに気付いた。

 空洞の最も奥まった場所にもう一つ祭壇、と言うより神棚ララリウムがあり、手で掴めるサイズの石像が置かれていた。

 材質や光沢具合から黒曜石であることは分かったが、それを石像に仕上げるなど、なかなか優れた研磨技術と言えた。

 だが、それ以上にテアを驚かせたのは、その石像の姿が“自分テア”に酷似した姿である事に気付いたからだ。


(あれは私!? 私の石像!? なんで!?)


 なぜ自分の黒い石像がここにあるのか?

 名も無き“闇の神”を奉じている《六星派シクスス》の拠点に、自分が祀られているのか?

 テアは今まで感じた事のない寒気を、全身で感じる事になった。


「待って、ヒサコ! 何かがおかしい!」


「おかしいのはこの世界そのものよ。バグっているって言ったのは、女神様じゃなかったっけ?」


「それはそうだけど、とにかく迂闊に動かないで!」


 テアは更なる気付きを求めて視界を縦横無尽に動かした。

 情報の収集と解析を行い、それに基づいて英雄に指示を飛ばすのが、神としての役割だ。

 それを今まさに全力で行い、観察と思考を交互に行った。

 その際、なおも激突が続く戦闘の輪に目が止まった。

 そして、見た。斬られて倒れた狂信者が、一瞬自分に視線を合わせ、ニヤリと笑った事に。


(気付いている!? 連中、私やヒサコが祭壇に近付いて、生贄アスプリクを連れ出そうとしている事に気付いている!? なら、なんで!?)


 気付いているにもかかわらず、儀式を妨害しようとするこちらを妨害しようとしない。

 ならばそこに理由があるはずだと、全力で頭を働かせた。


(さも儀式の真っ最中と言うのは、ただの見せかけ!? と言うか、そもそも論として、魔術的な開錠が必要な隠し拠点を設えているのに、こっちが侵入した事にも気付かずにいる点で妙なんだわ! なら、今の状況はあちらが望んだ事!?)


 では、そもそも現状は何を意味するのだろうか、とテアはさらに思考を進めた。


(《六星派シクスス》を除いて、私でなければ開けられない隠し扉があり、私をかたどった石像があり、邪魔者が一切いない状態で“神”と“英雄”と“生贄”だけが祭壇の上に存在する。それの意味するところは……)


 今まで無数に散らばっていたパズルのピースが一気に組み上がり、ぼやけていた全体像が見えてきた。

 カシンの置き土産は確定し、とにかく動くなとテアの頭の中で警報が鳴り響いた。


「ああ、ダメだこりゃ。手枷の鍵が開かないわ。マークがいれば開けれたのに、いないものは仕方ないよね。なら、鎖を焼き切りますか」


 ヒサコは腰に帯びていた愛用の炎の剣『松明丸ティソーナ』を鞘から抜いた。

 アスプリクの四肢を拘束していた手枷、鎖をどうする事も出来ず、いっその事焼き切ってしまおうと考えたためだ。


「待って、ヒサコ! 魔力を活性化させたらダメ!」


 だが、テアの警告は遅きに失した。

 焼き切れという意思の元に、ヒサコの持つ剣が炎を帯び始めた。

 通常の剣であるならば、鎖を断ち切るのは難しいが、炎を帯びたこの剣であるならば話は別だ。

 火の神の申し子たるアスプリクの作り上げた魔力の剣に、女神であるテアの力が流し込まれ、それを英雄が使う。

 まさに今この場の“三位一体”が成された。

 その瞬間であった。

 テアは意識を失いかけるほどの衝撃を頭に食らい、危うく昏倒しかけた。

 脳天に巨大なハンマーを叩き込まれたほどの衝撃であり、同時に自分の体から魂が抜け落ちるような感覚に襲われた。

 急に力が入らなくなり、膝をついて、そして、見上げたその視線の先にはまさに剣を振り下ろさんとするヒサコの姿があった。

 そして、機械的な音声が頭の中で鳴り響いた。久しく聞いていなかった、レベルアップの時と同じ声だ。



                    ***


 スキル強制発動!


 スキル強制発動!


 個体名“ヒサコ”がスキル〈自律〉を発動しました!


 これ以降、個体名“ヒサコ”は自律し、一切の強制力が働かなくなります!


 繰り返します!


 個体名“ヒサコ”がスキル〈自律〉を発動し、自律しました!


 今後は一切の命令を受け付けません!



                    ***



 そして、ヒサコの持つ燃え盛る剣が振り下ろされた。

 その先はアスプリクの“首”があった。

 少女を縛る鎖ではなく、首を跳ね飛ばす事により、それは解放された。

 少女アスプリクにとっては“死”という名の解放が、悪役令嬢ヒサコにとっては“自律”という名の解放が、その一振りによってなされた。

 テアが見つめるヒサコは、お気に入りの少女の首を跳ね飛ばしたというのに、満面の笑みを浮かべていた。



            ~ 第十一話に続く ~

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ヾ(*´∀`*)ノ

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