第七話 捜索! 敵の拠点を探し出せ!
『影の湖』での捜索は難航を極めた。
まず面倒なのは、やはり瘴気を含んだ霧だ。
腕利きを揃えていくつも探索隊を組織したものの、やはり術士の数が絶対的に少なかった。
体力はゴリゴリ削られ、特に湖に近付けば近づくほどに濃くなり、視界も悪かった。
それを補う意味でも、毒消し薬はふんだんに用意したのだが、凄まじい勢いで消費し、追加の発注をしなくてはならなかったことだ。
そして、次に怪物の存在だ。
まともな生物は存在しないが、こんな悪環境下でも適応した存在はいた。
というより、長年瘴気を吸い続ける事により、異形の存在として成り果てて、ここを住処とするようになったようであった。
巨大な蜘蛛であったり、多眼の魚であったり、あるいはそれらの犠牲になったであろう屍人や動く骸骨であったりと、多種多様な住人からの歓迎を受ける事となった。
「王都が近かったのが唯一の救いかしらね」
あまり芳しくない捜索の状況報告を聞きながら、ヒサコはそうぼやいた。
なにしろ、湖のある場所は聖山からそれほど離れていない場所であり、その麓まで出れば王都へ続く街道もあった。
馬車で急げば半日ほどで往復できる距離であり、早馬を飛ばせば三、四時間程度だ。そのため、薬や食料の補給と言う点ではどうにかなった。
「しっかしまあ、ここまで苦労するとはね。ライタン、あなたがここに来た時もこうだったの?」
「いいえ、そもそも目的が違います。私がここに来たのは、あくまで“領域外”に漏れ出た瘴気の浄化や、あるいは怪物達の討伐が目的ですから。“領域内”に長時間留まり、何かを探すなどと言う事は初めてですよ」
ライタンは『影の湖』の経験者であったが、深入りはしたことがなかった。
だが、外周部だけとは言え、中の危険極まる状況はなんとなしに把握しており、だからこそ準備は怠るなと何度も念を押してきたのだ。
それはまず正解であったが、想定以上に困難であった点は否めなかった。
「まあ、そうよね。てか、今まで教団はここの完全浄化をやろうとしなかったの? 自分の足下に毒の発生源があるなら、まず対処するでしょう?」
「するわけないでしょう。大事な収入源なのですから」
「あ~、そっか“お布施”か~」
「危険な霊地の掃除は教団の大きな収入源です。まして、人口の多い王都圏内の危険地帯ですよ? 教団の総力を挙げて犠牲を厭わず浄化するよりも、“集金装置”として残しておいた方が、教団側にとっても有用だったというわけです」
「とことん腐ってるわね~、教団幹部は。あなたやアスプリクが教団に見切りをつけるわけだわ」
改めて聞かされて、ヒサコは元より、ティースやアスティコスも呆れ顔になっていた。
まともな人材ほど、教団の腐敗ぶりが目につき、中央から身を引こうとする。
結果、腐敗に順応した高位聖職者だけが、聖山での要職を占めるという悪循環だ。
これでは改革など望むべくもなく、人心が離れるのも無理はなかった。
「どうしようもない連中ですね。なにもこの毒気に順応したのは、怪物ばかりではないということですか」
ティースとしても吐き捨てる思いだ。
そもそも、それほど信心深い方ではなかったが、それでもカウラ伯爵領内にあった神殿に足を運び、週に一度くらいは顔を出して、お祈りを捧げていたほどだ。
ちなみに特にお祈りをしていたのは地の神ホウアであり、その加護を受けたるマークの事がバレませんようにと願っていたのだ。
今となってはその心配もなくなり、大手を振って世間を歩けるようになったが、この点だけは夫ヒーサに感謝していた。
不純な動機があっての教団改革だが、その恩恵を受けたのは間違いなかったからだ。
そんな思い思いの考えを巡らせつつ、吉報を待っていた本営に急使が駆け込んできた。
探索に出ていた兵士の一人だ。
「申し上げます! 異教徒が潜んでいると思われる隠匿された入口を発見しました!」
「おお、でかしたわ! これで次の段階に進めるわね!」
報告を受けた一同は色めき立った。
いよいよ最後の総ざらいであり、アスプリクを救出するときが来たのだ。
「やれやれ、やっとか。待たせ過ぎよ、まったく」
アスティコスはすでに身支度を終えており、いつでも出発できる状態になっていた。
他の面々もそれぞれの得物を手にし、先程までの和やかな会話ムードを打ち切って、闘志に火を着けた。
なにしろ、これから乗り込むのは〈六星派〉の拠点である。注意しても、し過ぎることは無い場所だ。
「じゃあ、連絡要員を残し、他全員は出発しましょう。とにかく、敵の本拠地なんだし、どんな罠が仕掛けてあるか、あるいは待ち伏せしている可能性もあるし、気を引き締めてね」
ヒサコに促されるまでもなく、全員がそのつもりであった。
選び抜かれた精鋭の中の精鋭であり、戦士、術士としても一級品揃いだ。
「カシンの言葉が嘘で、儀式が完了してない事を祈りますか」
「お姉様、希望的観測が過ぎますわよ。ああいう鬱陶しい性格の相手は、自らの優位性が確立した時、これ見よがしに自慢してくるものですよ」
「いい性格してるわ。あんたといい勝負よ」
「お褒めに預かり光栄ですわ♪」
「褒めてない。ウダウダ言うと、顎を砕いて、その開いた口が塞がらないようにするわよ」
「それは困りますね~。痛いのは勘弁してほしいです~」
ヒサコとティースは相変わらずの軽口を叩きつつ、結界を張っていた安全な陣所を飛び出し、瘴気漂う重々しい空気の中へと身を投じた。
ヒサコはスキル〈毒無効〉があるのでどうということは無かったが、ティースはそういう訳にはいかなかった。
事前に毒消し薬を歯に仕込み、瘴気に対する備えはしていたが、それでもかなり体に負荷がかかって来るのを感じていた。
他の面々も同様で、薬や浄化の術式を使い、周囲を警戒しながら報告のあった場所へと向かうのであった。
~ 第八話に続く ~
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